2023.08.30

建設DX推進で変わる現場。AI・ロボットとの付き合い方を考える【建設業の未来インタビュー⑫ 後編】 建設DXが推進され、さまざまな新技術が実用化される中で、AIやロボットが建設現場で活躍する場面が多くなりました。「AIやロボットが進化すると、人間の仕事がなくなってしまう」と危惧する声もありますが、建設業において、最新技術と人間はどのように協働していくことができるのでしょうか。前編に引き続き、建築DX研究の第一人者である立命館大学の建山和由(たてやま・かずよし)教授にうかがいました。

ゲスト:建山和由(立命館大学 総合科学技術研究機構 教授)
聞き手:家入龍太(建設ITジャーナリスト)

〈前編〉はこちら

建設DX推進で変わる現場。AI・ロボットとの付き合い方を考える【建設業の未来インタビュー⑫ 後編】

実用化できるレベルに達した建設用ロボット

──最新の自動車工場では、多くの仕事をロボットがしていて、人間の仕事は車体にシートを載せる作業や、最後のチェックぐらいです。こうした製造業と比べて、建設業ではなかなかロボット化が進んできませんでした。その理由は何でしょうか。


建山 確かに、製造業では1990年代からロボットによるファクトリー・オートメーションが導入されてきましたが、それに対して建設用ロボットは20〜30年遅れているといわれます。

理由のひとつとして挙げられるのが、建設現場が非常に多様であるという点です。現場ごとに工法を決めて、現場ごとに設計して、現場ごとに工事をしているので、決まった動きをするロボットが導入しづらかったのです。しかし、国土交通省が進めているi-Constructionでは、施策のひとつとして「規格の標準化」に取り組んでいますので、今後は、ロボットなどの自動化が進めやすくなることが期待されます。


──部材や工法を標準化していくということですね。


建山 そうですね。また、ロボットの移動の問題もありました。製造工場では、ベルトコンベヤーで流れてくる物を待って仕事をするのに対し、建設現場では、ロボット自身が適切な位置に動いて仕事をしなければならない。この難題があったので、なかなか建設業でロボットの導入が進まなかったのですが、GPSとAIがそれを解決してくれました。広い現場で、今どこにいるのか、次はどこに動くのかといったことなど、状況判断ができるようになり、実用レベルにまできています。


──近年では3Dプリンターで縁石ブロックを施工した事例がありましたね。大まかな部分をロボットに施工してもらい、コンクリートがちょっとはみ出したり、表面にすじが出たりした部分を人の手で仕上げていました。前編で先生がおっしゃった「ラクして、いい仕事をする」にも通じます。


建山 コンクリート構造物を施工する際、従来は型枠を作る必要がありましたが、3Dプリンターを使用すると、その必要がなくなる上に、複雑な形状にも対応できるというメリットがあります。ロボットには大まかな作業を担当してもらい、最終的には人間の手で整えるというすみ分けもいいかもしれませんね。


──そうすることで「ロボットが人の仕事を奪う」という懸念をクリアすることもできますし、職人にやりがいを感じてもらいながら、その能力を生かすという意味でも望ましいですね。そんな協働の仕方なら、ますます良い仕事ができそうです。

(上)3Dプリンターによって施工された縁石ブロック。(下左)現地に3Dプリンターを据え付けて、直接造形物を印刷。(下右)左官作業は印刷と並行して実施した(画像提供:株式会社Polyuse)(上)3Dプリンターによって施工された縁石ブロック。(下左)現地に3Dプリンターを据え付けて、直接造形物を印刷。(下右)左官作業は印刷と並行して実施した(画像提供:株式会社Polyuse




AIは判断材料を提供してくれる「有能な友達」

──AIを活用した事例では、コンクリートのひび割れを検知するシステムもありますね。このシステムでは、怪しいと思われる場所をAIが見つけて、抽出された箇所を人間が目視し、異常か正常かの最終判断をしています。


建山 今までは正常なところも含め、人間が全てチェックしていました。AIに怪しいところだけ取り出してもらって、集中的にチェックするというのは、非常に良いやり方だと思います。いずれにせよ、最終的な判断は人間が行うべきです。それを前提とすれば、AIは判断材料となる情報を提供してくれる「有能な友達」として機能するかもしれませんね。

また、今後は作業中の話し相手としてAIを活用してもよいかもしれません。例えば、北国の除雪作業は、車の少ない夜中の時間帯に行うのですが、吹雪で見通しの悪い中での作業は精神的ストレスが非常に大きいんです。

現在は2人組で行うのが一般的ですが、省人化が進むといずれ1人で作業することになるでしょう。そうしたときに、精神的プレッシャーをどう克服するか、また作業員1人でどのように状況判断するのかといった点が課題になってきますが、AIと話をしながら作業ができたら、これは結構有効かもしれません。

