建設現場で役立つ!天気の読み方
2023.08.09
天気図から風の向き・強さを予測する方法【建設現場で役立つ!天気の読み方⑤】 建設現場の天気の変化をある程度予測できるようになると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。この連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第5回は天気図から風を予測する方法についてです。
文:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)
天気図ひとつあれば風の向きや強さを予測できる
ニュース番組の気象コーナーや天気予報のWebサイトなどをチェックしていると、「天気図」と呼ばれるものを見る機会があると思います。天気図には高気圧や低気圧の分布、等圧線などさまざまな情報が載っていますが、「見ても何が何だか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
実は天気図ひとつあれば、いろいろな天気予報サイトをチェックしなくても風の向きや強さを予測できるという、とても便利なものなのです。そこで今回は、天気図で風を予測する方法を、実際の天気図を使ってご紹介します。
天気図を読むために知っておきたい基礎知識
まずは、風を予測する際に知っておきたい基礎知識をご紹介します。
■「高気圧」と「低気圧」の仕組み
天気図では多くの場合、「高気圧」と「低気圧」が描かれます。高気圧は、周りよりも空気がたくさんあり、地表で気圧が高くなる場所のことです。高気圧の中では上空から空気が下りてきて、地表付近で風が吹き出しています。空気が下降するため雲を作りにくく、晴れやすいという特徴があります。
対して、低気圧は周りよりも空気が少なく、地表で気圧が低くなる場所のことを指します。地表付近で空気が集まって上昇気流を起こすため、空気中の水分が冷えて、雨を引き起こすような雲を作り出すことがあります。
■高気圧は時計回り、低気圧は反時計回り
高気圧から吹き出す風は、北半球では時計回りになります。対して、低気圧は反時計回りに風を吸い込みます。地球の自転の影響で働く、このように風を曲げる力を「コリオリの力」といいます。ちなみに、南半球では高気圧は反時計回り、低気圧は時計回りになります。
コリオリの力により、風は気圧の高いところから低いところへまっすぐは吹きません。日本列島がある北半球の場合は、風が高気圧から低気圧を見て斜め右に向かって吹き、南半球では、高気圧から低気圧を見て斜め左に向かって吹きます。
■風は等圧線の間隔が広いと弱くなり、間隔が狭いと強くなる
気圧が等しい地点を結んだ線のことを「等圧線」と呼びます。等圧線の間に吹く風は、等圧線の間隔が広いと弱く、間隔が狭いと強くなるという特徴があります。これによって、天気図上の風の強い場所を予測できます。
また、高気圧や低気圧の中心付近や、等圧線が大きく開いた場所ではほとんど風が吹きません。
実際の天気図を見て風を予測しよう
ここからは、実際の天気図を見ながら、風の向きや強さを予測してみましょう。
■高気圧に覆われている場合
下の天気図は、日本列島が大きな高気圧に覆われている状態を表しています。大きな高気圧に覆われるとよく晴れて、等圧線の間隔が広くなるため風もほとんど吹きません。吹いたとしても、海と陸の間の風などが少し吹く程度で済むでしょう。
■低気圧に入った場合
下の天気図では、山陰地方に低気圧があります。低気圧の中は等圧線の間隔が狭いため、強い風が吹きやすいです。低気圧は風が反時計まわりに回るため、関東地方は南東から北西に向けて、九州地方は北西から南東に向けて風が吹くことが予測できます。
■高気圧と低気圧の間に入った場合
次の天気図では、縦縞模様で間隔の狭い等圧線が、日本列島の上にあります。風は高気圧側から低気圧側に向かって斜め右に吹くため、この場合は北西から南東に向かって強い風が吹くことが予測されます。
ちなみに、この天気図では日本列島の西側に高気圧、東側に低気圧がある状態を表しています。「西高東低(せいこうとうてい)」と呼ばれる気圧配置で、冬に多く見られます。
■台風が近づいてきた場合
熱帯の海上で発生した熱帯低気圧のうち、北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧内の最大風速がおよそ17m/s(メートル毎秒)以上のものを「台風」と呼びます。台風の進路や強さを天気図で予測することは難しいのですが、台風が接近している地域の風の向きは読み取ることができます。
下の天気図では、沖縄本島に台風が接近していることが分かります。台風の付近は強い雨が降りやすいだけでなく、等圧線の間隔もかなり狭いため吹き込む風もとても強くなります。低気圧なので反時計回りの風を吹かせながら移動し、移動速度が加わることにより進行方向右側で風が強くなる傾向があります。
また、台風の中心(目)は一時的に風が弱まりますが、台風が通過する際に風向きが急に変わる可能性があるため注意しましょう。
基礎知識を踏まえて、風を予測してみよう
今回は、天気図から風を予測する方法をご紹介しました。この方法を使えば、天気図上の全ての場所で、風の強さや向きを予測することができます。難しそうに見える天気図ですが、いくつかの基礎知識を身につければ、意外と簡単です。今回ご紹介した内容をもとに何度か確かめてみると、等圧線の間隔と風の強さの関係がより分かってくるでしょう。ぜひ、実践してみてください。
次回は、天気図から雨を予測する方法をご紹介します。
※記事の情報は2023年8月9日時点のものです。
- 武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた‼ 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「天気も宇宙も!まるわかり空の図鑑」(エムディエヌコーポレーション)、「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。