2026.10.21
欠点を補い、今や中高層建築物も木造に。国土保全の観点でも木材の活用が重要【次世代の建設資材②木材 前編】 建築資材として歴史の古い木材が今、建築工事を発注する民間企業の注目を浴びています。コンクリートや鋼材といったほかの主要な建築資材と違い、製造過程で二酸化炭素(CO2)の排出が少ないためで、都市部では非住宅や中高層の木造建築物が多く登場しています。木材とはどのような建築資材なのか――。その基本を、木質構造デザイン工学の第一人者であり、東京大学生産技術研究所教授の腰原幹雄(こしはら・みきお)氏に聞きました。
文:茂木 俊輔(ジャーナリスト) 写真:鈴木 拓也

身近で加工しやすいものの構造材としては弱点も多い
──構造材として木材を用いる木造建築物が、非住宅や中高層の分野でも目立つようになってきました。構造材としての木材には、どのような特徴がありますか。
まず大きな点が、身近な存在であることと、人力で加工できることです。鉄やコンクリートは重機や専門の機械がないと扱えませんが、木は自分たちで育て、生産し、自分たちでアレンジできる。だからこそ、日本の建築は木造から始まったわけです。
軽くて強いという点もあります。ほかの材料と強度を比べるとき、自重比強度*1を持ち出し、木材の優位性を訴えます。
*1 自重比強度:材料の引張強度を密度(重量)で割った値。値が高いほど「軽くて強い」優れた材料であることを意味する。
しかし軽いということは、音が伝わりやすいので、遮音性に劣ります。都市部では木造建築物としてホテルやマンションも建設される時代ですから、遮音性をおろそかにはできません。しかも必要な防耐火性能を持たせるには、構造材を耐火部材で被覆しなければならず、必然的に木材以外の重量が出てきてしまう。木材だけで成り立たないとなると、もはや構造部材として軽いとは決して言えません。
つまり自重比強度はいくら大きくても、建築上のメリットがそれに伴い大きくなるわけではないということです。木造は鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨(S)造に比べ弱いと言われ続けてきたため、「軽くて強い」という木材における自重比強度の理屈は、いわば強がるための方便として使われてきたのでしょう。
腰原さんは、「木」を新しい建築材料として捉え、都市木造建築の可能性を模索・構築し、社会に広く提案しているNPO法人team Timberizeの創設メンバーで、現在も理事を務める
──自分たちで加工が可能だと、どういう良さが生まれるのでしょうか。
工夫のしがいがあるということです。自然界で生み出される材料なので、太さや長さが限られ、個体ごとにばらつきもありますよね。そういう材料を用いて中大規模の建築物をつくろうとすると、知恵を働かせる必要が出てくる。
もちろん、それを楽しいと感じるか、面倒くさいと思うかは、つくり手次第です。構造材としては決して優れた材料とは言えませんが、ものづくりを楽しむ、創造力を働かせる、という観点からすれば、魅力的な材料です。
──反対に、構造材としての弱点はどこにありますか。
やはり、強度面では決して強くない。それに燃えますし、腐ります。さらに腐朽菌やシロアリにもやられてしまいます。節や割れがあるのも、良く言えば個性ですが、悪く言えば製品としてのばらつきになるので欠点となります。優れた材料であるとは、とても言えません。
しかし、それらの解決手段がないわけではない。材料としての欠点が建築物としての問題を引き起こさないようにするための技術は確立されつつあります。
ばらつきや燃える弱点を補い、構造材として活用へ
──強度面の欠点は、どう補われているのですか。
強度面で決して強くないというのは、自然界で生み出される材料なので、ばらつきが生じるということです。これではヤング率*2が一定の数値に定まりません。このままでは構造計算は不可能です。
*2 ヤング率:材料が外力を受けた際の変形のしにくさ(剛性)を示す指標。
そこで構造用の製材品については、JAS(日本農林規格)が定められました。一つひとつ曲げヤング率(曲げの力が加わった時のヤング率)を測定し、機械等級区分を定めています。
一方、「エンジニアードウッド*3」も生まれました。例えば集成材です。これは、「ラミナ」と呼ばれる板状の木材を、繊維方向をそろえて接着剤で張り合わせたもので、強度や寸法の安定性が通常の製材品に比べ優れています。この集成材も、曲げヤング率などの強度に応じて強度等級を定めています。そうすることで構造計算を可能にしているのです。
*3 エンジニアードウッド:木材を細かく裁断、薄くスライスするなどして、接着剤で再構成してつくられた木質材料。天然の無垢材のばらつきの弱点を克服し、安定した品質と高い強度を兼ね備える。
集成材は木材を貼り合わせつくられているため、品質や強度が均一で安定している
──燃えるという欠点については、いかがですか。
この点については、単純に燃えないようにしようと、薬剤を含浸させたり、耐火被覆材として石こうボードを張ったりします。
ただそうすると、日本では木肌を見せることにこだわるあまり、「それはもはや木材ではない」という批判を浴びたりします。これは、建築物の防耐火性能を確保することと矛盾してしまいます。だから、設計上のハードルが上がってしまうのです。
