2022.01.12

【建設✕SDGs①】循環型社会に貢献する「次世代コンクリート」〈後編〉廃棄食材から作る「食べられる建材」 建築物や構造物を造るときに不可欠な存在の1つがコンクリートです。しかし、現在流通しているコンクリートの多くはその製造過程で大量のCO₂を排出することから、環境負荷を軽減するための取り組みが欠かせません。前回に続き、環境に配慮した「次世代コンクリート」の研究を進める東京大学生産技術研究所の酒井雄也(さかい・ゆうや)准教授に、最新の研究や新しいコンクリートがもたらす未来について、お聞きしました。

前編はこちら

【建設✕SDGs①】循環型社会に貢献する「次世代コンクリート」〈後編〉廃棄食材から作る「食べられる建材」

植物を原料とする「ボタニカルコンクリート」

――前編では、コンクリート瓦礫(がれき)や砂からコンクリートを作る技術についてお聞きしました。酒井先生は、そうした無機物を素材にするだけでなく、植物などの有機物を活用したコンクリートの研究もしていらっしゃいますね。


砕いたコンクリートに圧力をかけて固めるコンクリートのリサイクルは、ものすごく大きな力が必要となります。もう少し小さな力でコンクリートを作れないかと考え、植物を混ぜて作る「ボタニカルコンクリート」の研究を始めました。


コンクリートの粉と木材から採った木粉を1対1の割合で混ぜ、加熱・加圧すると固めることができます。木粉に含まれるリグニンという成分が接着剤の役割を果たし、固める際の圧力を下げることに成功しました。木粉だけでなく、お茶の葉やマイクロプラスチックを集めるときに収集された海洋植物を粉にしたものでも代用可能です。プレスする装置さえあれば作ることができます。


右から木粉、お茶の葉、海洋植物を混ぜて作った「ボタニカルコンクリート」右から木粉、お茶の葉、海洋植物を混ぜて作った「ボタニカルコンクリート」


――ボタニカルコンクリートは、建材としてどのような特徴があるのでしょうか。


強度はコンクリートや木材と同等かそれ以上あります。いっぽう、耐久性には少し課題があります。既存のコンクリートよりも劣るので、撥水(はっすい)剤を塗ったり、薬剤を染み込ませたりして使うことで、耐久性を確保できると見ています。


ただ、ボタニカルコンクリートは既存のコンクリートのリプレイスとして考えている素材 ではありません。数十年にわたって使うというよりも、例えば万博のパビリオンのような一時的な建築に使うことを想定しています。使用後は壊して砕けば、リサイクルすることができます。短期的かつ持続的に使うことができる、循環型の素材です。




100%食材から作った建材

――お茶の葉からもコンクリートを作れるというお話がありましたが、先生はさらに食材を使った建材の研究でも成果を挙げていらっしゃると聞きました。


はい、食材のみを使った建材の研究を進めています。一定の温度と圧力をかけることで、廃棄食材から建材を作ることができます。作り方も簡単で、粉砕した食材の粉を型枠に入れて、熱しながら圧力をかけると数分で完成します。


幅広い食材を素材として使うことができます。白菜、小松菜、ニンジンといった野菜はもちろん、カレー粉にじゃがいもやニンジンなどを混ぜたカレーでも建材ができます。面白いところでは、カップ麺を粉にした建材も作ってみました。研究室の学生が、いろいろな素材でチャレンジしてくれています。素材によって特性があり、例えばトマトで作った建材は弾力性があってぐにゃっと曲げることができるので、ゴム代わりに使うこともできそうです。


右上から時計回りにオレンジ、トマト、小松菜、カボチャ、カレー、ニンジン、小松菜、カップ麵を原料とした建材。もとの素材の色がそのまま生かされている。お金をかけて廃棄処理されていた食材を引き取って活用すれば、コストはそれほどかからないという右上から時計回りにオレンジ、トマト、小松菜、カボチャ、カレー、ニンジン、小松菜、カップ麵を原料とした建材。もとの素材の色がそのまま生かされている。お金をかけて廃棄処理されていた食材を引き取って活用すれば、コストはそれほどかからないという


――これらは食べられるのですか。


100%食材でできているので、食べられます。茹でる必要があるものもありますが、小さいサイズなら口の中に入れておけば溶けていきます。白菜を原料にした強度のあるものでは、30cm四方の板も作ってみました。避難所などの建材として使えば、支援物資の届かない災害時に「建物を食べる」こともできます。建材として使うにはいろいろな基準をクリアする必要がありますが、保存食としての可能性も秘めています。


現在は、課題の1つである耐久性についての研究を続けています。防虫を考えると、強力な薬品を使えば効果は高いですが、例えば唐辛子を塗るなど、環境負荷の低い方法を探っているところです。元々廃棄されていた食材を活用しているので、あらゆる角度から環境負荷の低減を追求したいと考えています。


白菜を原料とする建材。右側が30cm四方の板白菜を原料とする建材。右側が30cm四方の板




持続可能な建設業界を目指して

――昨今のSDGs(持続可能な開発目標)に関する意識の高まりが、研究に及ぼしている影響はありますか。


最近は、セメントやコンクリートの業界からの問い合わせが増えてきました。「セメントを使わないコンクリート」はセメント業界にとっては喜ばしい研究ではありませんから、1年ほど前までは、そういった業界からはほとんど問い合わせはありませんでしたが、今は歩み寄ってくださっていると感じています。セメントを作る際に使用する石灰石の粉砕装置は、コンクリートの粉砕でも使うことができるので、うまく共存していけたらと考えています。


砂・砂利の業界も新規の採掘が難しくなり事業継続に危機感を強めていることから、ボタニカルコンクリートなどに興味を持ってくださっています。SDGsがこれほど叫ばれるようになる前から研究を続けてきましたが、今はSDGsのゴールに照らし合わせて説明がしやすくなりました。


酒井准教授


――今後、研究を通して実現されたいことはありますか。


建設業界の課題の1つである人手不足の解消に貢献できたらと考えています。例えば3Dプリンターの活用など、建材の生産を自動化する仕組みを作っていきたいですね。


今研究しているコンクリ―トや建材の耐久性の向上も欠かせません。まずは小さな製品から実績を積み重ねて、ゆくゆくは大きな建物にも使用できるようにしていきたいです。


原料の調達においても、生態系を壊して資源を採ってくるのではなく、コンクリートのリサイクルや廃材の活用など、すでにあるものや、どうしても出てしまう素材をうまく利活用していきたいですね。環境保護の観点から、なるべくゴミを出さないことが求められる時代ですから、環境負荷を抑える研究を通して企業の活動を支え、循環型社会の実現に貢献していきたいと考えています。


※記事の情報は2022年1月12日時点のものです。

【PROFILE】
酒井雄也(さかい・ゆうや)
酒井雄也(さかい・ゆうや)
1984年生まれ、東京大学生産技術研究所准教授。2007年、豊田工業高等専門学校専攻科建設工学専攻修了。2011年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。その後、東京大学生産技術研究所で特任助教、助教、講師を経て2020年から現職。コンクリートの耐久性やリサイクル、コンクリートの代替材料などを研究している。
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