2025.03.12

サステナブルな未来へ。最新技術が開く建機の"新世代"|建機の歴史⑨ 日本の国土開発、災害復興を支えてきた国産の建設機械を、それらが生産された時代背景とともに紹介する「建機の歴史」。明治時代の逸話から始まった本連載も、いよいよ最終回を迎えます。卓越した技術力と信頼性で世界を牽引する存在へと成長した日本の建機たち。令和の現在も、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)、クラウド、ロボットなどの最新技術を取り入れながら、進化を続けています。

文:萩原 美智子(ライター)

サステナブルな未来へ。最新技術が開く建機の"新世代"|建機の歴史⑨

東日本大震災。一日も早い復旧を目指し、全国から大量の建機が現地入り

2011(平成23)年3月11日14時46分、東北から関東にかけての広い地域を激しい揺れが襲った。マグニチュード9.0、最大震度7、巨大津波とも相まって甚大な被害をもたらした東日本大震災である。


それまでの災害時と同様、いち早く動いたのが建設会社や道路工事会社、建機レンタル会社などであった。多くの人員と建機が投入され、がれきを除去して自衛隊や警察、消防が現場に入る道を確保する道路啓開などが行われた。


電源や明かりを失った被災地では小型発電機と投光機も必要とされた。また、津波が引き、がれきが散乱するエリアには大きな建機が入っていけなかったため、当初は中小型のバックホーや2t、4tダンプなどが出動し、住宅の残骸や障害物を一つひとつ移動させながら空き地をつくっていった。




双腕の油圧ショベルなど特殊な建機もさまざまな現場に出動

被害が広範にわたり、しかも甚大であったことから、東日本大震災の復旧・復興作業は長期にわたった。全国から多種多様な建機が被災地に向かい、災害協定企業などからも多くの人員が派遣された。


被災地では独自の機能性を持つ建機も活用された。そのひとつが日立建機の「ASTACO NEO」だ。油圧ショベルをベースとした双腕機で、つかみながら切る、支えながら引き出すなど、従来の油圧ショベルにはできなかった作業を可能にし、がれき処理やコンテナの除去作業などを力強くこなした。


日立建機の「ASTACO NEO」(画像提供:日立建機)日立建機の「ASTACO NEO」(画像提供:日立建機)


被災地の墓地には、狭くて足場の悪い場所でも作業できる前田製作所の「MC104CW」(通称かにクレーン)が出動。倒壊した墓石の吊り上げ・再設置などを行い、被災した人々のご先祖様を思う気持ちに応えた。


また、陸上自衛隊による行方不明者の捜索や、家屋・立木などの木材がれきの処理が必要とされる現場では、普段は林業の現場で使われている諸岡の不整地運搬車や木材破砕機が能力を発揮した。




増え続ける自然災害。震災と豪雨被害を受けた能登半島では先端技術を駆使した復旧活動が継続中

東日本大震災の後も、2014(平成26)年の御嶽山噴火、2016(平成28)年の熊本地震、2018(平成30)年の北海道胆振東部地震、同年の西日本豪雨、2025(令和7)年の青森の豪雪災害など、わが国では人々の暮らしやインフラを脅かしたり、尊い命を奪うこともある自然災害が急増している。その中には地球温暖化による異常気象に起因するものも少なくない。


近年で最も被害が大きかったのが、2024(令和6)年元日に発生した令和6年能登半島地震であろう。しかも、同年9月には被災地の一部が線状降水帯による豪雨に襲われた。


この能登半島の復旧・復興にも、建機はあらゆる場面で活用されているが、大きな特徴は、後述するICT建機やドローンなど、最新の技術が活用されていることだろう。依然として能登の復旧作業は継続中であるが、これらの技術のおかげで、崩落現場や地震で隆起した海岸線の道路の中には復旧が効率的に進んだ例もあるという。




持続可能な社会の実現に向け、建機の世界でも電動化が加速する

環境問題に対応した建機には、連載第7回第8回でも触れているが、世界的な環境負荷低減のニーズは近年さらに高まっている。そんな流れを受けて、建機でも電動化が加速。持続可能な未来に向けた重要な一歩となっている。