建山和由(たてやま・かずよし)教授




効率化・省人化は脱炭素化にもつながる

──AIやロボット技術の進歩もあり、建設業界でDXが進む中で、必要とされるのはどのような人材でしょうか。


建山 変化の大きい時代では、建設業も変わっていかなければなりません。そのために最も必要なのは、意識改革だと思います。チャレンジングな姿勢を見せられる人を大事にして、チャレンジした結果として失敗しても非難するのではなく、評価する環境が重要です。失敗は、次の新しいチャレンジにつながっていくひとつの大きな情報なので、チャレンジを積み重ねて、業界が成長できるような仕組みができていくといいなと考えています。


──長期的に人材を評価するということが肝要なのかもしれませんね。


建山 そうですね。前編でもお話ししましたが、人手不足を解決するためにも「この業界で働きたい」という人にどんどん入ってきてほしいですよね。今この業界にいる人たちが、生き生きと仕事する姿を見せるためにも、チャレンジする姿勢は欠かせないと思います。


家入 龍太(いえいり・りょうた)さん


──建設業では今後、どのようなことが課題になっていくでしょうか。


建山 今、議論されている課題のひとつがカーボンニュートラル(脱炭素化)です。実は、カーボンニュートラルと効率化・省人化は、同時に進めることができます。

というのも、建設工事は長期にわたりますし、不確定要素が多いので、悪天候が続くなどの悪い条件を想定して、余裕をもった計画を立てていきますよね。しかし、良い条件が続くときもあります。そのときに元の想定のまま工事を進めてしまうと、資材やエネルギーの過剰なインプットをしてしまい、さらに日程や人材面も含めて、さまざまな無駄が生じます。現場の状況を細かく把握して、それに応じて柔軟に調整することが求められるわけですね。


そこで、AIやロボットを活用して現場全体でデータ共有をすれば、柔軟に予定を調整することができ、エネルギーや人材の無駄を減らせます。資材やエネルギーの無駄を減らせば脱炭素化につながりますし、人員の無駄を減らせば効率化につながります。前編でもお話ししましたが、無駄を省くには、現場全体でのデータ共有が有効だと思います。




建設の技術はいつも現場で磨かれてきた

──最後に、最新技術によって変わりつつある建設業ですが、技術者の喜びはどんなところにあると思いますか。


建山 以前、私の所属する土木学会の関西支部に他分野の技術者をお招きした際に、「土木の世界はすごい」と言っていただいたんです。「例えば、全長3,000mを超える吊り橋や総延長50kmを超える海底トンネルをつくることができる。その技術はすごいですよね。われわれは畏敬の念をもって見ているんですよ」と。


──うれしいですね。他分野の方からもそう見えているように、建設業の技術者が面白みややりがいを感じられる根幹の部分は、今も昔も変わらないという印象です。


建山 土木・建築の技術というのは、研究所で考えてつくる物もありますが、現場で磨いていく側面が強いと思います。現場で工夫し、新しいものを取り入れながら、世界に誇れる技術が確立されてきたわけです。今後は、AIやロボットなどをうまく生かしながら、さらに新しい次の技術をつくっていってほしいと思います。




今後は、AIやロボットなどをうまく生かしながら、さらに新しい次の技術をつくっていってほしいと思います。

【取材を終えて】

建設DXというと、技術の話が先行しがちですが、「ラクして、良い仕事をする」ために活用するものということを忘れずに取り組みたいものです。そうした前提をもとにAIやロボットを活用し、さらにまた新しい技術をつくっていく。それが、建設現場で働く人たちの喜びにもつながればよいなと思います。


※記事の情報は2023年8月30日時点のものです。

【PROFILE】
建山 和由 (たてやま・かずよし)
建山 和由 (たてやま・かずよし)
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授。1980年に京都大学工学部土木工学科卒業後、同大学で博士号(工学)を取得。1985年から京都大学工学部助手。講師、助教授を経て、2004年4月から立命館大学理工学部教授。建設施工にICTを活用して生産性の向上や安全性の改善を目指す研究に取り組み、それを社会的な取り組みに広げる活動を行っている。国土交通省 i-Construction推進コンソーシアム企画委員会委員、同ICT導入協議会委員長などを歴任。
家入 龍太(いえいり・りょうた)
家入 龍太(いえいり・りょうた)

建設ITジャーナリスト。1959年生まれ。京都大学大学院(土木工学専攻)を修了し、日本鋼管(現・JFE)に入社。1989年に日経BPに転職。「日経コンストラクション」副編集長、「ケンプラッツ」初代編集長を歴任し、2010年に独立。2020年に株式会社建設ITワールドを設立し、IT活用による建設業の成長戦略を追求する。



〈ご参考までに...〉

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