建設現場で役立つ!天気の読み方
2023.03.29
「積乱雲」の特徴を知って大雨、突風、雷に備えよう【建設現場で役立つ!天気の読み方③】 建設現場の天気の変化をある程度予測できるようになると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。この連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第3回は強い雨を降らせる雲である「積乱雲(せきらんうん)」に関する注意点についてです。
文・写真・動画:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)
どのように「積乱雲」は発生するのか
地上付近の暖かく湿った空気が上昇すると、気圧の低下で温度が下がり、空気中に含まれていた水蒸気が水滴になります。そのときに熱を放出し、「にゅうどう雲」という背の高い雲をつくります。にゅうどう雲が大きくなり、ジェット機が飛ぶ高度10km前後にまで達した雲のことを「積乱雲」と呼びます。
積乱雲の最上部は氷点下40℃を下回り、雲の中の水滴は氷の粒に変化します。この氷の粒にたくさんの水滴がくっついて、大粒の雨を降らせます。春や夏のはじめの気温がやや低いときなどは、氷の粒が溶けずに雹(ひょう)を降らせることもあります。
積乱雲が発生する時期は、太平洋側は暖かく湿った空気が流れる春から夏の時期と台風がやってくる秋など、日本海側は寒冷前線や寒気がやってくる秋から春に多く見られます。また、空気が上昇しやすい山間部、ヒート・アイランド現象*1が起こっている都市部、海からの風がぶつかりやすい沿岸部などで発生しやすくなります。
朝からよく晴れて日中暑くなるときや、空が白っぽくなっていて空気が湿っているとき、海からの湿った風が吹き寄せるときなどは、積乱雲が発生しやすい傾向があります。
*1 ヒート・アイランド現象:都市の気温が、周囲よりも高くなる現象のこと。気温の分布図を描くと、高温域が都市を中心に島のような形状に分布することから、このように呼ばれるようになった。
積乱雲に注意すべき理由
(1)1時間に80mm以上もの「猛烈な雨」を降らせることがある
1つの積乱雲には、東京ドームが満杯になるほどの量の水が含まれていることがあり、その水が強い雨となって地上に降り注ぎます。強い雨を降らせるのは雨雲の中でも積乱雲だけで、その雨量は「猛烈な雨」と呼ばれる1時間に80mm以上に達することもあります。
積乱雲は巨大な雲なのに、発生から1時間程度で消滅するという特徴もあります。そのため、積乱雲が1つだけだと、一過性の夕立のように長く続かない雨を降らせます。ところが、気象情報などでたびたび耳にする「線状降水帯」では、数時間で数百mmという災害につながるほどの大雨を降らせる恐れがあります。
「線状降水帯」では次々と発生する発達した積乱雲が並び、線状の範囲の場所で集中的に雨を降らせます。数時間にわたってほぼ同じ場所を大きな積乱雲が通過または停滞することで形成され、線状に延びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の範囲に強い雨を降らせるのです。
天気を観察する際に注意すべきなのは、にゅうどう雲の上の方にいくつものはっきりした丸みができて、雲の下側が暗く見えてきた時です。これは大きく成長しようとする積乱雲です。このような積乱雲が近づいてきたら、低地からの退避や安全な建物への導線の確保が必要です。
(2)竜巻や突風を発生させる
積乱雲が成長する時は、周囲にあるわた雲を吸い込み、暖かく湿った空気をどんどん取り込みます。特に、上昇気流が激しいときは、雲の中の渦から「ろうと雲」が下りてきます。これが地上に到達すると竜巻となり、突風を発生させるのです。写真のようなろうと雲が積乱雲の中から出てきたら、頑丈な建物に入って窓から離れた場所で待機するなど、竜巻に備えましょう。
また、積乱雲から冷えた空気が勢いよく地上まで下りてくることもあります。これは「ダウンバースト」と呼ばれる現象で、地上付近で空気が周囲に広がり、突風で電柱などが倒れることもあります。積乱雲の下がかなり暗くなり、ひんやりとした風を感じたら要注意です。
(3)かみなり雲となって「落雷」を発生させる恐れがある
積乱雲の中でたくさんの氷の粒がぶつかり、たまった電気が流れると、「かみなり雲」になります。かみなり雲が引き起こす落雷の強さはすさまじく、電圧が数億V(ボルト)、電流が数万A(アンペア)ほどになります。
ただ、積乱雲が必ずしもかみなり雲になるわけではありません。上部が大きく横に広がった、かなとこ*2の形(アサガオの花が咲いたような形)になると、かみなり雲になりやすいです。
通常、雷の音は十数kmしか届きません。つまり、雷が落ちる音が聞こえたら、もう近くまでかみなり雲がやって来ています。避難先として木の近くや小屋の中はかえって危険です。雷の電流は構造材を介して伝わる恐れがあるため、壁や天井から2m以上離れることができる大きな建物の方が安全性が高まります。
それから、金属でできている車の中も比較的安全と言われています。金属で囲まれた物体の内部には、電気が流れないからです。もし車に雷が落ちた場合、電気はボディーの金属部分を伝ってタイヤから地面に流れていきます。
電流の大小によって変わりますが、高さ5m以上の物体を直撃した雷の電気は、物体の周囲4m以内の地面に流れるという傾向があります。もし、大きな建物や車の中など安全な場所に避難できない場合は、高さ5m以上の物体から4m以上離れた場所に避難しましょう。
目安としては、物体から4m以上離れ、物体の先端を45度以上の角度で見上げる場所まで移動できたら、緊急避難場所に入っていることになります。できるだけ姿勢は低くして、両足を付けて体を小さくしてうずくまるのがよいと言われています。
ちなみに、夜間は雷の光が遠くから見えるため、昼間と比べて早めに雷の対策をとることができます。
*2 かなとこ:鍛冶(かじ)や金属加工を行う際に使う作業台のこと。漢字では「金床」と表記する。
さまざまな怖い現象を発生させる積乱雲
今回説明した積乱雲に対する注意点をまとめてみましょう。 まずは、昼間でも空が暗くなるような背の高い積乱雲の下では、急な強い雨や竜巻などの突風、降雹(こうひょう)、落雷の心配があります。雷が発生した時は正しい避難場所の確保が必要です。
また、1つだけの積乱雲は1時間程度で消滅しますが、線状降水帯のように積乱雲がたくさん並んでいるときは雨量が多くなります。積乱雲が発生する兆候を見つけた際にすぐに対応できるよう、避難経路を確認しておきましょう。
次回は、天気を知る際におすすめできるサイトをご紹介します。
▼「積乱雲」の特徴を知って大雨、突風、雷に備えよう
積乱雲がどんどん成長していく様子。背の高い大きな積乱雲になると、急な強い雨や突風、雹、落雷を引き起こすことがあります
※記事の情報は2023年3月29日時点のものです。
- 武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた‼ 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。