そうした中、2024(令和6)年にザンビアの鉱山で試験導入されたのが、日立建機の「フル電動リジッドダンプトラック」である。高低差のある露天掘りの鉱山で、走る・曲がる・止まるといったダンプトラックの基本性能や、バッテリー充放電サイクルなどを検証。建設機械メーカーがクライアントの鉱山現場で、積載量150t以上の超大型フル電動ダンプトラックの実証試験を行うのは、世界初の試みであった(2024年6月現在)。


なお、ザンビアは再生可能エネルギーが豊富で、国内電力の大半を占める。環境意識の高まりを背景に、鉱山業界では温室効果ガスの排出を削減する取り組みが進められており、鉱山機械の電動化にも関心が高まっている。


日立建機の「フル電動リジッドダンプトラック」(画像提供:日立建機)日立建機の「フル電動リジッドダンプトラック」(画像提供:日立建機)


また、タダノは2024年、1,600tという世界最大級の吊り上げ能力を誇る超大型クローラクレーン「有線式電動 CC 88.1600-1」を開発した。ディーゼルエンジンから電動機に替えることで、従来と同等の性能を維持しながらクレーン作業中のCO₂排出量をゼロにすることに成功している。


タダノのクローラクレーン「有線式電動 CC 88.1600-1」(画像提供:タダノ)タダノのクローラクレーン「有線式電動 CC 88.1600-1」(画像提供:タダノ)




バッテリー技術が進化、ミニショベル「PC30E-5」が誕生

一方で、2000年代から進められてきた建機のバッテリー化は、稼働時間の短さ、高価格になることなどが実用化へのネックになっていた。


しかし、ここにきて技術が大きく進化し、2020(令和2)年にコマツ(株式会社小松製作所)からバッテリー駆動式のミニショベル「PC30E-5」が発売された。動力源に電源モーターを採用しながら、エンジン駆動式と同等の掘削性能を可能にし、排出ガスゼロと低騒音を実現した。さらに、2023(令和5)年に発売したフルモデルチェンジ機「PC30E-6」では、鉛のバッテリーから大容量のリチウムイオン・バッテリーに変更。「PC30E-5」と比較して、連続稼働時間*1を約20%延長し、重量は約25%軽量化、後端旋回半径は約30%短縮した。


*1 使用環境、使用条件、作業内容等により異なる場合があります。


コマツのバッテリー駆動式ミニショベル「PC30E-6」(画像提供:コマツ)コマツのバッテリー駆動式ミニショベル「PC30E-6」(画像提供:コマツ)




東京五輪に向けた都市整備が加速。横浜と渋谷の大規模再開発はいよいよ終盤へ

2013(平成25)年9月、国際オリンピック委員会(IOC)によって2020年の夏季五輪の開催地に東京が選ばれた。


開催に向けて、メイン会場となる新国立競技場が2019(令和元)年に完成。都内各所に点在する各競技会場の新設・リニューアル工事も着々と進められた。一方で空港・道路をはじめとしたインフラ整備も急増し、2015(平成27)年ごろから建設市場は活況が続いていく。


この時期の最も大きなプロジェクトのひとつが、2012(平成24)年、東京タワーに代わる新しい電波塔として、墨田区押上に完成した高さ634mの東京スカイツリーであった。


(画像提供:東武タワースカイツリー株式会社)(画像提供:東武タワースカイツリー株式会社)


再開発では、2014年に虎ノ門ヒルズが完成。2016年には、日経ビル・JAビルなど老朽化が進んでいた大手町のオフィスビル群の建て替えが完了した。換地(かんち)*2により建て替え用地を生み出すことで、事業を止めずに地域の更新をする「連鎖型再開発」という手法が用いられている。


*2 換地:土地区画整理事業やほ場整備事業などの事業において、従前の土地と引き換えて交付される土地。


また、長期にわたって進められていた2つの都市再開発が、いよいよ終盤を迎えようとしている。


ひとつは、工事が終わらないことから"日本のサグラダ・ファミリア"と呼ばれることもあった横浜駅西口再開発で、2020年の駅ビル・JR横浜タワーの完成をもってひと区切りがついた。もうひとつは、"100年に一度の大規模再開発"といわれる広域渋谷圏*3の再開発で、渋谷の新駅舎の開業を経て、2027(令和9)年には全てが終わる予定だ。


*3 広域渋谷圏:東急グループが、渋谷駅を中心とした半径2.5km圏内を「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」と定め、回遊性と魅力にあふれる「面」としてのまちづくりを進めている。




