2025.01.15

3Dスキャナーやドローンなど最新鋭のデジタル機器を活用した測量で「建設業の今」を体験【建設業の未来インタビュー⑯ 後編】 兵庫県加古川市の県立東播工業高校は、文部科学省の推進する「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」採択校のひとつです。建築科と土木科が一体となり、地元企業などの協力を得て、最新鋭のデジタル機器を活用した体験学習に力を入れています。体験学習の様子をお伝えするとともに、建築科の担当教諭である大歳浩功(おおとし・ひろのり)先生に取り組みの意図などを聞きました。

文:三上美絵(土木ライター)


〈前編〉はこちら

3Dスキャナーやドローンなど最新鋭のデジタル機器を活用した測量で「建設業の今」を体験【建設業の未来インタビュー⑯ 後編】

3Dスキャナー測量からVRS測量まで、地元の業界団体の協力で実現


2024年11月20日の朝10時前、広々とした東播工業高校の校庭に、建築科・土木科の1年生約80人が集まりました。この日に実施されたのは、最新鋭のデジタル機器を活用した測量の体験学習。地元の兵庫県測量設計業協会の協力のもと、測量技術について座学で学んだ後、校庭で実際の測量体験を行います。


生徒たちは16人ほどのグループに分かれ、測量の基本であるTS(トータルステーション)多角測量や水準測量から、最新機器を使った3Dスキャナー現況測量、GPSなどの衛星を利用したGNSS測量のうち仮想基準点を設定するVRS測量までを体験。


総勢約80人の生徒たちが、5つの班に分かれて行った測量体験の様子総勢約80人の生徒たちが、5つの班に分かれて行った測量体験の様子


はじめはTSのピント合わせもおぼつかない様子の1年生たちも、兵庫県測量設計業協会会員企業の方たちに教わりながら、だんだんと慣れた手つきで測量作業をこなせるようになっていきます。この日は、20人もの現役技術者が駆けつけ、生徒たちに丁寧に指導していました。


兵庫県測量設計業協会理事で加古川支部長の藤本睦之(ふじもと・のぶゆき)さんは「実際に現場で使っている最先端の機器を持ち込んで実演したり、生徒さんたちに触れてもらったりしています。私たちとしては、リクルートのつもりもある。ぜひこの業界に入職してほしいですね」と話します。


(左)兵庫県測量設計業協会理事で加古川支部長の藤本睦之さん(右)測量体験の前に行われた座学の様子(左)兵庫県測量設計業協会理事で加古川支部長の藤本睦之さん
(右)測量体験の前に行われた座学の様子


すべての測量実習を体験した後は、ドローン測量のデモンストレーションを見学。本体価格が200万円ほどもする大型のドローンが、グラウンドの上空約60mまで垂直に上がり、空中を自在に動き回る様子に、生徒たちの目は釘付けになっています。


ドローン測量の講習の様子。生徒たちは計測結果を熱心にのぞき込んでいたドローン測量の講習の様子。生徒たちは計測結果を熱心にのぞき込んでいた


実習を終えて、あいさつをした生徒の代表は「測量だけでも、昔と今ではこんなに違うということがよく分かりました。皆、建設業のイメージが変わったと思います」と感想を述べていました。


体験学習の最後に、ドローンに設置したカメラで記念撮影体験学習の最後に、ドローンに搭載したカメラで記念撮影




建築・土木関係なく先端技術を現場で学び、地元建設業に貢献できる人材に

兵庫県立東播工業高等学校 建築科 大歳浩功先生兵庫県立東播工業高校 建築科 大歳浩功 先生


――地元の企業と連携して、こうした体験学習を取り入れる意図は何でしょうか。


建設業の今の姿を生徒たちに知ってほしい、ということが大きいですね。私は進路指導も担当していますが、地元に残って建設業に就職する生徒はごくわずか。建設会社からはよく「現場監督がほしい」とリクエストされるものの、建築科40人ほどのうち、例年6〜8人程度というのが実情です。


せっかく建築や土木を勉強しても、就職では他産業か、建設業だとしても基本給の高い大阪や東京の大手企業へ行ってしまう。「実践的なものづくりの知識や技能を備え、ふるさと兵庫の産業発展に貢献できる人材を育成する」というのが当校のポリシーなので、この状況を何とかしたいと痛感しています。


数年前までは人手不足とは言っても、地元企業側にそこまでの危機感はありませんでしたが、最近は本当に切迫しているようです。この問題は、学校だけでも個別の会社だけでも解決できません。建設業界を取り巻く全体が変わっていかないとだめだろうな、と考えています。


――体験学習は、就職を視野に入れて地元の建設関連企業と接点を持つ機会にもなっているわけですね。


それぞれの企業と個別に接することは難しいのですが、今日のように業界団体との連携は深まりつつあります。今年から、建築科・土木科を対象にした地元建設業魅力出前説明会も始まりました。


――2021年度に「スマート専門高校」、2024年度に「DXハイスクール」に採択されて、そうした企業との連携の仕方は変わりましたか。


当校では古くから地元企業へのインターンシップを実施してきました。内容はそれぞれの企業に任せっきりでしたが、スマート専門高校に選ばれてデジタル機器が導入できるようになってからは、こちらから「こんなことをやりたい」と提案して、プログラムを一緒に計画できるようになりました。


地元の業界団体も、高価なデジタル機器を持ち込んで体験学習に使わせてくれるなど、とても協力的で助かっています。


――体験学習を重視する教育について、今後の展望をお聞かせください。


私は今は建築科を指導していますが、以前は土木科で教えていました。これからは、今日の実習のように建築科、土木科が一緒になって最新技術を学ぶ機会を増やしていきたいと考えています。日本ではBIM/CIMや重機の自動化などの面で、建築より土木のほうが一歩先を行っています。また、諸外国では建築・土木の区別なく、例えば都市計画やインフラ整備といった分野を学びます。


生徒たちは実情を知らずにイメージだけで建設業を敬遠している感がありますが、体験するとガラリと変わります。「事務系の会社に就職したい」と言っていた女子生徒が、重機のデモンストレーションを体験してから「建設の現場も面白そう」と言うようになったこともあります。


建築・土木関係なくさまざまな先端技術を現場で学んで、地元の建設業で活躍してくれる生徒が増えることを願っています。


※記事の情報は2025年1月15日時点のものです。

【PROFILE】
兵庫県立東播工業高等学校
兵庫県立東播工業高等学校
兵庫県加古川市に1964(昭和39)年創立。「健やかに 伸びよう 汗だして」の理念のもと、実践的な「ものづくり」による専門知識・技能を備え、向上心を持って主体的に行動し、ふるさと兵庫の産業の発展に貢献できる人材を育成することをスクールミッションとしている。
公式サイトhttps://www.hyogo-c.ed.jp/~toban-ths/
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