2019.03.29

BIM/CIMって何だ?【前編】ICTが拓く建設業界の未来とは 建設業を根本から変えるとされるBIM。この新時代の建設プロセスで何ができるのか? 建設業界をどんな風景に変えていくのだろうか? 前編ではそのイメージをつかむ。

BIM/CIMって何だ?【前編】ICTが拓く建設業界の未来とは

建設業界から図面がなくなる

海外、特にアジア圏で急速に進化を遂げているBIM(Building Information Modeling)。建築物の計画段階から3次元データを使ってプロセスを進めていく新しい手法だ。いったい、BIMによって何が可能なのか、建設業界はどんな世界に変わるのか、また、その導入のハードルや関門は何なのかを、前後編、2回に分けて考えてみたい。

建設業界のBIM推進の機運を受け、アクティオでは、このほどパートナー各社とBIM関連の業務支援プロジェクト「i-BIM+」をスタートさせた。今回は、このプロジェクトに関わる3人に集まっていただき、BIMの基本とこれからについてお話を聞いた。

左からアクティオIoT事業推進部 森善啓、ペーパレススタジオジャパン勝目高行代表取締役社長、アクティオ新規事業開発部 辻尾晃一左からアクティオIoT事業推進部 森善啓、ペーパレススタジオジャパン勝目高行代表取締役社長、アクティオ新規事業開発部 辻尾晃一


前編では、まず、i-BIM+のパートナー企業で、国内最大級のBIMコンサルティング実績を持つペーパレススタジオジャパン株式会社の勝目高行代表取締役社長にBIMの基礎知識を伺おう。

編集部:今注目のキーワード、BIM(ビム)ですが、これを簡単に言うと?


勝目高行(ペーパレススタジオジャパン):BIMは、建築物の計画段階から、3次元データをみんなで共有しながらプロセスを進めていく新しい建設プロセスです。現在、建築業界の情報共有と言えばやはり図面などの紙が主なんですが、それが3次元データに置き替わってしまいます。弊社の社名は「ペーパレススタジオジャパン」といいますが、まさに建築業界から図面をなくそうとしている会社なんです(笑)。

ペーパレススタジオジャパン勝目高行代表取締役社長編集部:従来から3次元データで設計する3DCADというものもありますが、それとの違いはどこにあるのでしょう?


勝目:BIMはBuilding Information Modelingの略で、これはコンピュータを使って、建物の3次元モデルを「情報込み」で組み立てる、といった意味合いがあります。BIMでは、3DCADのような建物の形状にくわえて、構造ですとか、材質ですとか、コストといった建築にまつわる様々なプロパティデータを紐付けていく、というところが、大きく違います。また、そうして作り上げたデータをクラウドに上げて、関係者全員で同時に共有しながらプロセスを進めていく、というところが従来の考え方と圧倒的に違うところです。BIMは単に設計の手法ということではなくて、コミュニケーションとコラボレーションのためのものなんですよ。なのでクラウド上にBIMモデルを上げて共有、というのはマスト、前提です。それがなければメリットは半分ぐらいしか享受できません。



建物を2度建てる

このようなBIMモデルを共有しながらプロセスを進めていくこのようなBIMモデルを共有しながらプロセスを進めていく


編集部:
設計の段階で現実の建物を、バーチャルな世界でまるごとシミュレーションしてしまうわけですね?

勝目:はい。BIMの世界では、建物を「2度建てる」という言い方をするんですよ。1度目は、バーチャルな世界に建てて、様々な角度から検討します。そして、あらゆる不具合を取り除いたうえで、2度目は、もう一度リアルに建てましょう、と。この1度目のバーチャルな建築の中で徹底的に検証をするわけです。また、今までの図面では建築の専門家でなければ、最終形を想像するのは非常に困難だったんですが、BIMでは、常に最終形が見える状態でプロセスが進んでいきます。例えばできあがる施設を実際に使われる方、子供から大人まで、最終形を見ていただきながらプロジェクトを進めていくことができます。今、いろいろなデバイスが進化しています。VRゴーグルとか、ヘッドマウントディスプレイ、ホロレンズなど、新しいデバイスの中で、BIMの最終形をみながら進めていくことができるわけです。



BIM/CIM/i-Construction

編集部:BIMの他に、国内ではCIMという言葉や、やや似ている国交省のi-Constructionもありますが?

勝目:日本におけるBIMと海外におけるBIMはちょっと定義が違っています。日本では、BIMはどちらかというと建築寄りのもので、土木に関してはCIM(Construction Information Modeling)、そしてその中に「ICT施工」にフォーカスしたi-Constructionがある、という感じだと思います。海外においては、建築も土木も含めてBIMという定義なのでBIMという概念の中に、日本におけるCIMであるとか、i-Construction的な要素が入っている、というイメージです。

辻尾晃一(アクティオ新規事業開発部):例えば、日本でBIMのセミナーをやるというと、土木の会社さんから、うちは土木でCIMだから...... ということで敬遠されるケースもあるんです。

勝目:BIMもCIMと規模や対象が違うだけで、技術そのものはほぼ同じものが使われているんですけどね。

辻尾:なので、アクティオでは、BIM/CIMと併記するようにしています。


編集部:日本では、なんだか、ちょっとモヤっとしていますね(笑)。


海外のBIMはスマートシティを目指す

編集部:海外では国内に比べてBIMがかなり進んでいると聞きますが?

