2024.01.24

結束作業を自動化する「鉄筋結束トモロボ」で「世界一ひとにやさしい」建設現場をつくる【建設業の未来インタビュー⑬ 前編】 鉄筋工事における結束作業を自動化するロボット「鉄筋結束トモロボ」を開発・提供する建ロボテック株式会社は、いま建設業界で注目されている企業です。2023 年には経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup」にも選定されました。ロボット開発を通して省力化・省人化ソリューションを提供する同社の代表取締役社長兼 CEO の眞部達也(まなべ・たつや)氏に、開発の経緯やソリューションの方法についてうかがいました。

文:茂木俊輔(ジャーナリスト)

結束作業を自動化する「鉄筋結束トモロボ」で「世界一ひとにやさしい」建設現場をつくる【建設業の未来インタビュー⑬ 前編】

ロボットの使い方を教える研修も実施

──建ロボテックでは、「世界一ひとにやさしい現場を創る」を会社のミッションに掲げています。そのミッションを遂行するためのコア事業を教えてください。


建設現場向けの省力化・省人化ソリューションの提供です。具体的には、「トモロボ」というブランドの建設ロボットを販売・レンタルしています。現在は、鉄筋工事における結束作業を効率化する「鉄筋結束トモロボ」と運搬作業をサポートする「運搬トモロボ」の2種類を提供しています。

「鉄筋結束トモロボ」については2021年から、使い方の研修も行い、修了した方を「トモロボオペレーター」として登録しています。登録者は現在、200人近くですね。「鉄筋結束トモロボ」を利用される現場では、建設機械施工安全技術指針で定める「監視員」としての役割をこの登録者に期待しています。ロボットという機械との協働作業ですから、危険箇所への作業員の立ち入りを防ぐために必要なんですね。登録者には、「監視員」としての自覚も持っていただくように努めています。


鉄筋工事における結束作業を自動化するロボット「鉄筋結束トモロボ」鉄筋工事における結束作業を自動化するロボット「鉄筋結束トモロボ」



──眞部さんはもともとお父様が立ち上げた鉄筋工事会社を継いだ2代目です。なぜ、自ら立ち上げた別の会社でこうしたコア事業を展開するに至ったのですか。


建設ロボットの開発に乗り出したのは、建設現場の労働環境を改善したかったからです。鉄筋工事の作業はとても過酷で、中には初日で辞めてしまう作業者もいるんです。猛暑の時期には、「こんなの人間がする仕事じゃない!」と言い放って朝9時半に現場を立ち去った若手もいました。

このような環境を改善しようと、2016年に建設ロボットの開発に取り組み、2020年に鉄筋結束ロボットを完成させました。同時に、省力化ロボットブランドとして「トモロボ」を立ち上げ、「鉄筋結束トモロボ」という名称で販売・レンタルに踏み出しました。

ところがその後、あるお客様から強烈なクレームを受けました。「このロボットは何だ! 全然使えないじゃないか!」と。現場の図面を確認させてもらって「ここは使えるはずです」と伝えると、「いや、私はどこでも使えると聞いた」と言われ、「あっ!」と思い当たったんです。「鉄筋結束トモロボ」は段差や障害物に弱く、そういうものがある場所では使えません。貸し出す時の説明が不十分だったんですね。

このままでは4年がかりで開発した「鉄筋結束トモロボ」の価値が落ちてしまう。そんな危機感を覚え、販売・レンタルと併せて使い方の研修を実施する必要性に気づかされました。冒頭申し上げたような研修を始めたのは、こうした経験があったからなんです。


建ロボテックの眞部達也社長兼 CEO

開発環境や保険をイチから整備

──ロボット開発は未経験の分野だったかと思いますが、どのように進められたのですか。


メーカーの産業機器開発チームとの共同開発です。幸い、鉄筋結束機はすでに市販されていましたから、僕たちはそれを用いて鉄筋を結束していく仕組みを開発すればよかった。具体的には、配筋された鉄筋の上を走行し、センサーで鉄筋の交点を確実に検知したら、そこに鉄筋結束機を下ろして鉄筋を結束する、という仕組みです。さらに、作業員と接触事故を起こさないように、触覚の役目を果たす安全センサーも開発しています。

