2026.01.14
19分野35人のプロが、「土木の仕事」のリアルをつづる「土木の仕事ガイドブック 日常をつくるプロフェッショナル」―柴田久さん【自著を語る⑬】 「自著を語る」では、土木や建築を愛し、または研究し、建設にまつわる著書を出されている方に、自著で紹介する建設の魅力を語っていただきます。第13回は、国家公務員やゼネコンから、インハウス・研究職まで、19分野35人のプロフェッショナルたちが執筆し、日常を支える"土木の仕事"をリアルに描き出した「土木の仕事ガイドブック 日常をつくるプロフェッショナル」をご紹介。著者であり編者である柴田久(しばた・ひさし)福岡大学工学部社会デザイン工学科教授に、本書に込めた思いや編者としてのこだわりについてうかがいました。
写真:大塚 紘雅

土木の多様な仕事の実態を多くの人に届けたかった
──まずは、本書をつくった経緯について教えてください。
私は、福岡大学で景観や公共空間のデザイン、まちづくりを専門に教えています。4年生以降は研究室で学生の研究テーマを一緒に深めるゼミを持ち、大学院でも景観に関する授業を持っています。
そうした立場もあり、これから、土木の業界を目指す高校生や土木についてあまり知らない人に、「土木という仕事がどのようなものか、正確に伝わっているのだろうか」という思いが以前からあったんです。建設業は昔から「3K(きつい、汚い、危険)」と言われ、未だにそのイメージも残っていますが、実際にはもっと創造的でクリエイティブな仕事がたくさんあります。
そうした実態と土木という仕事のやりがいを、もっと正確に届けたいと思っていました。加えて、この業界において同じ思いで奮闘している方々の活躍を、多くの人に知ってもらいたかったこともあります。それが制作の出発点です。
土木の仕事は「現場」というイメージがあるかと思います。その他にも各分野の専門的な知識を生かして、関係者の間を調整する役割も大きく、デスクワークが中心の仕事もありますし、女性が活躍している職場も多い。そうした「実像」を、まず知ってもらいたいと思いました。

──その思いがあったからこそ、この本では実際に土木の仕事に携わっているプロフェッショナルに執筆いただいたのですね。
はい、土木の仕事に携わる19分野35人のプロフェッショナルに、自分たちの仕事について執筆していただきました。ひとくちに土木の仕事といっても、調査、計画、設計、施工、維持管理、合意形成、発注側の調整など、役割もさまざまですし、各分野の方には「どんな仕事をしているのか」「どんなやりがいを感じているのか」を、できるだけ具体的に、分かりやすい言葉でつづってもらいました。
──「19分野35人」という構成は、どのように決めたのでしょうか。
読み手が「土木にはこんな仕事もあるのか」と実感できるように、分野の抜け漏れがないようにしたいと考えました。例えば、同じ建設コンサルタントでも、調査、計画までを担う仕事と、設計、施工、維持管理の仕事では、役割も現場との関わり方も異なります。学生があまり知らないような仕事として、シンクタンクやインハウスエンジニア、都市再生機構(UR)、調査・測量会社などもあります。
実は、35人を決めること以上に、「どのような分野で切り口を立てるか」に一番苦労しました。国家公務員、メーカー、ゼネコン、建設コンサルタントといった大枠の分類はよく知られていますし、一般の方にも馴染みがあるかと思いますが、それだけでは違いが伝わりづらい。だから、土木の仕事の全容をつかんでもらえるように、分野の選定には一番気を遣いましたね。

──もちろん35人の人選も大変だったかと思います。筆者の選定にはどのような基準があったのでしょうか。
実は、19の分野が決まってからは、その枠に当てはまる方を探すだけでしたので、比較的進めやすかったです。半分弱が自分の知り合いで、そのほかは仕事でご一緒した会社の方や後輩に、「この分野で頑張っている人はいませんか」と聞いてつないでいただきました。学内の先生に相談したこともあり、同じ工学部の藤川拓朗先生には、地盤系の調査会社の方などをご紹介いただきました。
執筆いただいた方には50代の方もいらっしゃいますが、全体としては「できれば若い人」を中心にお願いしました。30〜40代で、現場でバリバリやっている方々の言葉は、これから進路を考える学生や若手にとっても、距離が近く、現実味があると思ったからです。
それと、この業界はまだ「男社会」という先入観で見られる面もあります。だからこそ、女性が活躍している現状をきちんと示したいと思いました。「ここは女性でお願いしたい」と調整した方もいますし、実際に子育てをしながらこの業界で頑張っている方にも書いていただきました。執筆いただいた方は35人中7人が女性です。私の研究室でも女性が一定数学んでいますし、優秀な女性が増えているという感覚もありますね。多様な人が関わることで、より良い空間づくりや意思決定につながる面はあると思います。
研究室での活動は、実務の場とのつながりも多く、現場との対話や合意形成のプロセスも含めて学ぶという
現場の"熱"をどのように伝えるかを重視し原稿チェック
──「編著」ということで、先生が編集もされていますね。編集者としての大変さもあったのではないでしょうか。
執筆をお願いして、原稿が届き、それをさらに読者に伝わる形に整えていく。ここまでしっかり編集に関わったのは、私としても初めてに近い経験でした。執筆者の皆さんには「できるだけ平易にしてください」「難しいことは書かず、書いたとしても分かりやすい言葉を使ってください」とお願いしました。原稿が上がってきたら、もっと具体的に書いてもらうようサジェスチョンしたり、出版社の担当者と二人三脚で作業を進めました。
それと、こうした原稿ではよく自慢話ばかりになりがちですが、それでは面白くありません。苦労した点や仕事の面白さをより具体的に書いてもらうことが、読者に業界を知ってもらうことにつながります。ですので、そうした原稿の細かいところを詰めていく"出し入れ"は結構ありましたね。

