2026.06.04
日本が誇る難工事の実態を分かりやすく解説。初心者から専門家まで楽しめる「ニッポンの土木 執念の難工事」―もへじさん【自著を語る⑭】 「自著を語る」では、土木や建築を愛し、または研究し、建設にまつわる著書を出されている方に、自著で紹介する建設の魅力を語っていただきます。第14回は日本の歴史を変えた難工事の実態を、徹底した文献調査を基に分かりやすく解説した「ニッポンの土木 執念の難工事」をご紹介。著者であり、登録者数29.9万人(2026年6月4日時点)のYouTubeチャンネル「もへじ【交通・土木・廃墟解説】」を運営する、YouTuberのもへじさんに、土木との関わりや本書に込めた思いについてうかがいました。
写真:山口 大輝

膨大な資料を基に、初心者から専門家まで誰もが納得できる本に
――まずは本を出版することになった経緯を教えてください。
彩図(さいず)社さんから、YouTubeの解説動画を本にしないかとお声がけいただきました。ただ、初めに彩図社さんから提案されたのは、「日本のインフラ36選」といった、私が今までYouTubeで紹介したインフラを簡単にまとめた本でした。それでは私のYouTubeチャンネル視聴者の人、それもごく一部にしか読まれないから、視聴者ではなく一般の人が読みたくなる本にしたいとお伝えして、最終的に4つの題材(難工事)に絞った解説本にしました。
"土木に興味がある人もない人も、関係者も一般の人も、みんなが楽しめる本"を目指して、YouTubeを作った時より大幅に資料を集めて加筆修正し、内容を深めて作りました。私のこれまでの人生の集大成であり、私の本気が詰まっています。
――日本の難工事の経緯が詳細に解説されており、取材や文献調査を緻密に行われたことがうかがえます。文献はどのように集めているのですか。
基本的には図書館ですね。まず図書館で、調べたい題材にまつわる資料を片っ端から集め、あとはあらゆる新聞記事、各都道府県や国土交通省などの公開資料をネットで検索するなどしてかき集めています。
――本を作るにあたり、苦労された点はありますか。
専門家に向けて書かれ、かつ、まとまっていない資料に記された情報を一つにまとめ、短く分かりやすく書くことに苦労しました。資料が書かれた時代は、戦後まもなくから令和までと、幅広いです。同じ戦後でも、時代によって言葉の意味が変わったりします。しかも私は土木を専門に学んだことがない素人です。そのため、資料が伝えたい内容を正しく理解し、自分の言葉で説明できるようにしました。
4つの題材に、ありとあらゆる情報がギュッと詰まっています。本来は、その難工事一つひとつがそれぞれ分厚い本になってもおかしくないです。そんな膨大な情報を、短く分かりやすく正確に、事実をありのまま伝える。写真や図面を大量に使って、土木に全く興味のない人から専門家まで、全員が面白く納得できる本にする、というのがすごく大変でした。
部屋の本棚からは、今まで集めた資料の多さがうかがえる
――素人でもとても読みやすく、知らなかった真実にハッとさせられました。Amazonの本の売れ筋ランキング「建設業界」カテゴリでは、発売から数カ月経った後でもベストセラー1位を獲得されています。もへじさんの元には、読者からどんな反応がありましたか。
1つ成功したなと実感したのは、前職の女性の先輩が感想を伝えてくれたことです。買った本を何も言わず部屋に置いておいたら、大学を卒業したくらいの息子さんが土木に全く興味がなかったのに、速攻で読んで「面白かった!」と言ってくれたそうです。
土木業界に就いた経験はないが、幼少期から土木に触れる機会は多かった
――土木関係の仕事に就いた経験はないそうですね。そんなもへじさんが土木に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
私の父が経済産業省管轄の法人に勤めており、世界各地に出張する機会が多かったんです。5歳くらいの頃から、父が出張のお土産に、フランス語で書かれたドーバー海峡の海底トンネルの構造を解説したパンフレット、貨物ターミナルの設計図、技術者向けの図面などを持ち帰ってきて、それを喜んで見ていました。
父は、自分の名前も書けないような子どもの私に世界地図を見せて、世界情勢や政治経済、インフラなどについて熱く語ってくれたんです。父は私を官僚にさせる気でいたようで、スパルタ教育の中で育ちました。そうした環境から、自ずと土木に興味を持つようになったと思います。
――お話しできる範囲でYouTuberになるまでのキャリアをお聞かせいただけますか。