ところが初号機の開発を終えると、共同開発相手のメーカーが産業機器開発の事業を大幅に縮小することになってしまった。そこで、メーカーが保有している知的財産権やロボットのパーツなどを当社で買い取り、以降のバージョンアップは当社単独で進めていく体制を整えました。幸い、メーカー側のコアメンバーである技術者が当社に加わってくれて、現在はその技術者を中心に4人体制で自社開発・自社設計・自社改良に励んでいます。


建ロボテックの社内にある開発室。「鉄筋結束トモロボ」をはじめとしたロボットの実証実験を行っている建ロボテックの社内にある開発室。「鉄筋結束トモロボ」をはじめとしたロボットの実証実験を行っている


──「鉄筋結束トモロボ」を製品化するにあたっては、ロボットの開発以外でもさまざまなご苦労を経験されたと思います。どのようなご苦労を経て製品化に至ったのですか。


大きく2つあります。ひとつは、運搬です。リチウムイオン電池を搭載しているため、輸送には法令上の規制を受けるんです。開発当初は運送会社に頼もうとすると、「鉄筋結束トモロボ」1台運ぶのにトラックを1台チャーターする必要がありました。運送費用がものすごく高くなりますから、ビジネスとして成り立ちません。初めのころは自らトラックで運搬し、全国の建設現場に届けていました。

ところがその後、ロボットの運搬が一般化したこともあり、運送会社の取り扱いが変化してきています。運送費用も、お客様に何とかご納得いただける金額に落ち着いてきました。

もうひとつは、保険です。ロボットが壊れたとき、その修理費用を保険金でカバーするような保険商品を開発しました。「鉄筋結束トモロボ」を開発した当時、建設現場で稼働する自走式のロボットはこのロボットだけでしたから、世の中に保険商品がなかったんです。

保険仲立人登録者の知人に相談したところ、「面白いやないか」と保険商品を設計してくれることになりました。その内容をもとに損害保険会社と打ち合わせを重ね、実現に至りました。


──「鉄筋結束トモロボ」を建設機械として安心して利用できる体制が整っているわけですね。建設ロボットとその使い方研修の場を省力化ソリューションとして提供する上で、ほかにも心掛けていることはありますか。


まず、お客様にとって経済合理性が成り立つ料金で提供することです。建設現場での労働対価と少なくともイコールでないと、意味がありません。

もうひとつ、重量にも注意を払っています。現場では、人間がロボットを移動させる必要がどうしても生じます。そのときに手で運べることが重要です。


※記事の情報は2024年1月24日時点のものです。



〈ご参考までに...〉

自走式鉄筋結束ロボット トモロボ(アクティオ公式サイト)

【PROFILE】
建山 和由 (たてやま・かずよし)
眞部 達也(まなべ・たつや)
建ロボテック株式会社 代表取締役社長兼CEO
1976年生まれ。香川県出身。高校を卒業して調理師専門学校に進んだ後、レストランに就職。その後、父親が経営する有限会社都島興業に入社。建設現場の非効率性という問題を解決するため、2013年にEMO株式会社を設立。現場の作業効率化を大きく変えるVバースペーサーなどの製品を開発する。さらに、4年を費やした「鉄筋結束トモロボ」の開発を機に2019年、建ロボテック株式会社へ名称変更。「鉄筋結束トモロボ」は2021年、公益社団法人発明協会主催「令和3年度四国地方発明表彰」で最高位の「文部科学大臣賞」受賞。2022年りそな中小企業振興財団・日刊工業新聞主催「第34回 中小企業優秀新技術・新製品賞」でも同じく最高位の「中小企業庁長官賞」を受賞。

〈後編〉へ続く

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