2026.10.23

木材は適材適所の混構造が主流に。道具の発展や定量評価が木材の価値をさらに高める【次世代の建設資材②木材 後編】 中高層の木造建築物は今、鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨(S)造との混構造が主流になりつつあります。都市部で必要な防耐火性能を確保しようとすると、それが一般的には、コスト合理性の最も高い解になると考えられているからです。中高層の木造建築物を構成する部材として、木材は今どのような進化を遂げているのか。東京大学生産技術研究所教授の腰原幹雄(こしはら・みきお)氏に聞きました。

文:茂木 俊輔(ジャーナリスト) 写真:鈴木 拓也


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木材は適材適所の混構造が主流に。道具の発展や定量評価が木材の価値をさらに高める【次世代の建設資材②木材 後編】

混構造で選択肢が広がる一方、やり残した純木造への挑戦

──2028年度には高さ100mの混構造の木造ビルが、東京・丸の内に誕生する予定です。今後の中高層の木造ビルは、鉄骨造や鉄筋コンクリート造との混構造が中心になるのでしょうか。


そうですね。コスト合理性の高さから、純木造より混構造が一般的になっていくとみています。適材適所の考え方が進展していくでしょう。


例えば、三菱地所グループが2021(令和3)年10月、札幌市内に開業した地上11階建てのホテルは、高層部(9~11階)を純木造、中層部(8階)をハイブリッド造(木造と鉄筋コンクリート造)にしており、低中層部(1~7階)を鉄筋コンクリート造で構成しています。その理由として、防耐火のルール上、上から4層(8階以上)は1時間耐火構造を、それより下層階は階層の数に応じた耐火構造の強化が必要になるからです。


一方、高層部は眺望がいいですから、ここを木造の質感あふれる特別な空間で仕上げれば、宿泊施設として付加価値をつけられます。宿泊料金を高めに設定することも可能ですので、価値を高められる部分に木造を採用することは、ひとつの考え方になります。


同様に、こうしたメリハリを平面上で付けるという考え方もあります。建築物の機能上、客が利用する表の部分とバックヤードなどの裏の部分をまず区分します。その上で、表の部分には木造を、裏の部分には鉄骨造や鉄筋コンクリート造を採用し、全体としてコストを抑えるという発想です。


──ただ、純木造への挑戦が思いのほか早く混構造に収れんしそうな状況には残念な思いもあるのではないでしょうか。


純木造への挑戦においては、まだまだ技術開発の努力を重ねてほしかったですね。もちろん、木造と鉄筋コンクリート造、鉄骨造を、ひとつの建築物でも適材適所で使い分けられるようになった点は評価します。それによって、選択肢は広がったわけですから。ただ、中高層の純木造建築物をつくることで明らかになったであろうことが、はっきりしないままになってしまうのが残念です。


例えば、法隆寺五重塔で指摘されているように、純木造の建築物は経年変化によって木材が収縮し、建築物は沈み込んでいきます。それがどの程度なのか、明らかになっていません。


そのため、混構造では保険をかける意味合いで収縮の程度を大きめに見込んでいますが、鉄筋コンクリート造や鉄骨造で同様の収縮が起きない中、実際にはどの程度見込む必要があるのか、分からない状況です。本来なら、純木造での収縮の程度を解明してから、混構造に向かったほうが技術開発の順番としては良かったのではないか、と思います。


team Timberizeによる、日本初の超高層建築物「霞が関ビル」を木造で再現した模型




道具の発展が木材という材料をより使いやすくする

──部材に目を向けると、防耐火上のルールを満たすため、「木質耐火部材」と総称される新たな部材が次々と開発されるようになっていますね。


「木質耐火部材」は3つのタイプに分かれます。まず「メンブレン型」です。芯材になる木材の周囲を石こうボードで覆って耐火被覆を施しています。次に「鉄骨内蔵型」。これは、芯材に鋼材を用いて、周囲を木材で被覆したものです。最後に、芯材になる木材の周囲をまず石こうボードなどで被覆し燃え止まり層を形成した上で、その外側をさらに燃え代になる木材で被覆する「燃え止まり型」があります。


「メンブレン型」の見た目は、石こうボードです。「鉄骨内蔵型」は構造計算上、鋼材として扱われ、「木材とは言えない」という評価が付きまといます。木材の実質を重視する日本人には、「燃え止まり型」が受け入れやすい。



