建設現場で役立つ!天気の読み方
2022.11.16
「氷の粒の雲」と「水の粒の雲」を見極めよう【建設現場で役立つ!天気の読み方①】 建設現場の天気の変化をある程度予測できるようになると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。この連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第1回は「氷の粒の雲」と「水の粒の雲」の特徴と天気の影響についてです。
文・写真・動画:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)
雲は「氷の粒の雲」と「水の粒の雲」の2種類に分かれる
これからどのように天気が変わっていくのかを知るには、雲を見るのが一番です。ですが、空に浮かんでいるさまざまな雲を正しく見分けるのは難しく、専門家でも区別に迷うことがあるほどです。
そこで、最も簡単な見分け方として、雲を「氷の粒の雲」と「水の粒の雲」の2種類に分けてみましょう。
雲は、氷の粒(氷晶)からできたものと、水の粒(水滴)からできたものに分かれます。これらの特徴は昼間であれば雲の形状を見ることですぐに分かります。2つの雲は存在する高さや動きが違うため、それらの変化から天気の移り変わりを読むことができるのです。
「氷の粒の雲」が速く流れているときは1日後に天気が変わりやすい
まずは「氷の粒の雲」から説明します。例えば、山を登っているときを思い出してください。頂上に近づくにつれてだんだん肌寒く感じてくることがあると思います。一般的に高度が1,000m上がると気温は6.5℃下がります。地上の気温が15℃の場合、高度1万m付近に発生した雲の気温は氷点下50℃ほどになります。高度1万mというのは最も高度の高い位置に発生した雲です。
雲の高度が高くなると、雲をつくっている粒は「水の粒」から「氷の粒」に変化していきますが、小さな水の粒は表面張力などの影響で氷点下になってもなかなか凍らずに、氷点下20℃くらいでようやく凍ることが多いです。そして、氷点下40℃くらいになると全て氷の粒になります。これが「氷の粒の雲」です。氷の粒の雲というのは氷点下40℃前後の冷たさだと考えていいでしょう。
「氷の粒だけの雲」は「すじ雲(巻雲)」か「うす雲(巻層雲)」のどちらかになる
氷の粒だけでできた雲は、見た目が刷毛で描いたような模様の「すじ雲(巻雲)」か、白いベールのような「うす雲(巻層雲)」のどちらかになります(上の写真参照)。どちらも真っ白に輝き、空に広がっても暗くなりません。雲のすき間が多く、雲の上の青空が見えることも特徴です。
また、氷の粒の雲は太陽の周りで大きな円形に輝く日暈(ひがさ)などの「ハロ」と呼ばれる現象をしばしばつくります。氷の粒の雲は上空の偏西風*に流されることが多く、その風の速さによって雲の動きが変わります。風速が速くどんどん動いているときというのは天気の変化も早くなるものです(盛夏の時期だけは上空に偏西風がなく、氷の粒の雲はあまり動きません)。
偏西風が強い場合、高気圧や低気圧が次々とやってくるので天気が変わりやすくなります。今は高気圧の影響で晴れていたとしても、時間が経つと低気圧や前線などがやって来て、半日から1日程度で崩れる可能性が考えられます。
また、低気圧の接近時には、まずすじ雲が広がり、うす雲に変わってからその下にひつじ雲(高積雲=こうせきうん)が広がることが多いものです。台風接近時には台風の発生した方向からすじ雲が流れてくるのを見ることもあります。
上の3つの写真は上から順に、「すじ雲」→「うす雲」→「ひつじ雲」と移り変わった雲の様子。この写真のときは、「すじ雲」が空に出た翌日に「うす雲」が現れ、その下に「ひつじ雲」が広がってきてから数時間後に雨になりました。
「水の粒の雲」が次々とやって来て成長する場合は大雨など天気の急変に注意
私たちが普段よく見かける丸みのある雲。これは、霧や風呂場の湯気のようなごく小さな水滴がたくさん集まってできています。これが、「水の粒の雲」です。
水の粒の雲は、もこもことした丸みのある形になっていることが多く、太陽の光が正面から当たると真っ白に見えます。光を通しにくく、太陽の光が当たる面とは反対側が灰色になることが特徴です。空にたくさん広がると、太陽の光が遮(さえぎ)られて地面が暗くなります。
子どもがお絵描きで空を描くときに使うわた雲(積雲=せきうん)が水の粒の雲の代表です。わた雲が大きくなるとにゅうどう雲(雄大積雲、積乱雲=せきらんうん)に発達して強い雨を降らせたりすることがあります。
また、やや高い高度(5,000m前後)に発生するひつじ雲(高積雲)や、もっと高い高度(8,000m前後)のうろこ雲(巻積雲=けんせきうん)、高度が2,000m以下の低い位置に発生して灰色に連なるうね雲(層積雲=そうせきうん)や霧が上がったようなきり雲(層雲=そううん)も、水の粒でできています。高度が低い位置からやや高い高度の間に発生する雲は、ほぼ全てが水の粒からできていて、さまざまな種類の雲を形成するのです。
「水の粒の雲」は地形による影響を受けやすい
「水の粒の雲」は、地面付近の水蒸気が上昇してできたものが多いです。空気は上昇すると冷えるため、空気中に含み切れなくなった水蒸気が水滴となります。上昇気流が強いほど雲が高くまで成長し、大きく膨らむと雨を降らせる雲になるのです。
ということで、「水の粒の雲」が次々とやってきて、雲が大きくなっていくと雨になりやすいのです。雲は同じ場所にとどまって大きく成長することもありますが、動いていくことの方が多いものです。
また、「水の粒の雲」は地形による影響が大きく、特に日中の山で発生しやすいものです。わた雲が次々と流れていくときも要注意で、大きなにゅうどう雲が近くにできていたり、低気圧や台風が接近したりする可能性があります。建設現場でこのような「水の粒の雲」の活発な動きを見かけた際は、天気の急な変化に気を付けましょう。
次回は、雨を降らせる雲の特徴についてご紹介します。
※記事の情報は2022年11月16日時点のものです。
- 武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた‼ 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。