2022.02.02

【建設でがんばるヒント 第6回】中小建設会社のICT その1 建設技術コンサルタントとして活躍する降籏達生さん。主宰するメールマガジン「がんばれ建設~建設業専門の業績アップの秘策~」でも健筆をふるわれています。本連載では、降籏さんに建設業界で生き生きと働くためのヒントをご教示いただきます。今回から新テーマ「中小建設会社のICT」について解説していただきます。

文:降籏達生(ハタ コンサルタント株式会社社長)

【建設でがんばるヒント 第6回】中小建設会社のICT その1

DX、ICTをスムーズに進めるための方法

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にするようになった。これは今後、建設業界を含めあらゆる産業の企業が避けて通れない、デジタル技術による業務やビジネスの変革のことである。デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称であるDXは、TransをXと略す英語圏の慣例からきている。

■デジタル化とDXの違いとは

「Digital Transformation」を直訳すると「デジタル変換」で、これまでアナログで進めてきた業務をデジタル化するという意味だ。ただし、DXとデジタル化は意味や目的が異なる。デジタル化は、単にこれまでアナログで実施していたことをデジタルに変えることを指すが、DXには次の3つのことが含まれる。


1. アナログ情報のデータ化

・タブレット、スマホ、PCを活用して、紙、FAXの利用をなくす。
例:図面管理システム、勤怠管理システム、ドローンを活用した測量、3Dレーザースキャナー

・各自がそれぞれ実施している業務(施工結果、歩掛かり等)を「標準化」し、情報が「属人化」していて個人に聞かないといけない状態を解消する。
例:クラウドサーバー、積算システム


2. プロセス、システムのデジタル化

・仕事の流れを自動化することで手待ち、手戻り、手直しを減少させる。
例:写真撮影自動化システム、自動追尾式測量システム

・社内データ、現場データを集約、統合管理する(現場からの原価管理データを、財務管理データと自動統合させ、現場情報を元請けと下請けとの間で共有する)

3. 顧客にインパクトを与える変革

・品質向上、工期短縮により競争力を向上させる。
例:マシンガイダンス、マシンコントロール

・1人1時間あたりの生産性の向上により、原価を低減する
例:ビジネスチャット

DXには3つの要素があるDXには3つの要素がある



■DXへの取り組みは「制度」と「風土」の両面

DXを推進するためには、「制度」と「風土」の両面で業務の進め方を変えていく必要がある。「制度」を変えていくためのポイントは、以下の2つだ。

1つ目は、DX推進を専門とする部署やチームをつくること。DX専門のプロジェクトチームをつくり、役割を決め、DXに必要な権限を付与したりすれば、取り組みを進めやすくなるだろう。

2つ目は、DX専門の組織に専任のリーダーを配置すること。CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)と同じように、CDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)を選任する必要がある。

現状では、デジタル化がなかなか進まない建設会社もあるだろう。それに対してデジタル化が進んでいる会社の特徴は、DXの知識がある社員がいて、その社員に権限を与えていることだ。社長や幹部がICT知識を有していれば問題ないがDXに詳しい若手がデジタル化を進めている場合は、その人にCDOなどの権限を与えるとスムーズに進むだろう。

続いて、「風土」について解説する。
DXに関する風土レベルを5段階に分けると、次の表のようになる。

段階 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5
風土の特徴 導入を検討しているが未導入 導入を開始した段階 一部使っているが重要性を認識していない 会社全体が重要性を認識しつつある 完全に定着している


発注者の要望でICT施工を取り入れた段階や、働き方改革の一環で残業を減らすためにICTを導入した場合は、レベル3である。



■DX推進の5ステップ

では、建設会社はどのような手順でDXを進めればよいのだろうか。
筆者が勧めるのは、以下の5ステップだ。

1. 経営者の決意
2. プロジェクトの組織化、IT人材の育成・採用
3. プロジェクトの推進(何をICT化するかを決める)
4. 全社展開
5. 効果の測定、手法の改善


ここで、自社のDX診断をしてみてほしい。次の表の項目に対して、自社がどのレベルかを診断し、課題を知ることで、DXレベルを向上させよう。

項目 レベル1
(アナログ)
レベル2 レベル3
社内インフラ 社内Wi-Fiのみ ゲストWi-Fiあり 社外からつながる
コミュニケーション 電話、FAX、郵送 メール ビジネスチャット
デジタルツール 1人1台のパソコンがない 1人1台のパソコンを支給 ノートパソコンとWi-Fiを支給
経費精算、勤怠管理 紙で精算 オンラインシステム 契約、捺印を電子化
決済 現金、クレジット 非接触IC、QRコード サブスクリプションシステム導入
ホームページ 更新されていない 定期的に更新 SNSを活用
顧客情報 紙の名簿 顧客データベースがある 顧客情報を常時データベース化している
SNS 自社SNSを開設していない 自社SNSを開設しているが活用していない 自社SNSを戦略的に活用している
会議 会議室にモニターがない 会議室にモニターが設置されている 会議室でリモート会議ができる
IT部門 社内にIT部門、マーケティング部門がない IT部門とマーケティング部門が連携していない IT部門とマーケティング部門が連携している
社員リテラシー 経営層含めパソコン、スマホを使えない社員がいる 経営層含め社員がパソコン、スマホを使える 社員全員がクラウド、チャットでつながっている
顧客の声 顧客の声を経営に反映させていない 顧客の声をIT、マーケティング部門で活用していない 顧客の声を経営に活かしている
予算 デジタル化の予算がない デジタル化の予算はあるが、DXや新規案件には予算が付いていない DX、新規案件を進めるための予算が付いている
革新性 前例のないことは 却下される 迷ったらやる環境がある 言いたいことを言いやすい
経営層 デジタルに関心 がない IT化の必要性を感じている 経営層にDX、マーケティングの知識がある

※「マーケティング視点のDX」(江端浩人著、日経BP)を参照


とはいえ、どこからデジタル化を始めたらよいか分からない人には、第一歩として便利なツールを活用することをお勧めする。例えばGoogleにははじめの一歩として必要なツールがそろっており、かつ安価(ほぼ無料)である。社員全員のカレンダーを共有できる「Googleカレンダー」やアンケートを容易に作成・集計できる「Googleフォーム」、TO DOリストをPCやスマホなどで共有できる「Google Keep」など。いずれもデータがクラウドに保存されるため、社内で情報共有できることが特徴だ。DXの第一歩として、ぜひ便利なデジタルツールを活用してほしい。


※記事の情報は2022年2月2日時点のものです。

【筆者紹介】
降籏 達生(ふるはた・たつお)さん
降籏 達生(ふるはた・たつお)
ハタ コンサルタント株式会社代表取締役。1961年生まれ。大阪大学工学部土木学科卒業後、株式会社熊谷組に入社。トンネル工事、ダム工事、橋梁工事に従事する。1995年阪神淡路大震災を目の当たりにして開眼。ハタコンサルタント株式会社を設立し、技術コンサルタント業を始める。実績は建設技術者研修20万人、現場指導5000件を超える。「がんばれ建設~建設業専門の業績アップの秘策~」は読者数20,000人、日本一の建設業向けメールマガジンとなっている。
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