2021.01.12

ICT化が着実に進む工事現場。3次元データの活用が普及のカギを握る アクティオの土木・建設現場へのICT化の取り組みは早い。2008年から建設機械へのICT導入をスタートさせ、これは2015年11月に国土交通省が打ち出した「i-Construction」に先んじた動きだった。ICT化推進のポイントは3次元データの活用にある。測量や施工、出来形管理に至るICT作業プロセスの基本をおさらいしつつ現場の事例をご紹介する。

ICT化が着実に進む工事現場。3次元データの活用が普及のカギを握る

2次元(断面管理)から3次元(面管理)へと進化

アクティオの「i-Construction」への取り組みは早く、建機へのICT導入は2008年から開始している。この年に国土交通省が「情報化施工推進戦略」を打ち出す。その内容は、施工部門でICT建機を活用して効率的な施工を行おうというものだった。2015年に効率化の対象を測量や出来形管理にまで広げた「i-Construction」は、その延長上にある。


従来型の工事とICT導入後の工事との最大の違いは、3次元データの活用にある。測量や施工、出来形管理に使用されるデータが、2次元(断面管理)から3次元(面管理)へと進化した。このことは建設業界における産業革命といえるほどの大きな出来事だ。


3次元データの果たす役割は極めて大きい。建機に位置情報など様々な情報データを与え、機械の自動制御などによる効率的で精度の高い作業を実現するのが「情報化施工」。そのベースになる測量データを用意する方法にはいろいろある。


起工測量において、従来では一般的な方法ではトータルステーション(TS)を使い、工事前の地形を設計の横断図と重ね合わせて変化する箇所を20mごとに測量していく。こうして工事の施工土量を求めるのが従来型の方法だ。20mごとの測量となるので、設計内の全ての場所を計測するのは不可能。そのため、実際の施工にあたっては、断面だけの2次元データで作成された図面をもとに、データのない部分については建機のオペレーターが自分の技量で判断することになる。




ドローンを使い空中撮影。データを3次元データ化

では、3次元データ測量の手順とはどんなものか。まずはドローンなどの無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を使い、空中写真測量を行うことから始まる。精度を高めるために、写真はある程度重ね合わせて撮影する必要がある。進行方向には80%以上ずつラップさせて写真を撮っていく。ステレオカメラの原理で撮り、土地の起伏まで正確に記録できる。これをもとに3次元点群データを作成して、3次元設計データを重ね合わせると、図面のどの部分を輪切りにしても設計との差分を見ることができるようになる。


空中写真測量を行うドローン(UAV)空中写真測量を行うドローン(UAV)


ドローンの写真測量をもとに3次元点群データを作成するドローンの写真測量をもとに3次元点群データを作成する


ドローン撮影による複数枚の写真を組み合わせて、傾きやゆがみを排除し、正確な位置と大きさに表示されるように補正した写真画像ドローン撮影による複数枚の写真を組み合わせて、傾きやゆがみを排除し、正確な位置と大きさに表示されるように補正した写真画像


ドローン写真測量データから3次元点群データを作成。3次元設計データをもとに施工数量や土量を算出するドローン写真測量データから3次元点群データを作成。3次元設計データをもとに施工数量や土量を算出する




3次元データをもとに自動的に正確で効率的な施工実施

こうして現場の地形にマッチしたリアルな図面が出来上がる。この3次元図面に基づいて、正確で効率的な施工ができるようになる。例えばマシンコントロール(MC)(*注1)を搭載したブルドーザなら、3次元データをコントローラーに入力しておけば、簡単なレバー操作だけでそのブレード(排土板)が設計通りの高さに合わせて自動的に動いてくれる。


マシンコントロール(MC)バックホーの施工中の様子マシンコントロール(MC)バックホーの施工中の様子


また、マシンガイダンス(MG)(*注2)は、モニターに映し出される3次元データに基づいた情報を使って運転操作を支援してくれる技術。MGを搭載したブルドーザなら、オペレーターがブレードの位置をあとどのくらい動かせばいいかなど、設計図面をモニターで確認しながら操作できる。




建機自身の位置の把握には2通りの方法がある

3次元設計データを元に自動作業をしたり、操作支援をしてくれるこれらのICT建機には、リアルタイムで精度の高い測位システムが必要となる。自分が今、設計データ上のどこにいるのかを建機自身が自動で把握している必要があるからだ。測位システムには主に2つの方法がある。


1つがトータルステーション(TS)を使用する方法。建機にプリズムを設置して、TSを自動追尾させる。TSは観測データをリアルタイムに建機に送り続けて、建機はそのデータをもとに自分の設計データ上の位置を把握する。


もう1つがGNSS(人工衛星を使った測位システム)(*注3)による方法だ。建機にGNSSの受信機を搭載し、カーナビのように自分の位置を把握する方法。この方法にも何通りかあり、代表的なものは「RTK(リアルタイムキネティック)測位方式」と呼ばれる方法と、「VRS(Virtual Reference Station)方式」と呼ばれる方法がある。


