2024.02.21

天気予報の「ずれ」を理解して、予測の精度を高めよう【建設現場で役立つ!天気の読み方⑧】 天気の変化をある程度予測できると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。本連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第8回は天気予報の「ずれ」を理解して予測の精度を高める方法についてです。

文・写真・動画:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)

天気予報の「ずれ」を理解して、予測の精度を高めよう【建設現場で役立つ!天気の読み方⑧】

天気の言葉の定義を知り、天気予報を正しく理解する

例えば、天気予報で「夕方、にわか雨があるでしょう」という場合、「夕方」は何時ごろを指すのかご存じですか。「夕方」と聞くと「日が沈む頃」だと思われがちですが、気象庁では「15時頃から18時頃まで」を「夕方」と定めています。夏は太陽がまだ空に輝き、冬は真っ暗になっている時間もあります。天気予報で伝えている時間と自分自身が思い込んでいる時間にずれが生じて、「自分が予想していた時間に雨が降らない」といったことが起こる可能性があります。


また、「明け方」は「3時頃から6時頃まで」、「朝」は「6時頃から9時頃まで」、「午後」は「12時頃から24時頃まで」、「夜のはじめ頃」は「18時頃から21時頃まで」を指します。例えば、札幌と那覇では日の出入りの時刻が1時間くらい異なることもあり、季節によっても日々の感覚と気象庁が定義した言葉にずれが生じます。どの言葉がどの時間帯のことを指すのかは、気象庁が発表している「1日の時間細分図」を見ると分かります。天気予報を正しく理解するためには、天気の言葉の定義を知っておくとよいでしょう。

1日の時間細分図(府県天気予報の場合)(出典:気象庁)1日の時間細分図(府県天気予報の場合)(出典:気象庁)



「天気予報"はずれる"」ではなく、「天気予報は"ずれる"」

天気予報に関わる人から、「天気予報"はずれる"」は「天気予報は"ずれる"」とも解釈できると聞きました。雨が晴れになって天気予報が外れたとき、雨の降る時刻がずれた可能性があります。天気予報がずれる可能性があることを知っておくと、慌てることが少なくなるでしょう。


そして、天気予報と併せて気象庁の天気図を見ることをおすすめします。気象庁の天気図には、高気圧や低気圧の進行方向と速さが描かれています。これらの情報は、テレビなどで使われる天気図には載っていないことが多いですが、現在の低気圧などの動きから、翌日にどの辺りまで移動するかを予想できます。


例えば、以下の天気図(2023年11月6日9時)では朝鮮半島の北側に低気圧があり、その上部に進行方向と速さが記載されています。この低気圧は東北東の方向に時速55kmで移動するため、24時間後には1,300kmほど進むと考えられます。天気図上の緯度10度の幅が1,100km位ですから、24時間後には北海道のすぐ北のオホーツク海付近に達すると予想されます。そして、寒冷前線も低気圧と同じように動くと、24時間後には関東付近に達すると思われます。


2023年11月6日9時の天気図(出典:気象庁)「2023年11月6日9時の天気図」(出典:気象庁)


実際に24時間後の2023年11月7日9時には、天気図が以下のようになりました。低気圧は分裂して2つになり、1つは遅れていますが、前線を伴う低気圧は北海道のすぐ北に移動していて、寒冷前線は関東付近を通っています。ほぼ予想した通りです。このように、天気図から低気圧や前線の動きを予想できます。


2023年11月7日9時の天気図(出典:気象庁)「2023年11月7日9時の天気図」(出典:気象庁)


天気予報はコンピューターが作成した予想天気図を元に、気象庁の予報官や気象予報士が修正を加えながら作成します。慎重につくった天気予報でも、進行方向や速さが変化するなど、ずれる場面がたまに出てしまいます。

天気図に記載された低気圧の向きや速さをチェックして、時間的なずれを予想しておけば、その後の天気の変化にもうまく対応できるでしょう。天気図の見方については「第5回:天気図から風の向き・強さを予測する方法」「第6回:天気図で雨を予測する方法」でもご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。


