インタビュー
2021.12.08
「助太刀」で若者の成長もサポートしたい【建設業の未来インタビュー④ 後編】 工事会社とのマッチングサービスを提供する「助太刀(すけだち)」アプリ。サービス提供開始から3年半で登録事業者数が約16万に達しました。サービス内容は工具の購入・レンタルや工事代金の受け取りなど着々と増えています。助太刀で代表取締役社長兼CEOを務める我妻陽一氏へのインタビュー後編では、建設業への若手の入職促進に向け、どのような戦略や展開をお考えなのかをお伝えします。
ゲスト:株式会社助太刀 我妻陽一代表取締役社長兼CEO
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)
〈前編〉はこちら
協業の機会を生かし、提供サービスを広げたい
――助太刀では建設現場を魅力ある職場に改めることで若手の入職を促すことを目指していますね。入職促進に向けた手応えや可能性をどのように感じていますか。
我妻 まず個人登録事業者の年齢構成です。建設現場の平均的な構成に比べて、若い人の比率が多いのが特徴です。テレビやラジオのCMのほかデジタル広告を出していることもあって、やはり若い人がアプリの存在を知る機会が多い。しかも「助太刀」のマッチングサービスを利用することは、自らの成長にもつながるととらえていただいているようです。例えば、アプリを利用して取引先を自ら見つけることができ、将来は独立するというキャリアプランを描けるようにもなります。若手の成長をサポートできていると感じています。
助太刀ではマッチングサービスのほかにも、さまざまなサービスを手掛けています(本インタビューの前編をご参照ください)。これらのサービスは実は、若手のキャリアパスに沿って設計しています。建設業界に入職し、アプリの存在をまず知る。最初はアプリを通じて1人で仕事を受注し、経験を積んだら、アプリを通じて自ら仲間を集め、仕事を発注する側にも回る。そうなると資金繰りの必要から、受注者が工事代金を即日に受け取れる「助太刀あんしん払い」の利用が欠かせなくなる。
また事業規模の拡大に合わせて事業効率を向上させるには、必要な工具を手軽にレンタル・購入できる「助太刀ストア」の利用が役に立つ。さらにキャリアを重ねれば、会社を立ち上げ、建設業の許可を取り、社員を雇用する、という選択も生まれる。そこまで成長できたら、社員採用支援の「助太刀社員」という最近人気のサービスを利用することで新しい人材を確保し、工事会社として事業をより成長させていく、という想定です。
CCUSとの連携をスタート
――技能労働者のキャリアパスを意識する点では、一般財団法人建設業振興基金が2019年4月から本格運用を始めた「建設キャリアアップシステム(CCUS)」とも相通じるところがあります。2021年7月には、このシステムとの連携もスタートさせました。
我妻 連携による具体的な取り組みの1つとして、CCUSに登録済みの技能労働者や工事会社はアプリ上で登録済みであることを示すようにしています。画面上にバッジが表示されます。登録済みであることが分かれば、その技能労働者に仕事を発注するにしても、その工事会社から仕事を受注するにしても、安心です。技能労働者は仕事を受注しやすくなる。それが、CCUSへの登録のモチベーションにつながります。
いっぽう、私たちからすると、国が主導するCCUSと連携することで、自社サービスの安心感や信頼感を高められます。私たちサービス提供者はもちろん、CCUSにとっても技能労働者にとってもメリットが見込める、言わば三方よし*の連携であると言えると思います。
* 三方よし:商売において「売り手よし、買い手よし、世間よし」の3つのよし。売り手と買い手に加えて社会貢献も重視すること。由来は江戸時代の近江商人の心得から。
いまはまだ、「助太刀」を利用する登録事業者の中で、CCUSに登録済みの技能労働者がアプリ上で登録済みであることを表示させているだけです。今後は、まだ登録していない技能労働者もCCUSに登録するようになっていくでしょう。それが促されるように、将来は「助太刀」からもCCUSに登録できる仕組みを加えていくことも検討していきたいです。スマホから手続きができるようになれば、CCUS登録の促進につながると思います。
