2022.05.17

i-Constructionを加速させるドローンの可能性 国土交通省が推進しているi-Constructionを実現する上で、もはや欠かせない存在になっているのがドローン。「なぜ建設現場にドローンが必要なのか?」「そもそもドローンで何ができるのか?」といった疑問を解消し、さらに今後の展望を探るため、ドローンのプロフェッショナルにお話をうかがった。

i-Constructionを加速させるドローンの可能性

i-Constructionの実現に欠かせない存在

国土交通省では、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICT等を活用する「i-Construction」を2016年度より本格的に推進。建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指している。3次元データを活用するための基準類を整備し、「ICT土工」を実施できる体制を整備しているわけだ。


また、国土地理院ではドローンを測量で使用できるようにするため、「UAV*を用いた公共測量マニュアル(案)」及び「公共測量におけるUAVの使用に関する安全基準(案)」を作成し、2016年3月に公表。「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」については、2017年3月に改正している。当然、これらの安全基準やマニュアルは、公共測量だけでなく、国土交通省が進めるi-Constructionに関る測量作業においても適用することが前提となる。*UAV:Unmanned Aerial Vehicleの略。無人航空機、通称ドローンを指す。


こういった流れを受け、アクティオでは2015年ごろよりドローンの可能性を模索。ちょうどそのころに出合ったのが、ドローンを開発するメーカーのエアロセンス株式会社だ。レンサルティング本部 道路機械事業部 ICTサポート課の日南茂雄課長は当時を振り返り、次のように語る。


日南「三重いなべテクノパーク統括工場ができたころなので、2015年ですかね。とある設計会社さんから『おもしろいドローンの会社がありますよ』とご紹介いただいたのが、エアロセンスさんでした。空中写真測量の分野で年間レンタルできる商品を模索していたので、渡りに船といった感じでしたね。この時は進展しませんでしたが、後に登場したエアロボマーカーは大いに活用させていただいております」


ドローン用対空標識兼GNSS受信機「エアロボマーカー」。国土交通省の新技術情報提供システムドローン用対空標識兼GNSS受信機「エアロボマーカー」。国土交通省の新技術情報提供システム"NETIS"の登録商品だ


エアロセンスは、2015年8月に現ソニーグループ株式会社と株式会社ZMPの合弁によって設立されたドローンメーカーで、翌年3月には自社開発ドローン「エアロボ」で法人向けソリューションの提供を開始。エアロボマーカーの販売開始は2017年7月だ。このエアロボマーカーの特徴を、エアロセンスの佐部浩太郎代表取締役社長にうかがった。


佐部「エアロボマーカーはGNSS機能を搭載した対空標識で、測量作業の負担を軽減する商品です。空撮しながらマーカーの位置もGNSSスタティック測位方式で計測できるため、現場作業を大幅に短縮できます。電源ボタンを入れるだけで使えるので、操作も簡単。小型軽量のため1人で持ち運び、設置が行えます。さらに国土地理院の基本測量用機種台帳に2級GNSS測量機器として登録済みのため、基準点測量用の測量機器としても使用できます」


このエアロボマーカーは現場でどのように活用され、省力化につながっているのか、日南課長に補足いただいた。


日南「土木も建築も含めて、i-Constructionでは空中写真測量で出来形を管理するのが主流です。本来であれば、マーカーを置いていろいろと作業しなければいけないのですが、このエアロボマーカーは置くだけでOK。あとはドローンで空撮した画像をウェブブラウザからアップロードして処理を開始するだけで、短時間で必要なデータを生成することが可能です。省力化という観点から言えば、従来とは比較にならないほど楽(らく)です。エアロボマーカーがなければ写真を1枚ずつ検査しなければいけませんし、写真が大量になるほどミスも起こりやすいですしね」


いいこと尽くめのエアロボマーカーだが、普及には壁もあるという。


佐部「まずはエアロボマーカーの存在を知ってもらうことが大事です。それから現場で働く方の意識改革も必要だと考えます。現場には、これまでの自分の仕事のやり方を変えることに抵抗がある方もいます。変えて失敗したらどうしようという考え方がありますから」


左:レンサルティング本部 道路機械事業部 ICTサポート課の日南茂雄課長、右:エアロセンス株式会社の佐部浩太郎代表取締役社長左:レンサルティング本部 道路機械事業部 ICTサポート課の日南茂雄課長、右:エアロセンス株式会社の佐部浩太郎代表取締役社長




無人化施工に適した有線ドローン

無人化施工、つまりオペレーターが重機を目視不能の離れた場所から遠隔操作するような現場においても、ドローンの俯瞰映像は欠かせない。重機同士の位置関係を正確に把握したり、細かな位置関係を修正したりするには、ドローンからの俯瞰映像が必須なのである。


エアロセンスでは、4K映像を空から低遅延伝送する帯域ドローン「エアロボオンエア」をリリースしている。この商品は防滴・防塵、軽量、30倍ズームでもぶれないジンバル機能といった特徴に加え、"有線"というドローンとしては異端の存在である。