また、空の様子を見れば、雲や風などから天気の変化を察知できます。以下の写真は、先ほど例に挙げた天気図(2023年11月6日)と同じ日の15時過ぎに、富士山付近の空を撮影したものです。まさに、寒冷前線接近時の怪しい雲が出ていました。

悪天前の富士山の雲(2023年11月6日15時過ぎに撮影)悪天前の富士山の雲(2023年11月6日15時過ぎに撮影)

そして、以下の動画は2023年11月7日8時~10時の富士山付近の空を撮影したものです。寒冷前線通過時の雨は天気図どおりに9時に終わり、その後、急に晴れ間が出ました。

寒冷前線通過の後、晴れていく富士山上空(撮影日時:2023年11月7日 8時~10時)



先の天気予報ほどずれる可能性が高い

気象庁が発表している「地域時系列予報」では、2日後(48時間後)までの天気の様子が時間帯ごとに詳しく発表されています。2日後より先を知りたい場合は、気象庁トップページのメニューバーから「防災情報」→「天気予報など」項目内の「向こう一週間」をクリックすると、週間予報を見ることができます。週間予報では、天気や降水確率が表示されており、先の予報になればなるほど信頼度が下がっていくことが多いです。今の天気予報の精度だと、その程度が限界です。



気象庁が発表している「地域時系列予報」(出典:気象庁)気象庁が発表している「地域時系列予報」(出典:気象庁)


気象庁が発表している「週間予報」(出典:気象庁)気象庁が発表している「週間予報」(出典:気象庁)



気温については、2週間先まで発表されるようになりました。気象庁トップページのメニューバーから「防災情報」→「天気予報など」項目内の「2週間気温予報」で確認でき、左上にある「府県」で調べたい地域の気温を表示できます。「2週間気温予報」では、最高気温・最低気温それぞれの予測範囲と平年値も表示されるので、これからの気温の傾向を知る際に役立ちます。


気象庁が発表している「2週間気温予報」(出典:気象庁)気象庁が発表している「2週間気温予報」(出典:気象庁)



また、気象庁トップページのメニューバーから「防災情報」→「天気予報など」項目内の「季節予報」では、天気の傾向を知りたい都道府県をクリックすると、その都道府県の月ごと、季節ごとの天候・気温・降水量の傾向を確認できます。予報文だけでなく、「気温、降水量、日照時間の各階級の確率」を見ることで気温や降水量、日照時間がどのような傾向なのかを把握できます。これらの情報は、天気予報がどのようにずれる可能性があるのかを予想する時に役立ちます。

気象庁が発表している「季節予報」(出典:気象庁)気象庁が発表している「季節予報」(出典:気象庁)



さまざまな情報をチェックして、天気予報の「ずれ」に備えよう

1994年に気象予報士制度が始まってから、民間の気象予報会社が独自の天気予報を出せるようになりました(ただし、台風などの防災に関する情報は気象庁だけです)。例えば、「ウェザーニュース」「tenki.jp」などのWebサイトのほか、会員向けに山や海のレジャーなどに特化した天気予報もあります。

「Windy.com」など海外Webサイトの天気予報も分かりやすく、仕事やレジャーで参考にしてる人も多いです。気象庁でも参考にしていると聞いています。「第4回:自分に合った天気予報のWebサイトを見つけよう」でも各Webサイトについて詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。


また、X(旧Twitter)で気象庁や気象情報会社のアカウントをフォローしておくと、最新の情報や竜巻などの突発的な天気の変化をプッシュ通知で知ることができます。天気予報がずれた際も、さまざまな情報をチェックすることで適切な対応につながるでしょう。ただし、インターネットの掲示板やSNSは個人が間違った情報を発信している恐れもあります。情報の信ぴょう性には注意しましょう。


「天気予報はずれた」と言われることがありますが、自然が相手のため、「100%当たるものではない」ということを知ってほしいです。天気予報は「ずれる」ことがあると思えば、天気予報をより活用できます。大事なことは、正しい知識で、最新の天気予報を確認し、できれば空も見てみることです。


※記事の情報は2024年2月21日時点のものです。

【PROFILE】
武田 康男(たけだ・やすお)
武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた? 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「天気も宇宙も!まるわかり空の図鑑」(エムディエヌコーポレーション)、「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。

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