レポート
2023.03.16
〈ウェビナーレポート〉建設業の働き方改革~IT活用で業務効率アップ~ アクティオは2月14日、東京・日本橋のアクティオ本社1階「AKTIO Rensulting Studio」で、アクティオ ウェビナー「建設業の働き方改革~IT活用で業務効率アップ~」を開催した。これは、「レンサルティングマガジン」の好評連載「建設業の未来インタビュー」から派生したウェビナーの第3弾。前回までに続いて、司会進行役にジャーナリストの茂木俊輔氏を迎え、建設業の働き方改革を推進するためのIT活用の可能性について3人の専門家にお話をうかがった。
2019年に働き方改革関連法が施行され、労働基準法に「残業の罰則付き上限規制」が盛り込まれた。建設業においては5年間の猶予が与えられたが、その適用開始は2024年4月に迫る。しかし、現場における人材不足や長時間労働の問題はクリアすることの難しいハードルであり、多くの企業が対応に苦慮しているのが現実だ。同ウェビナーでは、それらの問題の解決の糸口となる先行事例やサービスなどを紹介してもらった。
基調講演:建設業界の生産性向上の取り組みについて
基調講演に登壇いただいたのは、総合建築業の約140社が所属する一般社団法人日本建設業連合会(以下、日建連)の常務執行役 山本亘(やまもと・わたる)氏。前述したような建設業の現状と課題、日建連が独自に策定する目標のほか、具体的な取り組みを始めている企業の事例などをご紹介いただいた。
■「上限規制」の適用を前に、なかなか改善しない人材不足と長時間労働の問題
山本氏はまず、建設業が抱える2つの問題について説明。1つ目は、「技能者数の減少傾向」と「高齢化」だ。現場を支える技能者は減り続け、2025年には約90万人が不足すると予想される。しかも、65歳以上の技能者が多く、その比率は年々増加している。建設技能者の年齢構成を見てみると、55歳以上が35%と、全産業の数字より5ポイント多くなっている。逆に29歳以下は12%と5ポイント少なくなっているという状況だ。
そして、もう1つの問題が「長時間労働・時間外労働」だ。厚生労働省の統計によると、調査対象となった全産業に比べ、建設業の労働時間は年間320時間と、全産業の平均よりも2割程度、長い。「これが担い手確保の大きなハードルとなっているかもしれません」と山本氏は述べる。
■労働時間の是正には、週休2日制と生産性向上に向けた取り組みが不可欠
2024年4月に適用が開始される改正労働基準法は、「1年間の時間外労働は、特例の場合でも720時間を上限とする」「月45時間を超える時間外労働は年間で6カ月までとする」の2点を建設業の現場に求める。しかし、その水準まで時間外労働を減らすのは非常に難しいとの声が多い。
そこで、日建連が掲げているのが、「労働時間を2023年度は840時間以内、2024年度は720時間以内にする」「2024年までに建設現場の4週8閉所を実現する」という自主目標だ。4週8閉所とは週休2日のことだが、2021年度の実績で週休2日が実現できている現場は約38%にとどまるという。「長時間労働の是正を図るには現場の週休2日が必要となり、それを実現するためには適正な工期の設定が不可欠なんです。また、これらと並行して、現場の生産性向上に向けたさまざまな取り組みをしていかなければいけません」(山本氏)
■働き方改革にも貢献する、ITを駆使した業務効率化の取り組み事例
その業務改善の中心となるのが、ITの活用だ。山本氏からは2つの企業の取り組みが動画によって紹介された。
〈事例1〉清水建設株式会社 大規模土木工事の現場で「ICTフル活用工事」を実現
新東名高速道路の川西工事を進行中。「ICTフル活用」をキーワードに測量・施工・設計・検査・納品の一連の全プロセスで生産性向上を図っている。とくに遠隔地にいる発注者が現場のライブ映像と検査数値を確認できる「遠隔立会」がもたらした効果は大きい。承認・帳票作成もシステム上でできることから、大幅な省力化・時短へと結びついている。ゆとりの時間は品質管理・安全管理に充てられ、さらに人と人の接触が少ないことはコロナ対策としても有効だ。
〈事例2〉鹿島建設株式会社 「ロボット・遠隔・デジタル化」の3本柱で業務改善