――技能労働者のキャリアパスを描くうえで必要になるサービスを他社との協業によって提供していくことができるのは、「助太刀」というプラットフォームの強みでもあると思います。提供サービスは今後も増やしていくお考えですか。
我妻 はい、今後も機会があれば、協業していきたいと思います。建設業界では300万人規模の技能労働者が就労していると言われています。しかしこれまでは、そこにどうアプローチすればいいか、分からなかった。ところが、このアプリの登場によって、アプローチの仕方が明確になりました。しかも、こうしたプラットフォームは唯一無二です。金融機関やメーカーなど多くの企業から、協業へのお誘いをいただいています。
私たちはこうした協業の機会を生かし、アプリで利用できるサービスを広げ、「助太刀」を技能労働者にとってなくはならない存在にしていきたい。そうなれば、協業相手の企業は「助太刀」をハブに、新しい商圏を得られるようになります。ここでもやはり、技能労働者にとっても私たちにとっても協業相手にとってもメリットが見込める、三方よしの関係を築くことができるのです。
――建設現場を魅力ある職場に、というミッションを掲げています。ミッションの遂行に向け、今後、どのような事業展開を目指しますか。
我妻 助太刀ではさまざまなサービスを展開してきたため、時々の状況に合わせて多角化を図ってきたように思われがちですが、そうではありません。いまのようなサービス展開は創業から半年くらいの間ですでに想定しており、その段階で描いていた目標とする姿に向かって事業を広げてきただけです。
コア事業は、登録事業者間のマッチング、社員採用支援という2つのサービスです。これらコア事業の魅力を核に、登録事業者数を現在の16万からさらに増やしていきます。このプラットフォームを活用し、すでに取り組みを始めている事業に加え、将来的にはさまざまな事業を展開していきたいと考えております。教育事業もその1つです。建設業には業務を行ううえで必要な資格はたくさんありますが、試験を受けようとする技能労働者にとっては受験しやすい環境が整っていません。今後この事業に参入する余地が見込めます。
さらに、国内で唯一無二のプラットフォームを構築し終えた暁(あかつき)には、東南アジアをはじめとする海外にも進出したい。いまは残念ながら、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からも海外進出に向けた取り組みは難しいですが、そのうち取り組みを始めていきたいと考えています。
ブランド名は国内と同じく「助太刀」ブランドで進出する予定です。「助太刀」という言葉が海外でも日本と同じ意味で使われるように、ブランディングの浸透には力を入れていきたいですね。
【取材を終えて】
人生100年時代。誰もが自らのキャリアに向き合わざるを得ない時代です。それは、建設現場の技能労働者にとっても同じ。担い手不足を背景に若手の入職促進をうたうのであれば、業界への呼び込みを図るだけではなく、現場労働者のキャリアパスを想起させるような取り組みが欠かせません。助太刀は、そこに挑みました。ビジネスで社会課題の解決を図る――。建設系スタートアップの手本とも言える企業です。今後の事業展開が楽しみです。(茂木俊輔)
※記事の情報は2021年12月8日時点のものです。
- 我妻陽一(わがつま・よういち)
代表取締役社長兼CEO
1978年生まれ。立教大学大学院/経営管理学修士課程修了。株式会社きんでんにて工事部に所属、主にゼネコンの大型現場や再開発事業などの電気工事施工管理業務に従事。電気工事会社を10年以上経営した後、2017年3月に株式会社助太刀を創業。建設業界のマッチングサービスである「助太刀」アプリは、現在16万を超える事業者の登録を集めて事業を展開し、建設業の現場の活性化に貢献している。 - 茂木俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。「日経クロステック」、「日経コンストラクション」などを中心に、都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。
〈ご参考までに...〉
オリジナル動画「建設業の未来インタビュー【4】」後編をご視聴いただけます!