──「木質耐火部材」のほかには、注目の部材はありますか。


研究レベルでは、木材から抽出したセルロース*1やリグニン*2をつかった新素材、あるいは杉などの柔らかい針葉樹を高密度化する圧縮木材など、高い強度を誇る新しい技術に興味深いものはあります。しかし、実務レベルで普及が見込めるものは、残念ながら見当たりません。


*1 セルロース:木材の骨格成分で、鉄の1/5の軽さで5倍以上の強度を持つ。
*2 リグニン:植物の細胞壁を構成する高分子化合物。セルロース同士を接着して植物体を強固に支える役割を果たす。


建築材料としては最低でも50年の耐久性は必要になります。しかし、それを短期間では実証できないので、最新技術はなかなか、建築の世界には入り込めないんです。実際、生産技術研究所の研究者が面白そうな材料を開発していても、50年、100年という耐久性の時間軸や、材料単価が「大根」に例えられるほど安い建築の世界では、なかなか「使える」ものにはならないのです。


木材もセルロースやリグニンまで分解すると、それはもう半分プラスチックのような世界ですし、圧縮木材も密度が上がることで防耐火や表面の硬さには寄与しますが、そこまでの手間とコストを価格に反映できるかという課題があります。それよりも普及が見込めるのはむしろ、「枯れた技術」と言われる成熟した安定の技術なのではないかと考えています。


セルロースやリグニンを木材から抽出・分離して構造材として活用するには生産コストが高く、実用化への大きな課題になっている


──建築材料は既存のもので対応するしかないのでしょうか。


ただ、進化は見込め、それには2つの方向性が考えられます。ひとつは、自然素材としての木とそれを建築材料である木材に加工する道具がある中、道具側の発展で材料側をさらに使いやすくしよう、という方向性です。


断面がもともと円形の木を、角形に加工するのは、設計の簡略化、工業製品のような扱いやすさを実現するためです。しかし現代では、木をスキャンして3次元データに置き換え、そのデータを基にして、コンピューター数値制御(CNC)*3で加工できるようになりました。木の複雑さを単純化せずに、木ごとの個性を生かした建築が可能になったのです。


*3 コンピューター数値制御(CNC): Computer Numerical Control。コンピューターを用いて工作機械の動作や加工手順を自動制御する技術。


新たな材料を開発する意義のひとつに、扱いやすさの向上があります。それを追い求め、材料の開発を進めてきました。しかし扱いやすさの向上は、材料の開発だけでなく道具の発展によっても見込めます。言わば、逆転の発想です。


もうひとつの方向性は、建築材料としての定量的な評価を定めることで、明確な意図を持って木材を活用できるようにすることです。


木材を用いた空間の快適さはよく木材の魅力として指摘されますが、定量的な評価が定まっているわけではありません。また、木造の音楽ホールは音響に優れると言われますが、なぜそうなのか、明確な理由は明らかではありません。このままでは神話めいた根拠のない言説に惑わされることにもなりかねません。従来の定性的な評価を定量的な評価に改めるだけでも、材料開発に匹敵する進化になるのではないでしょうか。



──最後に、建築材料としての木材の現在地をどうご覧になりますか。


もっと試行錯誤を重ねるべき時期です。失敗例があってもいい。ここまでならできる、これ以上はやるべきではない、理想を実現するためにはどのような技術が必要なのか――。これらの点を見極めるべき時期です。国土保全の観点から必要な森林循環を今後形成していくための、言わば調整期間と見ています。


※記事の情報は2026年10月23日時点のものです。

【PROFILE】
腰原幹雄(こしはら・みきお)
腰原幹雄(こしはら・みきお)
東京大学生産技術研究所教授、高知県立林業大学校特別教授、NPO法人team Timberize理事
1968年、千葉県生まれ。1992年、東京大学工学部建築学科卒業。2001年、東京大学大学院博士課程修了、博士号(工学)取得。構造設計集団<SDG>、東京大学大学院助手、生産技術研究所准教授を経て、2012年より現職。NPO法人 team Timberizeの創設メンバーであり、現在も理事を務める。大学では木質構造を中心に、土や石、竹などの自然材料の活用を構造の視点から研究。
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