勝目:BIMを巡っては、世界と日本では、かなり状況が違います。アジアにおいても韓国、中国、台湾がかなり先を走っています。日本はこれから本格的に取り組んでいこうという段階です。

編集部:海外で上手くいっているポイントはなんでしょうか?国の政策とか?

勝目:基本的に、BIMが進んでいるどの国も、最終的にスマートシティを指向しています。例えば、シンガポールは5,000平米以上の現場はすべてBIMでやりなさい、という規則があるんです。要は、スマートシティを構築するためには、都市のデジタルデータはとても重要なので、それを効率良く収集するためには、国を挙げてBIMを推進して、そこで作ったデジタルデータを行政に納めなさい、とやったほうが効率良いわけです。そうすれば自動的に集まってくるわけですから。集まったデータにいろんな解析を行ったうえで、都市のスマート化をはかっていく。なので、いろんな国でBIMを使ってデータを納めると補助金が出たり、教育コストやソフトの購入資金を行政が負担したりということが行われています。スマートシティの構築がゴールに設定されているんです。



BIMを使えば2階建ての家が2日で建つ?!

勝目:海外の最新の建設現場にいくと、職長さんが全部タブレットを持っていて、朝、そこにその日のタスクが送られてくる。1日終わるとチェックリストがあって、それをチェックして写真を撮って送る。するとオーナーさんに報告される。といった感じで、施工管理の情報化が進んでいます。このような現場はどんどん増えていますね。日本ではまだまだ紙ベースですが、そこまでいくと、かなり建設のスピードや精度が変わってくるというのが現実です。


編集部:これまでのご経験の中で成功事例とか面白いトピックがあったらご紹介いただけませんか?

勝目:私の会社の経験では、2階建ての戸建てだったんですが、2週間の工程を2日にしたいとおっしゃるオーナーさんがいらっしゃって、BIM的な手法を使って実現したことがあります。

編集部:え、そんなこと、できるんですか?

勝目:それが、実際やってみるとできるんですよ。これまでは、職長さんが図面を渡されて、それを一生懸命読んで、現場の若い人たちに指示を与えながら組み立てをやっていたわけです。それを、BIMプロセスを取り入れて工期の短縮をはかりました。

編集部:どうやったんですか?

勝目:BIMの場合、設計は3Dデータなので、まず、それを使ってプラモデルの組み立て図のようなものを作りました。そして、工程2週間を2日間に組み直して、順番に組み立て図を現場に貼りだしていきました。朝、集まった若い職人さんたち全員に見てもらいながら組み立てを進めていったんです。そうすると、職人さんたち全員が、いっぺんに仕事を理解できるので、作業も同時平行で進むようになる。あとは、材料をスムーズに供給できれば、2週間の工程のものが、ちゃんと2日で建つんです。海外の大型の現場でも、タブレット端末を使ったりして、同じようなことをやっている事例は多くなっています。海外ではそもそも図面を読めない職人さんが多いので、そういうところでは、図面が読めなくても作業できるというのは重要なことなんです。これは日本でも他人事ではありません。今後、図面を達者に読めるベテランの職人さんがどんどんやめていかれるので、本当に重要です。



BIMは建設作業員のフライトシミュレーター

編集部:BIMモデルを使えば現場をそのままシミュレーションできるわけですよね。とすれば安全面も事前に対策できるわけですか。


勝目:もちろんです。私は、BIMって、建設作業員の「フライトシミュレーター」だと言っているんですよ。航空機では、シミュレーターを使ってパイロットの卵の人たちがいろんな経験を積んで技術を磨いていきますよね。BIMはバーチャルな世界ですべてをシミュレーションするので、そこでどんな事故が起こっても問題ない。施工方法や重機の配置なども、その中で十分に検討し、改善することができます。いわゆるVRを使うと1分の1のサイズで建物が見えるので、例えばこの足場の上に立つとどれぐらいの高さなのか、実感できる。実際に重機に乗って運転席から現場を見ることもできるわけです。そうやって危険を特定し、あらかじめ除去することができるんです。

編集部:いろんなことが、ガラッと変わってしまいそうですね。

BIMは設計段階であらゆるものを3Dモデルに紐付けて、さらにそれを関係者全員で共有するところから始まる。勝目社長のお話は、どれも興味深いものばかりだった。「建物を2度建てる」「BIMは現場作業員のフライトシミュレーター」というフレーズは特に印象的だ。

次回後編では、アクティオならではのBIMへの取り組みを、アクティオでBIMを推進しているスタッフに語っていただこう。



→i-BIM+について詳しくはこちら(ニュースリリース・PDF)
→i-BIM+お問い合わせはこちら


※記事の情報は2019年3月29日時点のものです。


後編へ続く



〈ご参考までに...〉

事業分野紹介「i-Construction(ICT施工)」(アクティオ公式サイト)

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