少子高齢化や働き方改革を背景に、建設業では労働力不足の問題が慢性化

大規模再開発や頻発する自然災害のために建設業へのニーズは増加しているが、近年、慢性的な問題となっているのが建設現場の人材不足だ。


現場を支える技能者は減り続け、全体のおよそ35%を55歳以上が占めるなど高齢化も進んでいる。一方で、「きつい、危険、汚い」「休みが取れない」といったネガティブ・イメージから若者の業界離れが進み、29歳以下は全体の10数%というのが現実だ。2024年4月、建設業界にも「働き方改革関連法」の「時間外労働の上限規制」が適用されたため、人材確保はますます重要な課題になっている。


(出典:総務省「労働力調査 建設業就業者の高齢化の進行」)(出典:総務省「労働力調査 建設業就業者の高齢化の進行」)




ICT建機やDX化。国交省の「i-Construction」が問題解決のカギとなるか

一般社団法人日本建設業連合会の試算によると、2014年度に全国に343万人いた技能者は2025年度に216万人となり、必要な人数に対して約90万人が不足するという。まさに待ったなしの状況だ。


そんな働き手の不足を埋めるのが、「生産性向上と省人化の技術」、女性や外国人を含む「新たな働き手の確保」である。


2016年、国土交通省は「i-Construction」という取り組みに着手した。ICTなどを導入して生産性向上を図りながら、働き手の賃金水準を上げたり、十分な休暇の確保を可能にしたり、安全な作業環境を構築していくことで、若年層や女性など、多様な人材が活躍できる業界を目指す。


それと並行し、建設業界では2020年ごろからDX化が推進されている。ICT建機、AI、クラウド、ドローン、BIM/CIM(3次元モデルの導入)、ロボティクス(ロボット工学)といったデジタル技術の戦略的な活用によって、仕事の方法やプロセスに変化を起こし、人手不足やナレッジ共有などの課題に対応する狙いがある。




国内初のICTシステムはコマツの「Smart Construction®」

これらの取り組みの中核にあるICT施工を国内で初めて実現したのが、2015年にコマツが提供を開始した「Smart Construction®(スマートコンストラクション®)」と総称する各種のソリューションであった。


同社では、油圧ショベル「PC200i-12」など内臓部品でICT施工に対応できる機種を用意しているが、他社製品であっても、後付けすればICT施工に対応可能となる3Dマシンガイダンスキットも販売している。


コマツの油圧ショベル「PC200i-12」(画像提供:コマツ)コマツの油圧ショベル「PC200i-12」(画像提供:コマツ)


ICT施工の一番のメリットは、運転に不慣れな若手オペレーターであっても、設計図面通りに地形を整えることが可能になる点だ。これは効率面だけでなく、建機の周りから作業者が減ることで、安全性の向上にも寄与している。


また、あらゆるデータを有機的につなぎ、測量から検査まで全てのプロセスを可視化できるのも大きなメリット。例えば、大規模造成工事などにおける運搬車手配や、その走路設置などの現場での検討要素についても、ベテラン職人の勘に頼るだけでなく、データの共有・分析による対応策を講じることも可能になる。


管理部門の担当者が現場に赴いて行っていた工程の節目ごとのチェックなども、今後はライブ映像とデータを活用した遠隔立会とすれば、省力化や時短に結びつくはずだ。


現在、各社は現場の無人化に寄与する遠隔操作、その先の自動化に向けて技術開発中である。ICT建機の遠隔操作は、デジタル・ネイティブ*4と呼ばれる若い世代の活躍が期待される分野といわれるが、操作性がよく、個人の体力の有無にもかかわらないので、女性が活躍することも大いに期待される。また、コロナ禍以降の"非接触"の推進にも遠隔操作は有効だ。


*4 デジタル・ネイティブ:生まれたときや物心がついた時点でインターネットやパソコンが身近にあった世代。




ドローンやロボットもさまざまな現場で活躍

前述の能登半島の道路の復旧工事でも活用されたのが、カメラやレーザースキャナーを搭載したドローンであった。山の斜面の工事なども同様だが、従来は足場を確保し、担当者がよじ登ってメジャーを使って行っていた測量も、ドローンを使うことで上空からのデータ収集が可能になり、作業の安全性・効率性が大きく向上した。


