2021.07.28

デジタル化進展で建設業界へのベンチャー参入も見込む【建設業の未来インタビュー② 後編】 建設機械のレンタル会社を軸に、測量機器メーカー、CADメーカー、建機メーカーなど、ICT施工をサポートする各社が集まり、現場施工のデジタル化に向けたコンソーシアムを立ち上げる動きが出てきました。コンソーシアムの設立によってICT施工はどう変わっていくのか――。事務局として準備作業に奔走するサイテックジャパン株式会社の濵田文子取締役ゼネラルマネジャーへのインタビューを、前回に引き続き、お伝えします。

ゲスト:サイテックジャパン株式会社 濵田文子取締役ゼネラルマネジャー
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)

デジタル化進展で建設業界へのベンチャー参入も見込む【建設業の未来インタビュー② 後編】

現場施工のデジタル化が、さりげなく可能に

――現場施工のデジタル化という点で言うと、東京の大手建設会社だけでなく、地方の中小建設会社、工務店にまで、それをどう広げていくか、という点にも課題がありそうです。


濵田 そうですね。普及が進まない理由の1つには、ICT施工関連の製品がまだ高価だという点があります。普及が進めば安くなっていくはずですが、まだそこには至りません。何より今は、それらの製品を利用しなくても、つまりICT施工に対応できなくても工事を受注できるのが実情です。新しいことに乗り出さなくても事業を継続できています。


しかし5年後は、どうでしょうか。今と同じではいられないはずです。そういう時代の到来を考えると、製品である「モノ」とサービスである「コト」を同時に提供していくことが必要になります。普及のシナリオとして、「モノ」の供給に弾みがつき、それに伴い「コト」の提供も加速度的に広がる、というものが考えられます。ただ「モノ」の供給に弾みをつけるには、「コト」の存在が欠かせません。

濵田文子さん(株式会社サイテックジャパン 取締役ゼネラルマネジャー)


製品である「モノ」は今、各社で供給しています。その供給に弾みをつける「コト」を、各社ばらばらにではなく、新しく立ち上げようとするコンソーシアムから提供しようということです。そこで重要な役割を担うのが、前回も申し上げた通り、建機レンタル会社です。


建機レンタル会社は、地方の中小建設会社とも顧客接点を持っています。しかもICT施工が当たり前になるまでの段階では、「モノ」をレンタルの形で供給できますから、それに併せて「コト」の提供に広がりを生じさせることが可能です。


――普及を図るうえではもう1つ、データ活用も欠かせません。その価値というものが広く認識されるようになれば、現場施工のデジタル化に自ずと弾みがつくように思います。このデータ活用という課題に対しては、立ち上げ予定のコンソーシアムではどのように取り組んでいくことになりますか。




いずれは人手不足問題の解決にも役立つ

濵田 前回ご紹介したように、デジタル化を支援する各社で提供するクラウドサービス間でAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携が図れることを国土交通省関東地方整備局の公募事業を通じて検証しました。ただそれは、連携を図るサービス間で手と手をつないだだけの状態です。実際にはそこを、3次元データが行き来します。例えば施工管理に活用するアプリケーションを開発したベンチャー企業がコンソーシアムに参画すれば、そのデータの価値を広く建設会社に提供する場にもなり得ます。


コンソーシアム自身としては将来的には、現場の無人化・省人化を可能にするような方向でデータの活用を模索する必要があると考えています。私たちが現場施工のデジタル化を支援する背景には、やはり人手不足という課題があるからです。


――ここまで話をお聞きして、コンソーシアムを立ち上げる意義が垣間見えてきたように思います。あらためて建設会社にとっての意義を整理していただけますか。

茂木俊輔(ジャーナリスト)


濵田 建機レンタル会社を通じて一元的に提供されるサブスクリプションサービスを利用することで、コンソーシアム参画各社で提供するICT施工関連の製品やクラウドサービスを介して、起工測量から施工管理まで一貫してデジタル化を進められる、という点がまず挙げられます。現場施工のデジタル化が、さりげなく可能になります。


またデジタル化が進めば、その支援をビジネスにしようとする企業、しかもこれまでにはない視点を持ったベンチャーの新規参入も見込めます。そうした動きによってデジタル化を支援する業界が活性化すれば、建設業界にもメリットが生じそうです。例えば現場作業にゲーム感覚を取り入れることも可能になり、それが若者にとって魅力的な職場として認知されるようになることなどが考えられます。


――なるほど、そういう効果も見込めるのは面白いですね。


濵田 ものづくりはそもそも楽しいことです。そのものづくりを、例えば遠隔操作でできるようになる。そういう世界を格好いいと思うような若者が増えていくのではないか。増えていけば、若者が建設業界にもっと興味を持つようになるのではないか――。そのような期待を抱いています。

濵田文子さん(株式会社サイテックジャパン 取締役ゼネラルマネジャー)


――コンソーシアムの設立に向け、今はどのような段階にあるとみればいいですか。


濵田 前回ご紹介した国交省関東地方整備局の公募事業は、もう1つ別の企業グループも受託しています。テーマはやはり、現場施工のデジタル化です。そこで、このグループとも連携し、さらに3次元データについて造詣が深い国交省の担当者を交え、計三者で協議を進めていく予定です。まずは、ビジョンや目標を共有することが重要です。できるだけ早いうちに、そこまでたどり着きたいと考えています。


――最後に、このインタビュー記事をご覧いただいている全国の建設関係の会員の方々に、メッセージをいただけますか。


濵田 建設業界の皆様には、常日ごろ、感謝と尊敬の念を抱いております。素晴らしい連携と高度な調整力・技術力で、さまざまな構造物をつくり出しているということは、日本人として誇らしく思います。そうした建設業界が、人手不足、とりわけ若者の入職者減によって将来に希望を持てなくなることに、危機感を覚えます。将来を見すえれば、業界の発展にはデジタル化は欠かせないと確信しています。少しでも皆様のお役に立てるように、これからもさまざまな形で現場施工のデジタル化を支援させていただきます。


――濵田さん、ありがとうございました。コンソーシアムの立ち上げを、大きな期待を抱きながら見守っていきたいと思います。



取材を終えて
濵田さんのお話をうかがって興味深かったのは、コンソーシアムの推進において建機レンタル会社がカギという指摘です。確かに顧客接点は豊富です。建設会社にとっては身近な相手だけに、現場施工のデジタル化を自分事にできる可能性が開けそうです。もう1つ、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた新しいプレイヤーの登場が見込める点も注目できそうです。デジタル化を支援する業界が活性化すれば、その勢いは建設業界にもプラスに働くはずです。


※記事の情報は2021年7月28日時点のものです。

【PROFILE】
濵田 文子(はまだ・あやこ)
サイテックジャパン株式会社 取締役ゼネラルマネジャー。1962年生まれ。日本大学理工学部数学科を中退し、大塚商会にプログラマーとして入社。93年にトリンブルジャパン(現ニコン・トリンブル)に転職。2011年にiCT営業部を立ち上げ、シニアマネジャーとしてICT施工市場の拡大に奔走。17年9月にサイテックジャパンを分社設立。トリンブル社製ICT製品を通して、IT活用による土木建設業の成長を模索する。

茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。



〈ご参考までに...〉

オリジナル動画「建設業の未来インタビュー【2】」をご視聴いただけます。

▼前編

▼後編

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