2023.01.18

雨を降らせる雲の特徴を知って雨天に備える【建設現場で役立つ!天気の読み方②】 建設現場の天気の変化をある程度予測できるようになると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。この連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第2回は雨を降らせる雲である「あま雲(乱層雲)」と「にゅうどう雲(積乱雲)」の特徴についてです。

文・写真・動画:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)

雨を降らせる雲の特徴を知って雨天に備える【建設現場で役立つ!天気の読み方②】

長い時間、しとしとと弱い雨を降らせる「あま雲」

「あま雲」は横に広がった雲で、空がやや暗くなり、長い時間比較的弱い雨をしとしとと降らすのが特徴「あま雲」は横に広がった雲で、空がやや暗くなり、長い時間比較的弱い雨をしとしとと降らすのが特徴


低気圧が近づくと、空一面に広がる雲がだんだん増えてきます。そして雲が厚くなり、暗くなると雨が降ってきます。このような雲は「あま雲(乱層雲)」と呼ばれており、名前のように層状に広がり、上方と下方に乱れた形をしています。


あま雲は特に春や秋に発生することが多く、梅雨や秋雨の時期は数日間にわたって雨を降らせることがあります。海から風がぶつかりやすい山間部や、低気圧や温暖前線*1周辺に発生しやすいことが特徴です。天気図で低気圧や前線の位置を見ることで、あま雲が発生しそうな位置を知ることができるでしょう。


ちなみに、雨の強さは雨粒の大きさとも関係します。通常、雨粒は直径1mm程度で、大きなものだと直径3~7mmくらいになります。それより大きな雨粒は、落下するときの空気の抵抗を受けて分裂します。あま雲は小さな雨粒を降らせることが多く、比較的弱い雨をしとしとと降らせます。


*1 温暖前線:暖かい空気が冷たい空気の上に乗り上げ、冷たい空気を押しのけながら進む前線。暖かい空気がゆっくりと上がっていくことが特徴で、その過程で広い範囲に雲ができる。




大きな雨粒を降らせる「にゅうどう雲」

「にゅうどう雲」は縦に大きく伸びた雲で、空が急に暗くなり、雲の下に入ると強い雨が降る「にゅうどう雲」は縦に大きく伸びた雲で、空が急に暗くなり、雲の下に入ると強い雨が降る


雨を降らせる雲にはもう1種類、「にゅうどう雲(積乱雲)」があります。1つのにゅうどう雲の幅は10km以下なのですぐに通り過ぎることが多いのですが、たくさん連なっていると線状降水帯(せんじょうこうすいたい)*2を形成して大雨を降らせることがあります。また、大きく成長したにゅうどう雲には「氷の粒」と「水の粒」がたくさん含まれるため、大きくなった氷の粒が溶けずに雹(ひょう)を降らせることもあります。


にゅうどう雲は、あま雲と比べて大きな雨粒を降らせることが多いです。その理由は雲の高さにあります。背の高いにゅうどう雲は、氷の粒が落下する過程で水の粒がたくさんくっついて降ってくることが多いからです。「にわか雨」と呼ばれる雨がこれに当たり、にゅうどう雲が平野部に流れると夕立(激しいにわか雨)を引き起こします。


にゅうどう雲は、あま雲と比べて雨量も多くなります。雨量とは、降った雨がどこにも流れずに地面にたまった場合の「水の深さ」のことを指します。例えば、「1日で100mmの雨量」の場合は「1日で10cmの深さに水がたまること」に相当し、池やプールなどは10cmほど水位が上がります。集中すると、洪水などの大きな災害を引き起こすこともあります。


*2 線状降水帯:次々と発生する発達したにゅうどう雲が並ぶことで形成され、線状に雨量が多くなる。数時間にわたってほぼ同じ場所を大きな雲が通過または停滞することで形成され、線状に延びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の範囲に強い雨を降らせる。


にゅうどう雲に成長する可能性がある「わた雲(積雲)」にゅうどう雲に成長する可能性がある「わた雲(積雲)」


通常、にゅうどう雲は春から夏にかけて多く発生する傾向がありますが、台風が接近することが多い夏から秋にかけてと、寒冷前線*3が通過する際にもよく発生します。さらに、気温が高いと発生しやすいという特徴があり、例えば気温が上がる昼から夕方にかけて発生しやすくなります。春は20℃、夏は30℃あたりを超えたら要注意です。南の方角から暖かく湿った風が吹いてきたら、発生の確率がさらに高まります。


にゅうどう雲が発生しやすい場所として挙げられるのが、空気が上昇しやすい山間部、ヒート・アイランド現象が起こっている都市部、海からの風がぶつかりやすい沿岸部などです。朝からよく晴れて暑くなるとき、空がちょっと白っぽくなっていて空気が湿っているとき、海の方から湿った風が吹いているときは、にゅうどう雲が発生しやすいので要注意です。


また、写真のようなわた雲が流れていく方向に、大きなにゅうどう雲が発生することもあります。わた雲があちこちで増えてきた際は、にゅうどう雲に成長するかどうかを気にしたほうが良いでしょう。


*3 寒冷前線:冷たい空気が暖かい空気の下に潜り込んで、暖かい空気を急に押し上げながら進む前線。狭い範囲で強風や大雨をもたらす。




「天気雨」が発生する理由

雨のすじを撮影した写真。雲の動きや風によって雨のすじが曲がっていることが分かる雨のすじを撮影した写真。雲の動きや風によって雨のすじが曲がっていることが分かる


空は明るく晴れているのに、雨が降ってくることがありますよね。その理由は、雨粒の落下速度に関係しています。


雨粒は小さくて空気抵抗を受けるため、ゴルフで打って上がったボール(秒速60m程度)や、野球のフライボール(秒速40m程度)ほどの速さにはなりません。1秒間に10mも落下すれば速い方で、小さな雨粒の場合はもっとゆっくりです。例えば、雨を降らせる雲の底の高さが1,200mとすると、秒速10mの雨は120秒、つまり地上に降ってくるまで2分ほどかかることになります。雨が地上に降るまでに時間がかかるため、雲が動いている場合は、いま自分のいる所の真上に見えている雲から降っている雨ではないかもしれません。晴れているのに雨が降る「天気雨」は、このようなときに起こります。


また、雲から地上に降る雨の「すじ」が見えることがあり、この下で雨が降ります。地上に降る雨のすじは「雨足(あまあし)」などと呼ばれ、すじが太いときは「雨柱(あめばしら)」と呼ばれます。



▼雨を降らせる雲の特徴を知って雨天に備える

氷の粒の雲と水の粒の雲が合わさった大きな雲がやってくると、空が暗くなって雨が降る


次回は、雨を降らせる雲のひとつである「にゅうどう雲(積乱雲)」の注意点についてご紹介します。


※記事の情報は2023年1月18日時点のものです。

【PROFILE】
武田 康男(たけだ・やすお)
武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた? 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。

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