ロボットについていえば、建設業のロボットは製造業に比べて20~30年遅れているといわれてきた。その大きな理由が、工事が多種多様であること、現場でロボット自身が最適な立ち位置に移動することの難しさだったといわれる。しかし、GPSやAIの実用化が進んだことでそれらの問題が解決し、昨今は鉄筋結束、天井向け墨出し、資材運搬、床清掃など多様な作業に対応したロボットが登場している。




注目の再開発プロジェクトでますます高まる建機の存在感

2020年代に入っても大規模再開発の波は続いている。そのひとつが高輪ゲートウェイ駅周辺から品川駅一帯にかけての再開発である。2025年3月に"まちびらき"が行われる「TAKANAWA GATEWAY CITY」、品川駅の港南口(東口)におけるリニア中央新幹線の駅の建設や、高輪口(西口)一帯の広範囲の再開発が進められており、2028(令和10)年〜2036(令和18)年にかけて完成していく予定だ。


品川開発の一環として進むプロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY」のイメージパース(画像提供:JR東日本)品川開発の一環として進むプロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY」のイメージパース(画像提供:JR東日本)


2024年には、「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」が着工された。東京駅八重洲口の目の前で3つの巨大な再開発が同時進行しており、2029(令和11)年に全て完成することになっている。


東京をはじめとする全国各地のさまざまな建設現場で今日も力強く働いているのが、日本が誇るさまざまな建機だ。戦前戦後の黎明期、その始まりは海外製品の模倣であったが、開発者やオペレーターたちの英知と経験と挑戦する心が、いつも新しい技術の扉を開いてきた。令和から未来へ、次なる進化にも期待が高まる。




東日本大震災で、アクティオは津波で損傷した発電機の再生に挑戦。研究開発や情報発信の新拠点もオープン

2011年の東日本大震災では、アクティオも東北地方の3つの営業所が津波により建物ごと壊滅し、仙台工場なども営業ができないほどの状況に陥った。


それら被害を受けた拠点への対応を進める一方、自治体との災害協定に基づく災害支援活動も開始。被災地への機材や仮設トイレなどの供給や人員の派遣を行った。


避難所や復旧現場で、一刻も早く必要とされながら調達がままならなかったのが発電機であった。そこで、アクティオが挑戦したのが、「津波で流され損傷した発電機を直して使えるようにする」ということであった。


海水と泥に浸(つ)かった発電機を部品単位に分解・洗浄し、組み立て直す。初めてのことであったが、この挑戦が成功し、数多くの発電機を避難所や復旧現場へ届けることができた。


その後も被災地の復旧対応に尽力するとともに、福島第一原子力発電所から約20kmの地点に拠点をつくり、津波で深刻な事故が起きた発電所の事態収拾にあたる関係機関への支援にも力を注いだ。


震災から2年後の2013年には事業持株会社である「株式会社アクティオホールディングス」を設立し、より機動的にレンサルティングを提供できる企業を目指していくことになる。


次なる成長を見据えて研究開発にも力を入れ、新たな拠点として2012年に千葉県山武(さんむ)市に「千葉テクノパーク統括工場」を、2016年には東京都江東区に「東京DLセンター」を開設。レンサルティングの高度化に欠かせない、IoTを活用した先端技術の研究開発などを進めていった。


レンサルティングの中核拠点でもある「東京DLセンター」レンサルティングの中核拠点でもある「東京DLセンター」


2017(平成29)年、アクティオは設立50周年を迎えた。この節目に創業者の小沼光雄は代表取締役会長となり、長男の小沼直人が代表取締役社長に就任した。


2022(令和4)年には東京・日本橋にある本社1階に、アクティオショールーム「レンサルティングスタジオ」を開設。これまで以上に多彩な情報発信を行いながら、お客様や地域社会とのコミュニケーションを深めている。


アクティオショールーム「レンサルティングスタジオ」のエントランスアクティオショールーム「レンサルティングスタジオ」のエントランス


取材協力(敬称略):一般社団法人日本建設機械工業会、株式会社小松製作所、株式会社タダノ、日立建機株式会社


主要参考資料:「日本建設機械工業会30年の歩み」(一般社団法人日本建設機械工業会、2020年)


※記事の情報は2025年3月12日時点のものです。

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