「RTK(リアルタイムキネティック)測位方式」では、3次元座標が分かっている地点、例えば現場事務所の屋根などに基地局を設置し、基地局からGNSSの補正位置情報を建機とやりとりしながら計測する。また、「VRS方式」というのは仮想基準点方式と呼ばれ、国土地理院電子基準点データを、日本測量協会や民間の計算センターなどを通じてリアルタイムで受信し、それをもとに仮想基準点を計算上で算出してこれを基地局の代わりに使う。




3次元出来形測量で作業を効率化

施行後の出来形管理についても3次元データが活躍する。従来は、定められた断面を巻き尺やレベルで計測し、その値をその場でメモし、写真撮影し、後に事務所で出来形管理資料を作成していた。データの転記ミスや計算ミスといったリスクも起こりがちで時間もかかった。


「i-Construction」による出来形計測ではドローン(UAV)やレーザースキャナー(LS)が使われる。取得した現場の3次元計測データを専用ソフトに読み込み、報告用の帳票を作成する。施工の精度を分かりやすく可視化したデータは「ヒートマップ」と呼ばれる。施工前の3次元測量データと施工後の3次元測量データを照らし合わせれば、設計通りに施工されたかが明確に判断できる。これにより従来の人を動員して限られた場所で行う出来形管理よりも格段に精密な検査ができるようになる。




顧客に使い方を理解していただくことが肝要

アクティオは、こうした3次元データをベースにした機器やシステムを提供するにあたり、大切にしていることがある。それは、機器を提供する際には必ず取引先に対して導入指導を行い、使い方をきちんと理解していただくこと。また、現場の作業が確実に終わるように、きっちりと最後までしっかりとサポートすることである。


また、取引先のニーズに応じて、講習会も実施することもある。必要に応じて「設計だけ」「測量だけ」といったコースを選択していただける。


では続いて、実際に3次元データを効果的に使ったICT施工の現場をご紹介しよう。




ICT施工の現場の実例

河川拡幅工事(群馬県太田市)
「社会資本総合整備(防災・安全)河道拡幅工事(分割1号)」


起工測量と出来形測量はレーザースキャナー(LS)を使用することで作業時間の短縮を図った。測量システムはVRS(仮想基準点)方式のGNSS測量(*注3)を利用した。これにより基地局が不要となり、移動局だけを重機などに取り付けて環境を整えれば、すぐに作業を始めることができた。ローカライゼーション(*注4)を実施することで現場座標の計測値も得られる。こうしたICT活用により、高い精度の施工が可能となり、生産性の向上を得られた。


<工事概要データ>
発注者:群馬県太田市土木事務所
受注者:萩原建設株式会社
土工量:切土約2,484㎡/盛土約108㎡


工事に使われたアクティオ保有のMCバックホー工事に使われたアクティオ保有のMCバックホー


左:VRS方式によるGNSS測量の様子、右:ローカライゼーション<sup>(*注4)</sup>実施の現場座標の計測値左:VRS方式によるGNSS測量の様子、右:ローカライゼーション(*注4)実施の現場座標の計測値



護岸工事(埼玉県さいたま市)
「浦岩橋下流護岸工事」


起工測量と出来形測量はレーザースキャナー(LS)を使用し、通常の光波測量と比べて作業時間が約2分の1に短縮できた。施工ではアクティオ保有のMCブルドーザやMGバックホーなどを使用。締め固め管理システムを使用することで、丁張り・法肩・小段の位置出しといった作業が不要となった。このおかげで均一で高品質な法面整形が実現できた。


<工事概要データ>
発注者:埼玉県総合治水事務所
受注者:島田建設工業株式会社
土工量:約11,420㎡


LS(レーザースキャナー)を使った3次元起工測量レーザースキャナー(LS)を使った3次元起工測量


MCブルドーザを使った盛土敷き均しMCブルドーザを使った盛土敷き均し


MGバックホーを使った方面整形MGバックホーを使った法面整形



<用語解説>


*注1:MC(マシンコントロール)
3次元設計データと3次元測量データを利用して、建機をリアルタイムで自動制御しながら施工する自動操縦システム。導入の主な対象機種はブルドーザやアスファルトフィニッシャなど。


*注2:MG(マシンガイダンス)
3次元設計データと3次元測量データとの差分を、建機の操縦席のモニターに映し出して操作をサポートする操縦システム。既存の建機に後から設置できる。導入の主な対象機種はブルドーザ、バックホーなど。


*注3:GNSS(Global Navigation Satellite System)
衛星測位システムの総称で、人工衛星から発射される電波を受信することで地上の位置を決めるシステム。測量に使われる主な人工衛星は米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONAS(グロナス)、欧州の Galileo(ガリレオ)など。人工衛星の商用利用初期からGPSが利用されていたことから衛星測位システムをGPS測量と呼ぶことが多い。


*注4:ローカライゼーション
通常の現場施工はトータルステーションによる平面位置測量と水準測量による標高で工事座標を決める。一方、GNSS測量では、通常の地上測量で求めた工事基準点と、衛星から求めた工事基準点の座標の精度差を平均的に局地化(ローカライゼーション)する必要がある。一般的にはGNSS計測機器でGNSS測量値と地上測量の入力値の差分を確認、誤差を補正する。


※記事の情報は2021年1月12日時点のものです。


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