4K映像を空から低遅延伝送可能な有線給電ドローン「エアロボオンエア」4K映像を空から低遅延伝送可能な有線給電ドローン「エアロボオンエア」


佐部「無線のドローンに線を付けたらもったいない......という声も聞こえてきそうですが、そもそも有線給電ドローンは、ドローンの開発テストの際にとても便利だったのです」


実はエアロセンスに出資しているZMPは自動運転技術を活用した車両やバス、1人乗りロボ、警備ロボ、宅配ロボ、物流ロボット、無人フォークリフトなど、ヒトとモノの移動を便利にするロボットを販売している企業で、その自動運転技術と自律飛行技術を組み合わせたら面白い、と考え生まれた商品が有線給電ドローンなのだ。


佐部「警備や点検にドローンからの俯瞰映像は欠かせませんでした。しかし、無線ドローンのバッテリーは20分程度しか持ちません。ならば自動運転車からドローンに有線で電力供給を行えば、動きながらずっと飛ばせるのではないかと考えました」


こうして誕生したのが有線ドローンのエアロボオンエアだ。長時間飛行が可能で、4K映像を非圧縮・リアルタイムで伝送できる特徴を生かし、当初はイベントなどの映像撮影に利用されてきた。それが建設現場に広がってきたわけだ。


日南「施工現場は一日中稼働していますから、長時間飛び続けられるドローンは有利ですよね。あと未舗装の現場が多いので、防滴・防塵なのは助かります」




屋内での活躍も期待

ドローンは屋外で活躍するイメージが強いが、屋内における利用も進みつつあるという。このあたりの最新情報を日南課長に聞いた。


日南「アクティオは株式会社竹中工務店、株式会社カナモト、株式会社センシンロボティクスと"BIM×ドローン"の共同開発を行っています。これはBIM上に設定した経路の通りにドローンを屋内飛行させるプロジェクトで、日本企業のドローンを使用しています。現状では機体に制限があり、映像を撮って障害物を認識するシステムを改善するために、非GNSS衛星環境下におけるドローン開発にも取り組んでいるエアロセンスさんに協力を仰いでいるところです」


佐部「屋外ではGPSの信号を拾えるため、地図データを利用できます。それを基にドローンの経路を決めるわけです。しかし、非GNSS衛星環境下ではGPSが使えないため、ドローンが撮影した画像を解析して障害物との距離を測定するしかありません。さらに建設現場ではBIMのデータがありますから、それが地図の代わりになる。これがBIM×ドローンの特徴で、弊社が行っているトンネルやタンカー内での実証実験では成果が上がっています」


では、実際にBIM×ドローンが製品化されると、現場にどのような変革をもたらすのだろうか?


日南「アクティオはレンタル用の機械や資材を保有しています。BIM×ドローンが製品化されることによって、その管理を省力化できます。例えば、高層ビル建設の現場。どの階のどこに何の機材・資材をレンタルしているかは、社員が赴き確認するしかありません。BIM×ドローンが実用化されれば、写真を撮り、その中に埋め込まれた位置情報でレンタル品の管理が行えるのです。ほかにも工事工程の確認、作業員が確認しにくい場所での検査といった利用シーンが想定されます」




ますますの発展が期待されるドローン

ドローンに対する期待は広がるばかりだが、課題も残されている。最後にその辺りのことや、今後の展望をうかがった。


佐部「よく言われるのは電池ですね。現状、数十分しか持たないため、これは改善の余地があります。リチウムイオンバッテリーでは限界があるため、例えば燃料電池を開発するといった抜本的な対策が必要になると思います。このほか、屋外利用のドローンでは、さまざまな通信規格への対応が必要になります」


日南「既にNTTドコモでは空のLTE化が始まっています。ドローン向けに上空におけるLTE通信プランの提供を、昨年7月から始めていますしね」


佐部「国土交通省では建設現場の遠隔臨場を進めていますね」


日南「公共工事の建設現場では、段階・材料確認など、立ち会いを必要とする作業があります。そのために現場サイドは監督官の到着を待たねばならず、結果として工事がストップしてしまうこともあります。これが高解像度のドローンを利用すれば、現場に監督官が行かずして遠隔で確認できるようになるのです」


佐部「遠隔臨場はエアロセンスが進めている文脈にマッチするため、弊社としても大いに期待しています」


日南「いずれにせよ、今後のドローン利用において、遠隔操作がキーになると思います。東京にいながら北海道のドローンを飛ばすとか、具体的なサービスを考えていきたいですね。そのためには安全の担保が必要です。例えば航空管制システムとか。ドローンを飛ばすだけでなく、その間のシステムも要検討ですね」


佐部「ドローンが必要な現場に、どのようなパッケージングで届けるかにも興味があります。ドローンのセットアップは結構手間が掛かるので、例えば専用車にインストールされたものを、そのまま現場にレンタルできたら利用価値が高いのではないでしょうか」


目覚ましい勢いで土木・建築の分野にも進出しているドローン。屋外に加え屋内での使用、さらに遠隔操作のより一層の普及など、今後の活躍にも大いに注目したい。


※記事の情報は2022年5月17日時点のものです。



〈ご参考までに...〉

屋内自律飛行システム搭載ドローン BIM×Drone(アクティオ公式サイト)

室内用ドローン(レンサルティングミュージアム)

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