2023.07.05

日本各地の"ドボかわいい"をご紹介! 「かわいい土木 見つけ旅」―三上美絵さん【自著を語る④】 「自著を語る」では、土木や建築を愛し、または研究し、建設にまつわる著書を出されている方に、自著で紹介する建設の魅力を語っていただきます。第4回は、著者が全国を旅して見つけたかわいい土木構造物について、写真や時代背景とともに伝える「かわいい土木 見つけ旅―重厚長大だけじゃない、健気で愛おしいドボクの魅力探訪」をご紹介します。地元の人々に愛され続ける橋やトンネルからダムのような大きな構造物まで、さまざまな土地にある"ドボクのかわいさ"が詰まった一冊です。著者の三上美絵さんに、ドボク探訪での気づきや土木構造物の魅力についてうかがいました。

日本各地の"ドボかわいい"をご紹介! 「かわいい土木 見つけ旅」―三上美絵さん【自著を語る④】

連載「かわいい土木」と「ドボたんが行く!」が1冊の本に

――まずは、本の内容について教えてください。


この本は、一般財団法人建設業振興基金が発行する月刊誌「建設業しんこう」とそのWeb版に掲載している連載「かわいい土木」と、アクティオのWebメディア「アクティオノート」での連載「ドボたんが行く!」を1冊にまとめたものです。さらに、書き下ろしのコラムを加えて、私が全国を旅して見つけた"かわいい土木"の数々を紹介しています。


──各連載について、詳しく聞かせてください。それぞれ、どのようにして始まったのでしょうか。


2017年4月にスタートした「かわいい土木」は、建設業振興基金さんで広報研修講師を担当させていただいたことで、PR誌「建設業しんこう」のご担当者とご縁ができて、「何か書きませんか」とお声がけいただいたのが始まりです。企画から考えていいとのことだったので、土木構造物について書きたいと思い、自分から「かわいい土木」というテーマを提案しました。


公益社団法人土木学会が発行する「土木学会誌」の中にも「見どころ土木遺産」という土木構造物について紹介する記事があって、面白いと思っていました。でも、会員向けの雑誌なので一般の方はなかなか目にする機会がなく、研究者や専門家の視点で書かれているため、楽しく読むためにはある程度の知識が必要です。そこで私は、一般の方が楽しく読めて土木の魅力が伝わる連載にしたいと思いました。


「ドボたんが行く!」は「アクティオノート」が開設される際にお声がけいただき、2019年3月に始まりました。既に連載開始から2年が経っていた「かわいい土木」から派生する形でスタートしました。「ドボたん」とは"ドボク探検倶楽部"の略です。編集者の方にキャラっぽくした方が親しみやすいとご提案いただき、タイトルには"ドボたん"という略語を付けることになりました。


三上美絵さん




背景にあるストーリーを知れば知るほど面白い

――三上さんは大手ゼネコンを退社後、土木ライターとして活躍されていますが、いつから土木に興味を持ち始めたのですか。


学生の頃は特に興味があったわけではなく、新卒では出版関係の仕事に就きたいと思っていました。でも親に反対されて「建設会社の方が堅実でいい」と勧められ、ゼネコンへの入社を決めました。会社には事前に「文章を書く仕事に興味がある」と伝えていたところ、運よく広報部に配属されて、庶務を経験した後に社内報の担当になりました。


社内報の制作で建設現場へ取材に行くようになってからは、もう土木のとりこです。最初に土木の魅力に目覚めたのは、「川崎航路トンネル」へ取材に行った時です。詳しくは本書のコラム(p.11)に書いていますが、地上で造った函体を船で曳航して沈めるという海底トンネルの造り方を知って「すごい! 面白い!」と衝撃を受けてハマりました。こんな面白い仕事ができるなら、技術者を目指せばよかったと思うくらい(笑)。


――技術者にならなかったからこそ、一歩引いた目線で土木事業の魅力を伝えられるのかもしれませんね。


そうですね。技術者として仕事になっちゃうと、専門的にもっとぐっと寄った見方をすると思いますが、私は素人感覚でただ自分が面白いと思ったことを伝えているイメージです。原稿を書く時に、今見ているもの(構造物)がなぜそうなっているのかという背景が知りたくなるんですよね。そこが面白いと思っているので、今回の連載でも背景知識についてたくさん調べて書きました。素人の私が面白いと思うことは、きっと一般の方も面白いと思ってくれるのではないかと思っています。


三上美絵さん三上さんのお気に入りの土木構造物のひとつは「水戸市水道低区配水塔」(p.8~10)。本書の初めに掲載されている。「連載が始まって最初に訪れた場所なので強く印象に残っているし、見た目もすごくかわいくて好きです」と話す


――本書は写真を眺めるだけでも楽しめますが、歴史的背景や構造の仕組みなど知識も満載です。


土木構造物は日常になくてはならないもので、それが造られたことで人々の暮らしが劇的に良くなったという話も多くあります。私もこの連載が始まるまでは、あまりじっくりと土木構造物について見たり考えたりすることはなかったのですが、造られた背景を知れば知るほど奥深さを感じます。


例えば、明暦の大火があったから隅田川に両国橋が架けられたとか、徳川家康が荒川と利根川を切り離したことで舟運(しゅううん)が活性化したとか。何かを追っていくと同じ歴史的事象にたどり着くことも多く、回を重ねるごとにストーリーがつながって面白いんです。その面白さをもっと多くの方に知ってほしいなと思います。この本が、土木の重要性や土木が果たしてきた役割について考えるきっかけになればうれしいです。


