2022.08.29

無人化施工のシステムを地元の建設会社と共同で構築。工業高校生向け現場体験学習も実施 「土木施工」「土木構造設計」「測量」「土木製図」「土木実習」などを学ぶのが、工業高等学校の土木科だ。あくまでも基礎が中心で、ICT を全面的に活用した最先端の技術に触れる機会は少ない。今回紹介する宮崎県立延岡工業高等学校の生徒たちは、OBの協力によって 無人化施工の"いまどき"の技術を体験した。

無人化施工のシステムを地元の建設会社と共同で構築。工業高校生向け現場体験学習も実施

斜面が崩壊した現場を無人化施工で復旧

岐阜県の白川郷(しらかわごう)、徳島県の祖谷(いや)と並び、日本三大秘境として知られている宮崎県の椎葉村(しいばそん)。最寄りの駅まで山道を約70km、高速道路のインターチェンジまでも同じような距離で、正に"陸の孤島"といった感じだ。


そんな椎葉村を2020年9月、台風10号が襲った。椎葉村下福良(しもふくら)鹿野遊(かなすび)地区で斜面崩壊が発生し、斜面近くにあった地元建設会社の事務所兼住居が土砂とともに流され、4人が犠牲になったのである。

施工前の現場風景。木がなぎ倒され、土砂によって山肌がえぐられている施工前の現場風景。木がなぎ倒され、土砂によって山肌がえぐられている


その復旧工事を宮崎県日向土木事務所が発注。受注したのは、宮崎県日向市に本社を置く旭建設だ。詳細は以下の通りである。


工 事 名:令和2年度 災関砂防 第1-3号 鹿野遊谷川砂防堰堤工事
工  期:2021年6月22日~2022年12月20日
主要工種:土工/軟岩掘削(無人化)、法面掘削工(ICT)
     法面工/モルタル吹付工
     堰堤工/砂防堰堤本体、垂直壁工


この工事のポイントは土工で、無人化施工が指定されている。堰堤(えんてい)を築く場所は急傾斜地特別警戒区域で、40度強の急勾配に加え、先の斜面崩壊により山肌があらわになっている。施工中に落石による事故も考えられるため、宮崎県日向土木事務所は安全を第一に考え、無人化施工を指定したわけだ。

旭建設 工事統括部門 河野義博土木部長旭建設 工事統括部門 河野義博土木部長


測量・設計/施工計画・施工・検査といった各工程に情報通信技術を活用したICT施工に加えて、遠隔で重機を操作する無人化施工を頻繁に行っている建設会社など、そうそうないだろう。大手ゼネコンがひしめく首都圏ならいざ知らず、地方ではなおさらだ。当然、旭建設も無人化施工は今回が初めての試みである。受注した当時の胸の内を、旭建設 工事統括部門 河野義博土木部長にうかがった。


「新しいことにチャレンジできるワクワク感が大きかったですね。システムに関してはアクティオさんと共同で構築し、施工は宇田津工業さん(宮崎県日向市)と試行錯誤しながら行いました。当初、無人化施工の効率は、搭乗式の7割ぐらいになると見込んでいました。でも最初は7割を下回った。6割5分くらいですかね。慣れていないですから、当然ですよ。作業を進めていくと習熟度が上がり、最終的には9割ぐらいに達しました。できれば10割にしたかったですが、それは次回にお預けですかね。平均すると7割5分。まずまずの結果でしょう」

無人化施工のシステムは旭建設とアクティオが共同で構築。現場は山間のため衛星測位システムを使ったGNSSではなく、TS(トータルステーション)を使用した無人化施工のシステムは旭建設とアクティオが共同で構築。現場は山間のため衛星測位システムを使ったGNSSではなく、TS(トータルステーション)を使用した


(左)遠隔オペレータールーム。(右)無人化施工では重機の傾きを感じにくいため、旭建設が以前作成した安全傾斜板を重機に貼り付けて対応した(左)遠隔オペレータールーム。(右)無人化施工では重機の傾きを感じにくいため、旭建設が以前作成した安全傾斜板を重機に貼り付けて対応した



将来の担い手たちに最先端の学びを

こうして無人化施工のパートは無事、6月末で終了した。しかし取材にうかがった7月上旬、現場にはまだ無人化施工で使用したアクティオの機材、ラジコン対応型バックホーが残されていた。それには理由がある。

無人化施工のパートが終了した現場無人化施工のパートが終了した現場


宮崎県の高校で土木科があるのは、宮崎県立延岡工業高等学校(以下、延岡工業高校)のみ。その生徒たちが最先端のICT技術を学ぶ機会は少ないのが現実だ。そこで旭建設は昨年、延岡工業高校でICTに関する出前授業を実施した。その最終回が無人化施工を行っている今回の現場の見学会だったのだ。しかし、その時の見学会は新型コロナウイルスの影響で中止に......。当時1年生だった生徒たちは2年生に進級したが、どうしても生徒たちに最先端のICT技術を体験してほしいと考え、学年をまたいでの見学会を実施することになったのである。


実は旭建設には、河野土木部長を含め10数名もの延岡工業高校OBが在籍している。母校に恩返しをしたい、将来の担い手を確保したい、という思いから、このような出前授業を実施したわけだ。


宮崎県立延岡工業高等学校土木科の生徒約40名が体験会に参加した宮崎県立延岡工業高等学校土木科の生徒約40名が体験会に参加した


鹿野遊谷川砂防堰堤工事の現場に集まった延岡工業高校土木科の2年生は1クラス約40名。この現場でどのような工事が行われているか、さらに無人化施工の概略が説明された後、生徒たちはVR(仮想現実)を体験。そしてメインとなる無人化施工の現場で、ラジコン対応型バックホーにひとりずつ搭乗した。生徒たちは皆、自分が操作していないのに動き回るバックホーに驚いた様子であった。体験時間はひとり3~5分程度だったが、とても濃密な時間だったことは生徒たちの表情からうかがい知ることができた。

重機に生徒が搭乗しているが、あくまでも操作しているのは外にいる無人化オペレーター。生徒がレバー類を操作しても重機は反応しない重機に生徒が搭乗しているが、あくまでも操作しているのは外にいる無人化オペレーター。生徒がレバー類を操作しても重機は反応しない


河野土木部長曰く、土木業界の給料は上昇傾向で、かつてのような魅力あふれる業界に戻りつつあるという。またICTが普及することで、泥臭いイメージも薄らいできた。そんな今だからこそ、優秀な人材の確保に注力しているそうだ。


土木業界は高齢化、人手不足、働き方改革の推進といった課題が山積みで、その解決策の一つとしてICTを活用した生産性の向上が注目されている。しかし、将来の担い手が学ぶ教育現場では、なかなか踏み込んだ実習を行えないのが実情だ。そういった中、今回のような出前授業が全国各地で開催されることに期待したい。


▼無人化施工の現場で工業高校生が体験学習


※記事の情報は2022年8月29日時点のものです。



〈ご参考までに...〉

ラジコン対応型バックホー(アクティオ公式サイト)

ラジコン対応型バックホウ(レンサルティングミュージアム)

事業分野紹介「i-Construction(ICT施工)」(アクティオ公式サイト)

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