子ども時代は事情があって児童自立支援施設に住んでいました。寮長が親身になってくれたおかげで、官僚は無理だとしても、別の道でそれを超えてやると思って夜間高校に通い始めました。夜間授業がない時、施設では土木作業をやるんです。自分たちで何でもできるようにということで、山で木を伐採して、割った薪をボイラーに入れてお風呂を沸かしたり、施設周りの解体工事や雨水管の埋設工事もやっていました。
夜間高校卒業後、勤めたのが裁判所でした。といっても仕事は裁判関連ではなく、営繕といって、壊れた庁舎や宿舎を修理する役目です。設計図を基に、修理方法、部材、費用などをまとめた指示書を書いて発注することが仕事でした。指示を具体的で分かりやすくするために、自分で図面やイラストを描いていました。図面やイラストを自作するには、建物や地中にある配管の構造などを把握しないといけません。だから、学生の時も就職してからも、土木には少なからず関係していて、少しずつ興味を深めていったのだと思います。
裁判所で働きながら夜間大学に通い、卒業と同時に大手化学メーカーに転職しました。商品納入の品質管理を担当して、最前線で現場指示を行っていました。
――そこから、交通・土木・廃墟解説系YouTuberになったのはなぜですか。
1つは世界で活躍したかったからです。裁判所から化学メーカーに転職したのも、それが理由です。YouTubeを始めたのは、さらに広い世界で活躍するためです。
もう1つは、日本のインフラの実態を、しっかりと面白く分かりやすく伝えるためです。インフラに関する文献は数多くありますが、関係者向けの専門的な内容の本や、一般の人が興味を持てるような分かりやすいメディアはあっても、その中間がほとんどなく、ブルーオーシャンだと判断したのです。
2010年代の後半、たまたま鉄道系のYouTubeで名を馳せていた人と仲良くなり、私の知識の深さに驚かれました。その方に、説明も上手いからYouTubeをやったらどうかと勧められ、2019年12月から本格的にYouTubeを始めました。
もへじさんの作業場。資料を広げて整理しながら解説動画に落とし込んでいく
「陰で日本の未来をつくっている人々」に光を当ててほしい
――本書はまさに、もへじさんのリサーチ力と処理能力の結晶ですね。特にお気に入りの章はありますか。
第1章の「青崩峠トンネル」です。高速道路の建設が一度失敗に終わったのに、国はなぜ諦めず、2回目のリベンジで成功したのか。攻略不可能と言われた青崩峠を、どうやってゼネコンは乗り越えたのか。本書を読むと、その苦難の歴史が見えてきます。
――第4章「飯喬道路6号トンネル」は書き下ろしですね。
世界初の自動遠隔操作システムでトンネル発破が成功した場所です。このシステムが大成功して、トンネル工事で完全自動遠隔操作ができるようになったら、日本は世界の覇権を握り続けられると思います。メディアはもっと日本の最新技術に注目して、こういった日の光が当たりにくい「陰で努力をして日本の未来をつくっている人々」を取り上げるようになってほしいです。
――本書を通して、読者にどんなことを伝えたいですか。
私は単に、日本のインフラの技術が素晴らしいことを広めたいわけではありません。日本は民主主義の国で、政治や経済を決めるのは国民です。先人の努力で築かれた国の歴史や事実を知ることが、人々が国の将来を考えることにつながればと思っています。
――今後の活動について教えてください。
実は本書を機に現在、ほかの出版社からも依頼があり、数冊の書籍の出版と雑誌記事の執筆が決まっています。YouTubeで知名度を上げつつ、書籍や雑誌の執筆で地盤を固めていきたいです。さらにラジオ番組にも呼ばれているため、いずれはメディアでも、インフラの真実を語る人として活躍し、世間のインフラに対する考えを変えていきたいです。
土木は、道路、鉄道、空港、水道など、意識しなくても普段の生活で必ず触れるものだから、全く興味がないという人はいないはずです。私はこれからも土木やインフラの実態について、分かりやすく伝えていきたいと思っています。
■ニッポンの土木 執念の難工事
著者:もへじ
出版社:彩図社
発売日:2025年12月27日
詳細はこちら
※記事の情報は2026年6月4日時点のものです。

- もへじ
交通・土木・廃墟解説系YouTuber
長崎県生まれ、熊本、埼玉、北海道、ロンドンで育つ。国会図書館に住んでいると噂されるほどの緻密なリサーチ力と、現場を徹底取材する行動力で土木の歴史を解き明かす。趣味も土木や廃墟の探検だと思われがちだが、実は廃墟が大の苦手で、いつも怯えながら撮影している。好きなのは旅行と温泉、ご当地グルメ。
YouTubeチャンネル「もへじ【交通・土木・廃墟解説】」







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