三上美絵さん




昔も今も地域の人々に愛される土木構造物が"ドボかわいい"

――"ドボかわいい"という言葉が多く登場することからも、土木構造物への愛着が伝わってきます。三上さんが"ドボかわいい"と思う瞬間はどんな時ですか。


もちろん見た目の愛らしさなどデザインに対しても"ドボかわいい"と思うのですが、土木構造物が地域で大事にされていると感じた時に"ドボかわいい"と思いますね。


初めてそれを思ったのは岐阜県の「白川橋」(p.136~138)を見た時で、とてもよく覚えています。大正最後の年、西白川村(現在の白川町)という山奥の村に、鉄道が通ることになりました。飛騨川を挟んで東側に居住地があったのに、新駅は西側に設置されてしまったので、駅への動線として架設されたのが白川橋です。


岐阜県加茂郡白川町にある鋼トラス吊り橋「白川橋」(撮影:三上美絵)岐阜県加茂郡白川町にある鋼トラス吊り橋「白川橋」(撮影:三上美絵)


現地を取材した時、町役場の壁に白川橋の完成式典の写真が飾ってありました。みんな正装して橋の上を歩いていて、「待望の橋が来た」という恭しさが伝わってきますよね。完成当時から愛されていた様子を捉えた写真が、今も大事に飾られていていいなと思った瞬間でした。


町役場に飾られている、1926(大正15)年の竣工当時の様子を記録した写真。「よく見ると角隠しを被った若い女性が写っています。花嫁道中を兼ねていたのかもしれませんね」と三上さん(提供:白川町)町役場に飾られている、1926(大正15)年の竣工当時の様子を記録した写真。「よく見ると角隠しを被った若い女性が写っています。花嫁道中を兼ねていたのかもしれませんね」と三上さん(提供:白川町)


また、近くにあった喫茶店のマダムとお話ししていたら「この橋がすごく好き。雪景色とか本当にきれいなのよ」とおっしゃるんです。過去に親しまれていた土木遺産が、今も現役で使われていて地元の人々に愛されている。人と土木構造物とのそうした関係性に"ドボかわいさ"を感じます。


――本書を読むと、地元にある"ドボかわいい"を探しに行きたくなります。歴史的背景を知ることで、その土地に対して新しい視点を与えてくれる一冊だと感じました。


それはとてもうれしいです。皆さんそれぞれお住まいの周りや故郷を歩いてみて、自分の"ドボかわいい"を見つけてほしいと思います。どこがかわいいのか見つけようと思って意識して見ると、漠然と見ていただけでは見逃していたかもしれない新たなかわいさが見つかったりするんですよ。「かわいい」じゃなくても、「かっこいい」でも「面白い」でも良いですが、それぞれの視点で土木構造物を見て歩いてくれたら著者冥利に尽きます。




過去から未来へとつながっていく土木事業の魅力を広めたい

――書籍化されてから、土木構造物に対する新たな気づきはありましたか。


過去に人々が素晴らしい土木構造物をたくさん造ってくれたから、私たちは今、便利で安全に豊かに暮らせていると強く実感しました。1冊にまとまったことで、日本が発展してきた歴史がよく分かるし、そういったことが俯瞰して考えられるようになりました。


――今後はどんなことに取り組んでいきたいですか。


一般の方に土木について伝える原稿を書くことは、ライフワークにしたいと思っています。過去、現在、未来へとつながっていく土木という素晴らしい仕事が、なぜこんなに低い評価なのかと悔しくて。もっと正当な評価を受けてもらえるように、原稿という形で土木の面白さを伝えていきたいです。また原稿に限らず、ガイドツアーなど土木の魅力を広めるための活動にも積極的に取り組みたいと思っています。


三上さんの著書にはほかに、土木事業のやりがいや土木技術者になる方法について解説した「土木技術者になるには」(ぺりかん社)がある。「なるにはBOOKS」という職業紹介シリーズに同書が加わったことで、将来就く仕事の選択肢のひとつとして「土木技術者に注目してもらえたらうれしい」という三上さんの著書にはほかに、土木事業のやりがいや土木技術者になる方法について解説した「土木技術者になるには」(ぺりかん社)がある。「なるにはBOOKS」という職業紹介シリーズに同書が加わったことで、将来就く仕事の選択肢のひとつとして「土木技術者に注目してもらえたらうれしい」という



■かわいい土木 見つけ旅―重厚長大だけじゃない、健気で愛おしいドボクの魅力探訪

かわいい土木 見つけ旅―重厚長大だけじゃない、健気で愛おしいドボクの魅力探訪

著者:三上美絵
出版社:技術評論社
発売日:2023年3月11日
詳細はこちら



▼本書のもととなった連載

・「かわいい土木」―月刊誌「建設業しんこう」(一般財団法人建設業振興基金)

・「ドボたんが行く!」―Webマガジン「アクティオノート」(株式会社アクティオ)


※記事の情報は2023年7月5日時点のものです。

【PROFILE】
三上美絵(みかみ・みえ)
三上美絵(みかみ・みえ)
土木ライター。1985年に大成建設に入社。1997年にフリーライターとなり、「日経コンストラクション」などの建設系雑誌や「しんこうWeb」、「アクティオノート」などのWebマガジンなどに連載記事を執筆。一般社団法人日本経営協会が主催する広報セミナーで講師も務める。著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員、土木広報大賞選考委員(2018年度、2019年度、2021年度)。
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