東日本大震災や東京オリンピックの影響で仕事量が増加するいっぽう、慢性的な作業員不足、長時間労働の問題を抱えていたという同社。それを改善に導いたのは、技術を駆使した3本柱による業務改善だった。それが、「作業の半分はロボットで」、「管理の半分は遠隔で」、「全てのプロセスをデジタルに」の3つ。人と技術の良いところを生かしながら、働き方改革はもちろん、コスト削減や品質向上の効果も引き出している。
最後に今後の課題として、「技能者の生産性向上を図ること」「現時点では各社が独自に展開している取り組みを、業界一体となって行うこと」という2点を挙げて、山本氏は基調講演を締めくくった。
▼日建連が運営する建設業界の働き方改革を伝えるサイト「WorkStyle Lab」
https://www.nikkenren.com/2days/workstylelab/index.html
セッション1:建設現場の働き方改革を支援するアクティオの建機レンタルWeb注文サービス
続いては株式会社アクティオホールディングス ITグループの佐藤博之(さとう・ひろゆき)氏から、建設業のお客様の業務効率化を支援するアクティオの「建機レンタルWeb注文サービス」について、その開発の背景や導入のメリットなどが紹介された。
アクティオの建機レンタルWeb注文サービスは、24時間、いつでもどこでも、スマートフォンやタブレット、PCから、簡単に建機レンタルの注文や管理ができるシステムだ。
■お客様の声がこのサービスをつくった
「このサービスは、ある建設会社で働き方改革に関するアンケートが実施され、建機レンタルの注文・管理にかなり手間が掛かっているというお話があったことがスタートとなりました」(佐藤氏)。実際にどんな手間が掛かるのかをスライドで示しながら、監督・上長・事務員という3つの視点で説明してもらった。
監督は「たくさんの仕事を抱えて忙しい中、現場から会社に行ってカタログから必要な建機を選んで注文しなければならない」、上長は「現場の様子が見えにくいために、意見がしにくかったり、レンタルのコスト管理ができていなかったりする」、事務員は「月末になると請求書が届き、大量の納品伝票と突き合わせなければならない」と三者三様の悩みや不満を抱えている。
■いつでもどこでもWeb注文サービスも一気通貫
では、アクティオの建機レンタルWeb注文サービスで、3者の仕事はどう変わるのか。佐藤氏はデモ画面を見せながら、実際にWeb注文サービスで建機レンタルを行う際の手順について解説。必要な建機をカートに入れ、数量や期間などの必要事項を入力するだけで簡単に建機レンタルができることがよく分かる。
Web注文が入ると、アクティオの営業所から折り返しチャットで連絡があり、その後在庫が確保される。機械の組み合わせによっては有効に機能しない可能性もあるため、確定前に製品知識のある専門家と相談できるこの過程は重要である。ちなみに、レンタル時にアクティオの営業所とチャットでやりとりをすると、上長にもその履歴を記録したメールが届けられる仕組みも備えられている。
また、注文の際、「○○が欲しいが、現場のどこかに余っているのではないか」と思うこともあるだろう。そんな時は、広い現場を歩いて確認しなくても、サイト内のレンタル建機のリストですぐに確認できる。それをレンタルした社内の担当者の名前も記載されるので問い合わせもスムーズだ。
こうした機能によって、監督にかかる建機レンタルの手間は小さくなり、上長は状況の把握やコスト管理がしやすくなり、事務員は月末にまとめて行っていたチェックを分散して行うことができるようになったりと、業務効率化やコスト削減に結びつく。
■仕事のやり方を一気に変える必要はない
「慣れた仕事のやり方を変えるのは難しいと思います。最初から全ての機能を使おうとは思わず、例えば、注文は今までどおりの方法でして、注文した結果はWebの画面で確認して共有するようにする。そういったことをするだけでも効果は出ると思います」と佐藤氏は述べる。
こうした新しいサービスの導入にあたっては、現場から反発が起こることも少なくない。より確実に業務効率を上げるために、打ち合わせのたびにWeb注文サービスの画面を開くようにする、曜日を決めて返却日をもれなく記入するなど、業務のサイクルに組み入れて、少しずつ現場に浸透を図っていく方法も提案された。
セッション2:アプリで建設現場の業務効率アップ〜eYACHOを例に~
