SDGsインタビュー
2022.08.31
【建設✕SDGs④】急速に普及が進む水中ドローン〈前編〉黎明期だからこそエキスパートの育成が急務 建設業界でも注目度が高まっている水中ドローン。近年よくその名前を聞くようになったが、実際にどのようなことが可能なのか。一般社団法人日本水中ドローン協会 事務局次長の大手山弦(おおてやま・げん)氏に、水中ドローンの可能性や普及の現状などについてうかがいました。

2021年は"水中ドローン活用元年"
――近年脚光を浴びている水中ドローンですが、そもそも水中ドローンとは何を指すのですか。
実は明確な定義はありません。一般的には遠隔操作で潜水可能な無人探査機、ROV(Remotely Operated Vehicle)のうち、人間が持ち運びできる小型のものを指します。海外ではアンダーウォーター・ドローン(Underwater Drone)と呼ばれたりもします。潜水深度は300m程度、重量は70kg以内、全長は1m程度まで。基本的な機能として、有線で遠隔操作が可能であることが挙げられます。機体には航行制御装置(フライトコントローラー)、姿勢角センサー(3軸ジャイロ)、方位計(コンパス)、圧力センサー(深度計)、推進器(スラスター)などが搭載されており、機体の制御が可能です。深度、方位、姿勢など、機体情報をリアルタイムに確認でき、カメラ・LEDライトなどを搭載することで、水中の様子を観測することができます。
2022年4月に北海道・知床半島沖で観光船が沈没するという痛ましい事故がありましたが、船内捜索や引き揚げに関わる作業に水中ドローンが使われたのは記憶に新しいところですね。
――水中ドローンは、いつ頃から市場に出回るようになったのですか。
「水中ドローン」という単語が日本で使われ始めたのは、2018年頃です。2019年が「水中ドローン元年」と位置づけられており、2020年にはオプションでアームなどが付けられるようになり、2021年はさらにオプションのバリエーションが増えたことで「水中ドローン活用元年」と言われています。
現在、日本国内で販売されている水中ドローンは、10タイプほどあります。中国のメーカーがリードしていますが、日本にも茨城、神奈川、和歌山にメーカーがあり、アメリカや欧州にも存在します。特に国内で供給が伸びているのは中国製のものが多く、価格は数十万円から導入できるものもあります。
ライセンスの発行は啓もう活動の一環
――水中ドローンを操縦するのに資格は必要ですか。またどこでも潜らせることが可能なのでしょうか。
今のところ、自動車の運転免許のような国家資格・免許はありません。代わりに、一般社団法人日本水中ドローン協会が発行するライセンスのように、技能や知識を証明する民間資格が存在しています。
空中ドローンは飛行させる上で、航空法や小型無人機等飛行禁止法などの法律・規制・条例によって厳しく制限されています。対して水中ドローンは、水中ドローンそのものを制限する法律・規制・条例はまだありません。だからと言って「誰でも、いつでも、どこでも使える」と勘違いされると危険です。個人がレジャーで使用する場合でも、気がつかないうちに自治体の管理区域に入ってしまう可能性があります。漁業権があるエリアでは、漁業組合への問い合わせが必要です。指定海域における工事や作業で水中ドローンを使用する場合は、届出が必要になります。
――そういったお話を聞くと、日本水中ドローン協会の存在意義が明確になりますね。
日本水中ドローン協会は、以下の4つを目的に2019年4月に設立されました。
①新たな水中・海中ビジネスの主役となる水中ドローンのエキスパートの育成
②水中事業の環境整備・発展・成長への挑戦
➂水中ドローン利活用の情報配信・課題解決・提言・研究
④関係団体及び監督官庁等とのネットワーク構築
海の豊かさを守りながら水中ドローンを正しく普及させるためには、特に人材育成や啓もう活動が急務と考えたわけです。そこで長年、無人探査機の研究開発に携わり、深海環境における電磁物理を研究する水中ロボットの第一人者である、国立研究開発法人 海洋研究開発機構の吉田弘(よしだ・ひろし)氏をはじめとした各方面の有識者の方々に顧問を依頼し、日本初となる水中ドローン操縦者の技能認定を行うための講習プログラムの監修や助言もいただきました。
――水中ドローンのライセンスに関して、もう少し詳しく教えてください。
当協会が行っている「水中ドローン安全潜航操縦士認定講習」は、水中ドローンを活用した水中事業の拡充に向けた人材育成のための独自の研修・受講プログラムです。水中ドローンの機能を理解したうえで、安全な操縦が一定のレベルに達していることを証明した資格が、「水中ドローン安全潜航操縦士」になります。この資格は1日の受講(座学と実技実習)および筆記試験に合格することで取得可能です。
当協会が行っているライセンスの発行は、操縦する人たちのモラルを向上させるための啓もう活動といった意味合いが強いですね。
――水中ドローン安全潜航操縦士認定講習は、どこで受講することができますか。
北は北海道から南は九州まで(沖縄でも開校準備中)、約50校の認定スクールで受講可能です。2019年12月の当協会の会員数は60人ほどでしたが、2022年には1,000人を超える見込みで順調に増えています。ライセンス取得者は当協会にも個人賛助会員としてご入会いただくため、会員の多くはライセンス取得者となります。
受講生の中には、潜水士の国家資格をお持ちの方が結構いらっしゃいます。水中ドローンが普及すると潜水士の仕事が減ると思われがちですが、実は違った解釈をすることができます。水中での作業に従事する潜水士は、すでに一定のスキルを持っています。作業や調査の勘所が分かっている潜水士が水中ドローンを操作すれば、的確に作業を行えるわけです。潜水士自身が潜らなくてよいため、安全かつ体への負担を軽減できる点も大きなメリットです。
水中ドローンを活用することで、マリコンや海洋建設に関わる潜水士が1日に点検できる時間も増えますから、現場の省力化と効率化にもつながります。
※記事の情報は2022年8月31日時点のものです。
- 大手山弦(おおてやま・げん)
一般社団法人 日本水中ドローン協会 事務局次長。「水中ドローン安全潜航操縦士」の人材育成をはじめ、水中ドローンの利活用を含めた普及活動や行政・自治体との意見交換なども積極的に行っている。また同協会の認定水中ドローンスクールの開校支援や講師養成も担当し、全都道府県での開校を目指して活動している。イベント企画においては、全国で開催している【水中ドローンで知る「私たちの海」】を含めた、多くの水中ドローン関連イベントも手掛ける。
後編へ続く