これに対して欧州では、森林資源である"木を活用する"ことに主眼を置いているので、木肌を見せることにこだわらない。防耐火性能の確保を目的に石こうボードを張ることを嫌がりません。その結果、欧州では中高層木造の建築実績が伸びているのです。
木材余剰の今こそ、木造建築を活用し選択肢を増やすべき
──木造の建築物は最近、非住宅や中高層の領域でも目に付き始めています。今に至るまでどのような変遷がありましたか。
今に至る最初の転換点は1987(昭和62)年です。建築基準法の改正で、木造3階建ての住宅建築が可能になったほか、「エンジニアードウッド」のひとつである大断面集成材を用いた大空間・大規模の建築物を建設することが可能になりました。体育館やドームなどで、大空間を木造で構成するのは楽しいという空気が広がりつつありました。
ところが、1995(平成7)年に阪神・淡路大震災が発生します。多くの木造戸建て住宅が倒壊したため、木造研究者の目は一気に、大空間・大規模の建築物づくりから耐震性向上に向くようになります。
2000(平成12)年になると、再び建築基準法が改正され、戸建て住宅の耐震基準が強化された一方、中大規模の木造建築物がそれまで以上に設計しやすくなります。
法改正を受けて建てられた中大規模の木造建築物の第1号は、私が構造設計を手がけた地上5階建ての金沢エムビル(2005、石川県金沢市)です。その後、大手建設会社でも技術開発が進み、2020年前後からデベロッパーをはじめ民間企業にも、木造ビル建設の機運が高まります。
腰原さんが構造設計に携わった金沢エムビルは、木質ハイブリッド(鋼材内蔵型集成材)構造の5階建て。都市における中層耐火木造建築物の先駆けとして知られる(写真提供:腰原研究室)
木造建築物の設計・施工は、かつて、新しいもの好きで労力を惜しまない層が取り組んできました。しかし最近は、必ずしもそうではない。労力をかけたくない層も取り組むようになり、すそ野は確実に広がっていると感じています。
──そもそも2000年以降、木造建築物が注目されるようになったのは、なぜですか。
よく挙げられるのは、RC造やS造に比べCO2の排出抑制につながるという点です。しかし、CO2の排出抑制をどう評価するかは、世界各国の価値観次第で変わってきます。時代の流れの中で今後どう評価されるようになるのか、分かりません。それより注目しなければならない理由は、国土保全の観点にあると考えています。
というのは、日本の国土の約3分の2は森林です。「地上資源」と呼んでいますが、日本には豊富な森林資源があります。山に木が生えていることによって、光合成で酸素がつくられるし、雨が降れば水を貯蔵してくれる。その水が川となって流れ、都市部でもその恵みを授かる。そして、海へ流れ込み、川が運んできた豊富な栄養素が豊かな漁場を生んでいることを考えれば、山が元気であるということは、日本にとって本当に大きな恩恵なのです。
森林は時期が来れば、木を伐採・活用する一方で、そこに改めて木を植えることで、多面的な機能が保全されます。それが、国土保全にもつながるのです。つまり、その国土保全の第一歩として木材の活用があって、木造建築物はその代表的な活用策になっています。
森林には今、伐採に適した木がたくさんあります。国土保全の観点から言えば、それらをどんどん伐採・活用する一方で、植え替えを次々に進めていく必要があります。そうしないと、次の時代に伐採・活用できる木がなくなってしまいます。
そこで今やるべきことは、木造建築物の選択肢を増やしておくことです。古民家だったり、高層木造建築物だったり、求められるものは時代で変化しますが、木材余剰といわれる今の時代のうちに選択肢を増やしておけば、将来、木材の伐採・活用量が限られたとき、それを用途や規模の面で適切な建築物に振り向けることが可能になります。
大阪・関西万博のシンボルとして注目された大屋根リングの模型。腰原氏は、この巨大木造建築の実現を、構造研究者として後方から支えた
地球環境に優しいという、CO2排出抑制の観点で木材を活用するのもいいですが、木造建築物で街をつくることができれば、国土保全につながります。それと同時に、心が楽しくなるよね、生活がより豊かになるよね、という感覚も忘れないようにしたいですね。
※記事の情報は2026年10月21日時点のものです。
後編(10月23日公開予定)へ続く

- 腰原幹雄(こしはら・みきお)
東京大学生産技術研究所教授、高知県立林業大学校特別教授、NPO法人team Timberize理事
1968年、千葉県生まれ。1992年、東京大学工学部建築学科卒業。2001年、東京大学大学院博士課程修了、博士号(工学)取得。構造設計集団<SDG>、東京大学大学院助手、生産技術研究所准教授を経て、2012年より現職。NPO法人 team Timberizeの創設メンバーであり、現在も理事を務める。大学では木質構造を中心に、土や石、竹などの自然材料の活用を構造の視点から研究。






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