セッション2では株式会社MetaMoJi(メタモジ)の今西信幸(いまにし・のぶゆき)氏を迎え、同氏が事業企画責任者を務めるデジタル野帳アプリ「eYACHO(イーヤチョウ)」の概要や、eYACHOを導入することで期待できる業務効率向上の効果などについてお話しいただいた。
MetaMoJiは「一太郎」や「ATOK」で知られる株式会社ジャストシステムの創業者である浮川和宣(うきがわ・かずのり)・初子(はつこ)夫妻が設立した会社。持ち前の文字入力の技術、デジタルノートの開発技術などを生かし、ここ10数年は多彩な業界に向けたタブレット用のアプリを開発してきた。
■ペーパーレス化、リアルタイム共有、テンプレートの電子化で業務効率アップを支援
建設業界向けのeYACHOもその1つ。建設や測量等の現場で使われる野帳には、古くからハードカバーの小型のノートが活用されることが多かった。eYACHOは紙の野帳のもつ機能をデジタル化したもので、デジタルならではの高度な付加価値によって多くの建設現場で業務効率アップに貢献しているアプリケーションだ。今西氏には、実際の操作画面を使ったデモを交えながら、代表的な3つの機能を紹介してもらった。
1つ目は、ペーパーレス化。現場で使用する図面のほか、各種資料をアプリの中に取り込むことができる。それらの書類は、見るだけでなく、手書きで文字やマークなどを書き込むことができて、書いたものの大きさを変えたり、場所を移動させたりすることも自在だ。4万語もの建設分野の専門用語も搭載しており、手書き文字から推測変換で入力することもできる。
2つ目は、リアルタイム共有の機能。現場と事務所などで写真や書き込みをリアルタイムで共有できる。電話では伝わりにくいことも、タブレット上で書き込み合いながら打ち合わせができるので、わざわざ事務所に戻って打ち合わせをしなければならなくなる機会も減少する。
3つ目は、テンプレートの電子化。検査帳票、日報など、表計算ソフトでひな形をつくった書類にその場で入力することができる。従来は現場でメモを取り、事務所に戻ってPCで書類づくりという仕事の仕方が主流だったが、そのための移動や再作成の時間を削減することができる。
■メモがデータとなり蓄積・活用できる
ペーパーレス化を得意とするeYACHO。まずは無駄な印刷、無駄な転記を減らせることがメリットだが、ペーパーレスの進行はさらに大きな可能性を秘めている。それは、情報を「データとして扱えるようになる」ことだ。「IoT機器の普及などによって、現場ではさまざまなデータが収集できるようになっています。人が手書きしたことも含め、さまざまな観点からのデータ分析や活用が進んでいくのではないかと思っています」(今西氏)
さまざまな場面でのデータ活用が考えられるが、その一例が安全管理だ。「建設業にとって安全はなによりも大事なことですが、どうしても属人的というか、カンと経験に頼らざるを得ない部分が多いと思います。そこで、昨年、eYACHOには過去の災害事例のデータベースとAIを活用して分析・活用できる『安全AIソリューション』という新たな機能を付加しました」(今西氏)
このほかにもデータ化された情報はどのように活用されていくのか、「eYACHO」が開く未来には興味が尽きない。
■企業文化と技術継承の変革が課題
最後に、司会進行役の茂木氏が、働き方改革を進めるうえで重要となる2つのポイントについて解説。
1つ目は、制度と文化の変革だ。制度はすでに各社が変えつつあるが、長年にわたって確立されてきた企業文化を変えるのは容易ではない。「これからどのように、生産性向上や業務効率アップを追い求める文化に変えていけるか」が鍵となる。
もう1つは技術継承。「これまでのように先輩や上司の背中を見ながら技術を習得していくことが難しい時代の中で、OJTに頼らない、IT活用とも絡めた業務の見える化が必要になる」と述べ、ウェビナーを締めくくった。
■いただいたご質問に関して
当ウェビナーの事前申し込みフォームおよび開催中に視聴者の皆様からお寄せいただいたご質問につきましては、可能な範囲で講演の内容に反映する形で回答とさせていただきました。
※記事の情報は2023年3月16日時点のものです。
〈ご参考までに...〉
● 建機レンタルWeb注文サービス(アクティオ公式サイト)