──よりリアルな"現場の声"を集めたコラム「業界本音トーク」も、この本の特色の1つですね。ここは先生が執筆されたのでしょうか。
はい。コラムは、執筆者の皆さんにアンケートをお願いし、その回答をもとに私がコラムとしてまとめています。リアルな部分を打ち出す半面、切り込みにくかったのは、やはり給料の話で、具体的な金額そのものは書きづらい。だからといって、伝えられないままにしたくはありません。「子ども2人を大学まで普通に育てられるくらい」「家も買って40代には完済予定」といった、生活実感としての表現で伝えられるようにまとめています。
一方で、これは自分としては「切り込んだ」と思っているのですが、「こんな人にはなりたくない」というマイナス面もコラムにしました。理想像としての「こんな人になりたい」だけでなく、仕事をする中では、いつのまにかやらない理由ばかりを探してしまう人もいます。若い方には「そういう人になってほしくない」というメッセージを乗せていますし、上の世代の方には「今のあなたはそんな人間になっていませんか」と釘を刺す意味も込めました(笑)。
──1人につき4ページ構成で、最後の1ページは、必ずその職を選んだ志望動機を書いたページになっていますね。
ここもぜひ知ってもらいたいところだったんです。"やりがい"は、仕事内容だけでなく、「なぜその仕事に惹かれたのか」「どんな気持ちで続けているのか」に宿ると思います。これからこの業界を志す人に、1人でも多く「面白そうだ」と感じてもらい、土木の業界で働く仲間を増やしたい。そのために、経緯やきっかけを、できるだけ熱く、しっかり書いてくださいとお願いしました。
もちろん、ガイドブックなので仕事内容はきちんと書かなければなりません。その上で「その人がどう思っているか」という温度のある言葉が入ることで、読者が自分の将来像を重ねられるのではないかと思います。特に志望動機ページは、そういう役割を担わせたかったですね。
土木の仕事は、人々の行動を変えられる力がある
──この本を編集して、この業界について新たな気づきや再認識したことはありましたか。
一番は、私が思っていた以上に土木という仕事の内容が多様だったことです。そして、土木にはその多様な専門技術が本当に細部にまで使われていて、その上に「ありふれた日常の生活」が成り立っていることを改めて実感しました。
ありふれた日常は見過ごされやすいですが、そうした当たり前に見える暮らしの裏側に、素晴らしい技術と苦労がある。この本は土木についてあまりイメージを持っていない方や、高校生にも読んでもらいたいと思って制作しましたが、その"裏側"をまとめて見せられたのは良かったと感じています。

──最後に、先生は福岡大学で、景観や公共空間のデザイン、まちづくりを専門に教えていらっしゃいますが、「土木の仕事」のどんなところに魅力を感じますか。
「街の風景の骨格をつくる」ことを担える点です。公共空間や社会基盤施設は、街の風景を形づくる大きな器になります。そこが魅力的になれば、街全体も魅力的になっていきます。関わった場所で、多くの人が笑顔で過ごしているのを見ると、「つくって良かった」と思いますね。
「さいき城山桜ホール*1」を整備した際、地元の高校生から「この街には居場所がなかったと感じていたが、ここができて街が変わった」と言ってもらえたことがありました。「津久見川プロジェクト*2」でも、地域の方が「河川沿いを散歩するようになった」とか「キレイになったから掃除もするようになった」と主体的に関わり始める瞬間がありました。そうした「生活の行動の変化」を目の当たりにすると、景観デザインに携わっているものとしては本当に嬉しく感じますね。
*1 さいき城山桜ホール:福岡大学「景観まちづくり研究室」が基本計画・市民会議・事業全体コーディネートなどで携わったプロジェクト。2022年度グッドデザイン賞、土木学会デザイン賞2023最優秀賞を受賞した。
*2 津久見川プロジェクト:「津久見川河川激甚災害対策特別緊急事業」として、2017年台風18号の豪雨によって氾濫した津久見川の河川を改修したプロジェクト。
■土木の仕事ガイドブック 日常をつくるプロフェッショナル

編著:柴田久
出版社:学芸出版社
発売日:発売日:2021年6月
詳細はこちら
※記事の情報は2026年1月14日時点のものです。

- 柴田久(しばた・ひさし)
福岡大学社会デザイン工学科教授
1970年福岡県生まれ。2001年、東京工業大学大学院情報環境学専攻博士課程修了。専門は景観設計、土木・公共空間のデザイン、まちづくり。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員などを務め、南米コロンビアの海外プロジェクトや九州を中心に四国、中国、東北を含む約60の公共空間整備、土木構造物の計画、設計、施工監理等に従事。主な受賞にグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、防災まちづくり大賞など多数。著書に「地方都市を公共空間から再生する日常のにぎわいをうむデザインとマネジメント」(学芸出版社)など。






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