実習・事例
2024.06.28
山岳トンネル工事の無人化施工へ向けて──鉄建建設株式会社様の研究をアクティオがサポート 少子高齢化による人材不足や働き方改革を背景に、土木の現場が大きく変わろうとしている。特にICTを使った重機の自動化や、遠隔操作の分野は急速に進展しており、トンネル工事の現場も例外ではない。アクティオは、鉄道建設大手の鉄建建設株式会社から依頼を受け、山岳トンネル工事におけるバックホーの遠隔操縦システムの開発に協力している。
山岳トンネル工事におけるバックホーの役割
硬い岩盤を掘削する山岳トンネル工事では、まず爆薬を使って岩盤を砕く、いわゆる「発破」作業を行う。その後、トンネル設計面から飛び出した部分「アタリ」を、バックホーに取り付けた「ブレーカー」を使って取り除いていく。このバックホーの遠隔操縦を実現しようというのが今回のプロジェクトだ。この度1年にわたる実験にひと区切りをつけ、遠隔操縦用コックピットのベースとなるシステムが完成した。
地上の工事と違ってトンネルの中は狭く、重機の可動域も限られる。この環境を再現するため、鉄建建設株式会社では、模擬トンネルを建設。今回のプロジェクトはこの設備を活用して進められた。
遠隔操縦用コックピットの開発
今回のプロジェクトでは、アクティオが開発したラジコン対応型バックホーをベース機として使用した。これは、通常のバックホーにラジコン用の制御ユニットなどを取り付け、ラジコン仕様にしたレンタル商品である。
現状、このシステムでは、ジョイスティックで操作する小型のコントローラーが用いられる。しかし、実機のコックピットで操縦するのとは勝手が違うため、思い通りに操作するには訓練と慣れが必要だった。
今回のシステムの大きな特徴は、従来の小型コントローラーの代わりに、実機をシミュレートした実物大のコックピットを使用する点だ。バックホーオペレータの体になじんだ環境でより効率の良い遠隔操縦を行うことを目指している。オペレータはコックピットの座席に座り、目の前に並んだモニターを見ながら、実機と同じレバーやペダル、ボタンを操作する。
今回、プロジェクトを率いた鉄建建設株式会社 土木本部 トンネル技術部の舟橋孝仁グループリーダー(GL)と、開発を担当したアクティオ 技術部 技術推進課の春原(すのはら)和宏主査に、実験の狙いや展望をうかがった。
舟橋GL「2年ほど前に、ラジコン重機を使って坑内で試験をしたことがあります。その試験で得た知見を踏まえて、実際の作業の環境に近いものの方がオペレータさんが作業をしやすいということで、操作性を向上させることを目的にコックピットを製作することになりました」
春原「やはり、小さなラジコンのコントローラーでは使いにくいという声があります。鉄建建設様からのご要望も実際のコックピットと同じ感覚で操縦できるシステムを開発したい、というものでした。今回、そのベースになるものが開発できたと思います」
模擬トンネルの天井部分には、ブレーカーの目標になる目印が設置されている。この目標を目指してバックホーを遠隔操縦するのが今回の課題だ。実際にバックホーに乗り込んでの操作なら、熟練者であれば容易に行えるが、遠隔操縦の場合はそう簡単にはいかない。
トンネル工事特有の難しさ
地上でのバックホー施工と異なる、トンネル工事特有の難しさはどんな点にあるのだろうか。そのひとつは「遠近感」の把握だという。
春原「通常、ラジコン対応型バックホーの工事は、地面を掘削する場合が多く、バケットを上から見た映像を基にコントロールします。この場合は比較的遠近感も分かりやすいのですが、トンネルの場合はブレーカーを上に向けて、目標物が空中にあるため、遠近感がつかみにくいという特性があります。しかも、現場は天井がアーチ状になっているため、安全なバックホーの操作にはさらに距離感が重要になります。そのため、カメラの設置位置や台数の検討には苦労しました」
舟橋GL「やはりまだトンネルの中での遠隔操作というのは、従来と同じような作業効率で行うことがかなり難しく、ハードルが高いなというのが率直なところです。今回の取り組みの中で、どういう場所にカメラを設置したら作業がしやすくなるか、またどのカメラを見たら操作しやすいか、そういった知見が得られたのではないかと思います」
