建設現場で役立つ!天気の読み方
2024.04.10
天気の「波」を理解して変化を予想しよう【建設現場で役立つ!天気の読み方⑨】 天気の変化をある程度予測できると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。本連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。最終回は天気の変化に関わるさまざまな「波」についてです。
文・写真・動画:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)
偏西風が起こす天気の変化の「波」
日本列島の上空には「偏西風(へんせいふう)」と呼ばれる風がほぼ西から東に向かって吹いています。真夏には偏西風が日本列島から一時的に離れて暑い日が続くことがありますが、そのほかの季節は偏西風によって高気圧が西から東へ移動するため、天気は西から東へと周期的に変わることが多いです。
実際に、天気が周期的に変わりやすい4月の空の変化を見てみましょう。下の動画は、2023年4月の毎朝9時の富士山の空の様子を収めたものです。晴れの日と曇りや雨の日が数日ごとに繰り返しています。これは、偏西風によって高気圧と低気圧が交互にやってきたからです。雲のないよく晴れた日もあれば、富士山が雲に覆われて全く見えない日もあり、さまざまな雲が見られます。
動画と同時期の天気図を見ると、富士山の空に対応するように、高気圧や低気圧・前線が西から東へ移動しています。高気圧に覆われると晴れ、低気圧が接近すると雲が増えます。等圧線の間隔が狭くなった時は風が強くなります。
富士山の空の様子を収めた動画と天気図の動画を並べてみると、高気圧・低気圧・等圧線と実際の空の様子の関係が見えてきます。
さまざまな雲のようすや天気図の高気圧や低気圧などは、こちらの記事でも解説しています。ぜひご覧ください。
● 「氷の粒の雲」と「水の粒の雲」を見極めよう【建設現場で役立つ!天気の読み方①】
● 雨を降らせる雲の特徴を知って雨天に備える【建設現場で役立つ!天気の読み方②】
● 「積乱雲」の特徴を知って大雨、突風、雷に備えよう【建設現場で役立つ!天気の読み方③】
● 天気図から風の向き・強さを予測する方法【建設現場で役立つ!天気の読み方⑤】
● 天気図で雨を予測する方法【建設現場で役立つ!天気の読み方⑥】
異常気象をもたらす「波」
暑い晴天や雨の日などが長く続き、異常な天気といわれることがあります。これは、偏西風が大きく波を打つように流れることが原因となる場合が多いです。
偏西風が北へ大きく蛇行すると南から暖かい空気が入りやすく、異常な暑さになることがあります。また、南へ大きく蛇行すると寒気が入りやすく、異常な寒さや大雪になります。偏西風が大きく波打つ状態が長く続くと、異常気象になります。
また、偏西風のほかにも異常気象にはいくつかの要因が考えられます。そのひとつとして挙げられるのが、エルニーニョ現象やラニーニャ現象です。
エルニーニョ現象とは、赤道の東側付近の海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象のことです。対して、同じ場所の海面水温が平年より低い状態が続くことをラニーニャ現象といいます。これらは数年おきに発生し、日本や世界に異常気象をもたらすことが多いです。
気象庁のホームページで公開しているグラフには、エルニーニョ現象が発生した期間は赤、ラニーニャ現象が発生した期間は青で示されており、この約80年間に繰り返し起こっていることが分かります。細い折れ線は海面水温の月の平均値、太い青線はその月と前後2カ月の計5カ月の海面水温を平均した「5カ月移動平均」です。正の値は基準値より高いことを示しています。
エルニーニョ現象発生時は、夏に日本列島の気温が低く、西日本で降水量が多くなる傾向があります。冬は西日本で気温が高く、東日本で日照時間が少なく降水量が多くなる傾向があります。対して、ラニーニャ現象発生時は、夏に北日本で日照時間が長く、気温が高くなる傾向があります。
年の気温の「波」
地球温暖化などによって、日本の年平均気温が高くなっています。気象庁のホームページに公開されている「日本の年平均気温偏差」では、100年間で1.35℃上がる傾向が赤い線で示されています。グラフを見ると2023年が異常に高くなっていますが、年ごとに見るとかなり変動があり、気温が上下に大きく変動していることが分かります。
グラフの中の青い線は「5年移動平均値」です。その年と前後2年間の計5年間の気温を平均したもので、変動が緩やかになり、変化の傾向が分かりやすくなります。青い線も、上下しながら少しずつ高くなっています。
年の降水量の「波」
気象庁のホームページに公開されている「日本の年降水量偏差」を見ると、気温と同じく降水量も年ごとに異なっていることが分かります。
さらに、グラフの中の青い線で示している「5年移動平均値」を見ると、降水量の多い期間と少ない期間が見えてきます。2010年代は降水量が多く、台風による大規模な洪水もありました。1980年代や1990年代などには水不足がありました。降水量は梅雨前線の活動や台風の接近・上陸数、線状降水帯による大雨などによって大きく変わります。
天気は「波」のように変化していく
晴れて暑い日が続いた後に、曇りで涼しい日や雨の日がやってきます。大雨の後には、カラッとした晴天がやってきます。夏に異常な暑さになっても、途中から涼しくなったり、冬の大寒波の後に暖かい日が訪れたりすることもあります。これらは天気が「波」のように変化するためです。
同じ天気が毎日ずっと続くことはありません。特に日本列島が属する温帯は、四季の変化があるとともに、周期的に天気が変わることが多いです。天気の変化は気まぐれのように感じますが、「波」として考えると、その変化が分かりやすくなります。
さまざまな視点から見ることで天気の読み方が分かる
この連載「建設現場で役立つ!天気の読み方」では、さまざまな視点から天気の変化を予測するための方法を解説してきました。
まず雲を見ると、雨が降る前兆をつかむことができます。例えば、高い雲と低い雲が一緒に出てきて、動きが違うときは要注意です。乱層雲の雨は弱いですが、積乱雲の雨は強いです。積乱雲は、雷や竜巻などの突風を起こすこともあるので注意が必要です。
また、天気図を見る習慣を持つとよいです。高気圧や低気圧の動きによって、晴れや雨の予想ができます。そして、等圧線の分布から風の向きや強さを知ることもできます。自分で空や天気図を見ることに加えて、さまざまな天気予報も参考になります。数日先については、高気圧や低気圧の動きが変わり、天気予報は「ずれる」可能性があることも覚えておきましょう。
このようにさまざまな視点から天気を見ると、天気の読み方が分かり、仕事にも役立つと思います。天気の読み方についてより詳しく知りたい方は、ぜひ私の著書もご覧ください。
※記事の情報は2024年4月10日時点のものです。
- 武田
康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた‼ 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「天気も宇宙も!まるわかり空の図鑑」(エムディエヌコーポレーション)、「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。