2024.10.17

久保田 豊|どぼく偉人ファイルNo.17 土木大好きライター三上美絵さんによる「どぼく偉人ファイル」では、過去において、現在の土木技術へとつながるような偉業や革新をもたらした古今東西のどぼく偉人たちをピックアップ。どぼく偉人の成し遂げた偉業をビフォーアフター形式でご紹介します。第17回は、戦後の日本で「コンサルティング・エンジニア」という地位を確立し、途上国の開発事業に生涯をささげた久保田豊です。

久保田 豊|どぼく偉人ファイルNo.17

Before:戦前の朝鮮半島で電源開発に打ち込む

東京帝国大学(現東京大学)土木工学科で廣井勇(どぼく偉人ファイルNo.12)の教えを受けた久保田豊は、卒業後に内務省や電力会社を経て独立。その後、1930(昭和5)年から、朝鮮の鴨緑江(おうりょくこう)流域開発に携わった。


赴戦江(ふせんこう)ダム、長津江(ちょうしんこう)ダム、水豊(すいほう)ダムという3つのダムを築き、当時の世界最大規模である合計70万kWに及ぶ水力発電事業によって、化学工業を発展させる計画だった。久保田は1943(昭和18)年に水豊ダムが完成した後も、鴨緑江の上下流にダム式発電所の建設を続けていたが、1945(昭和20)年の敗戦で日本へ引き揚げた。


朝鮮と満州の国境を流れる鴨緑江に建設された水豊ダム。ここで発電した電力は両国へ送電され、人々の生活や経済を支えた(写真提供:日本工営)朝鮮と満州の国境を流れる鴨緑江に建設された水豊ダム。ここで発電した電力は両国へ送電され、人々の生活や経済を支えた(写真提供:日本工営




After:戦後の東南アジアで技術協力の先駆けとなる

戦後、久保田は日本の復興を目指し、建設コンサルタント会社(現在の日本工営)を設立。やがて海外でも、ビルマ(現ミャンマー)のバルーチャン水力発電所開発事業を皮切りに、ベトナム、ラオス、インドネシアなどで水力発電を軸とする開発事業を手掛けていった。これらは発電所をつくるだけでなく、鉄道や道路、農業用水路、堤防などのインフラを含む総合的な開発であり、日本のODA(政府開発援助)の礎となった。


また、事業全体の調査や評価、提案ができる建設コンサルタントはアジア各国から求められ、日本のコンサルタント会社の海外進出の道もひらいた。


ミャンマーのバルーチャン水力発電所。日本の建設コンサルタント会社が海外へ進出する先駆けとなった(写真提供:日本工営)ミャンマーのバルーチャン水力発電所。日本の建設コンサルタント会社が海外へ進出する先駆けとなった(写真提供:日本工営




久保田豊のここがスゴイ! 〜ミカミ'sポイント〜

Point1:90歳まで世界を駆け巡ったコンサルティング・エンジニア

社会の発展には産業の育成が不可欠。そして産業の育成には安定的で安価な水力発電が効果的である――。それが、久保田の生涯にわたる信念だった。戦前には朝鮮をはじめ中国の海南島(かいなんとう)、マレーシア、インドネシアのスマトラ島やジャワ島などにも仕事の領域を広げ、インフラ整備や資金づくりにも携わった。戦後は、そんな一人の土木技術者の枠を超えた経験を生かして建設コンサルタント会社を設立し、「コンサルティング・エンジニア」の地位を確かなものにした。


久保田は1986(昭和61)年に96歳で他界したが、じつに90歳まで現役で海外のプロジェクトを指揮したという。まさに生涯を途上国の経済発展のための開発事業にささげた偉人なのだ。


Point2:途上国の持続的発展への貢献が国内外で認められた

久保田は晩年に私財を投じて、技術者の教育を助成する「公益信託久保田豊基金」を設立した。途上国が持続的に発展していくためには、若年者に対する継続した教育が欠かせないと考えたからだ。これまでに30カ国以上、延べ約300人の若者が日本で技術を学び、帰国後には故国の発展に尽くしている。


国内外へのさまざまな貢献が認められ、久保田は存命中に勲一等旭日大綬章をはじめ、カンボジアやビルマ、ベトナム、ラオスからも顕彰を受けている。また、2013(平成25)年には国際コンサルティング・エンジニア連盟(FIDIC)から「FIDIC Centenary Awards (FIDIC100周年記念賞)」が授与された。この100年間に世界で活躍した技術者として、個人では2人だけの大賞受賞者のうちの1人に選ばれたのである。


※記事の情報は2024年10月17日時点のものです。

【PROFILE】
三上美絵(みかみ・みえ)
三上美絵(みかみ・みえ)
土木ライター。1985年に大成建設に入社。1997年にフリーライターとなり、「日経コンストラクション」などの建設系雑誌や「しんこうWeb」、「アクティオノート」などのWebマガジンなどに連載記事を執筆。一般社団法人日本経営協会が主催する広報セミナーで講師も務める。著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員、土木広報大賞選考委員。
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