どのような位置から見たら遠近感をつかみやすいのか......。カメラの設置に関しては、何度もトライアンドエラーを繰り返したという。それによって得られた知見は、遠隔操縦システムの開発にとって大きな財産となった。今後はカメラ以外のセンサーを使ったガイダンスシステムの開発も視野に入れ、さらに精度を高めていくという。
また、今後解決しなければならない別の課題もある。バックホーの位置や姿勢の把握だ。
舟橋GL「地上での工事の場合、衛星通信を使って重機の位置を特定できますが、トンネルの中はGPSの通らない区間ですので、重機の位置(自己位置)を見つけるのに非常に苦労します。まして狭い空間なので、接触防止などにも位置の把握が重要になってきます」
春原「トンネル工事は上から物が落ちてきたり、機体の姿勢も斜めになったりと危ない状況で作業する場合が多く、オペレータが重機の姿勢をイメージすることがとても重要になります。人だったらすぐ首を振って確認できますが、そこはまだ現状では難しいポイントかなと思います」
今回のシステムではカメラを使った視覚情報だけではなく、「音」も重要視している。コックピット側にも、現場のバックホー側にもマイクとスピーカーを備え、現場で監視を行う作業者とオペレータとのコミュニケーションが取れるようになっている。
また、それらがあることでバックホーの稼働音の異常などもオペレータが把握できる。現場から離れていても、あたかもその場にいるような臨場感を重視しているのだ。
デジタル通信が鍵
今回のシステムでは、コックピットとバックホーの通信をデジタル信号で行っている。バックホーの近くにアクセスポイントを設置し、コックピットと光ケーブルでつないでLANを構築。アクセスポイントとバックホー本体は無線で通信を行う。
こうすることで、光ケーブルを延長していくだけで、どこまでも距離を延ばすことができる。トンネルが延伸しても、コックピットを移動させることなく工事を完遂できるのだ。
建機レンタル会社ならではの強みとは?
今回のプロジェクトを通じて、建機レンタル会社としてのアクティオの強みはどのあたりで発揮されたのだろうか。
舟橋GL「スタート時点から密に連絡を取り合って、相談させていただきました。実際に完成してからも、より良くしようとさまざまな改良を加えるなど、建設的に開発が進められたと感じております。また、アクティオさんにはいろいろな部署があり、さまざまな現場で建機を扱っていますので、その中で蓄積してきたノウハウは非常に多彩です。その力をお借りして、ちょっと難しい問題についても、すぐに応用を利かせることができ、そういったところで非常に良かったなと思っています」
さまざまな分野のノウハウを横断的に持つ建機レンタル会社は、多彩な技術を自在に組み合わせることができる。その強みが今回も発揮されたようだ。
山岳トンネル工事の無人化施工の今後
山岳トンネル工事の無人化施工は着々と進展しつつある。最後に将来的なビジョンを聞いてみた。
舟橋GL「現在、ロックボルトを無人で施工する機械や、コンクリート吹き付けの無人施工などは盛んに技術開発が行われており、一部では現場での適用も図られています。しかし、バックホーなど重機の遠隔操作、無人化は、いろいろな難しさがあり、まだ開発途上の段階です。当社でも、今回の取り組みをスタートとして、どんどん技術の精度を上げていきたいと考えています。重機施工の遠隔操作、無人化が実現したら、さらにその先にはトンネル工事の完全自動化という未来が待っていると思います」
春原「トンネル工事では、バックホー以外にもさまざまな重機が稼働しています。今回の実績を基に、本システムでの遠隔操作の適応を広められるよう、今後も協力していきたいです」
危険な場所に人を入れない──遠隔施工の最も大きなメリットは、この絶対的な安全性だ。トンネル内という限られたスペースでの遠隔施工には、まだ多くの課題が残されているが、実現すれば、遠隔施工全体の安全性向上にもつながる重要な技術に育つだろう。今後の進展が大きく期待される。
▼山岳トンネル工事の無人化施工へ向けて
※記事の情報は2024年6月28日時点のものです。
〈ご参考までに...〉
●ラジコン対応型バックホー(アクティオ公式サイト)
●ラジコン対応型バックホー(レンサルティングミュージアム)
●事業分野紹介「i-Construction(ICT施工)」(アクティオ公式サイト)