インタビュー
2021.07.21
現場施工のデジタル化推進に向け、民間企業がコンソーシアム立ち上げ【建設業の未来インタビュー② 前編】 建設機械のレンタル会社を軸に、測量機器メーカー、CADメーカー、建機メーカーなど、ICT施工をサポートする各社が集まり、現場施工のデジタル化に向けたコンソーシアムを立ち上げる動きが出てきました。設立の狙いはどこにあるのか、準備はどこまで進んでいるのか――。事務局として準備作業に奔走するサイテックジャパン株式会社 濵田文子取締役ゼネラルマネジャーへのインタビューを、前編と後編の2回に分けてお伝えします。
ゲスト:サイテックジャパン株式会社 濵田文子取締役ゼネラルマネジャー
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)
各工程のクラウドサービス間でデータ連携へ
――コンソーシアム立ち上げに向け、2020年度には民間11社で国土交通省関東地方整備局の公募事業を受託するなど、準備を着々と進めています。設立の狙いとも重なると思いますが、建設業界に対する課題意識はどこにあるのですか。
濵田 現場施工のデジタル化がなかなか進まないことですね。皆さん、スマートフォンを持ち、タブレット端末も使います。それでも、デジタル化の進み具合は、肌感覚で言って10%程度ではないでしょうか。
確かに少しずつ進んでいるとみています。ただ、設計データを施工に活用し、施工段階でのデータを維持管理に生かす、といったデータ利活用のサイクルをまだ築けてはいません。こうした課題にどう対応していくか、その具体の取り組みの1つが、コンソーシアムの立ち上げなのです。
――建設業界もさることながら、現場施工のデジタル化を支援するさまざまな業界側にも課題があるからこそ、競争関係や業界を超えてコンソーシアムを立ち上げる。そうした背景事情もあるのですか。
濵田 ありますね。支援する側は、それぞれにデジタル化を進め、クラウドサービスを提供したいと考えています。しかも今の時代、各社とも定額制のサブスクリプションサービスを想定して事業展開を図ろうとしています。ところが各社がそうすると、建設会社にとっては契約相手や支払い先が無数に増えることになりかねません。
そこで着目したのが、建機のレンタル会社です。レンタル会社は建設関連の機器や設備を定額で貸し出してきました。今で言うサブスクリプションを、レンタルという言葉で事業展開してきたと言ってもいいと思います。建設業界では今、建機のレンタル会社はなくてはならない存在です。
デジタル化を支援する会社が、建設会社に向けてサブスクリプションサービスを提供しようというのであれば、既に建設各社に定額制のようにサービスを提供している建機レンタルの会社を起点に提供していけば合理的です。建設会社にとっては窓口が1つになりますから。
競合会社も協調領域を探りデータ連携を図るべき
こうした経緯で手始めに数社で集まって検討を始めたものの、机上の検討ではビジネス上のリスクはなかなか見えてきません。実証実験でもやらないとそこまで分からないのではないか、という機運になってきました。
例えば、建設会社からすれば、起工測量から施工管理まで一気通貫でデータを活用できるようにして生産性の向上を図りたい。ところが今は、工程単位でデータが分断され、連携が図れません。サービス利用者の立場に立てば、関係各社が競争領域は意識しつつも、協調領域を探り、データ連携を図るようにすべき、ということです。
ちょうどその頃、国土交通省も同様の問題意識を抱えていたようです。2020年度には、同省関東地方整備局がデジタル化の支援に向けた公募事業を発注することになりました。私たちはそこに手を挙げ、具体的な事業を通じて競争領域と協調領域のバランスを見極めようとしたのです。
――この公募事業には、建機レンタル会社を代表に、測量機器メーカー、CADメーカー、建機メーカーなど、民間11社で参画されました。どのような事業だったのですか。
濵田 非衛星測位環境下のドローン計測とAPI*による現場計測の省人化技術という2つのことを1つにまとめた事業です。簡単に言えば、トンネルや森林の中など非衛星測位環境下でもドローン計測が可能か、起工測量から施工管理までの各工程で提供するクラウドサービス間でAPI連携を図りデータを共有できるか、という大きく2つのことを検証するものです。
* API:Application Programming Interfaceの略。OSやWebサービスなどのソフトウエアが、機能の一部をほかのプログラムで利用できるようにするため公開する手順や技術、規格、仕様などを指す。
――民間11社にとって、この事業は実証実験の側面があったと思います。事業を通じて得られた成果や課題をどのように受け止めていますか。
濵田 成果としては、利害関係を超えてチャレンジすれば、異なる会社のクラウドサービス間でAPI連携を図ることは可能という点が挙げられます。非衛星測位環境下でもドローン計測を可能とする技術は確立されていますし、API連携も技術的にはやればできるということがはっきりしました。
一方、課題として残ったのは、互いの連携を図る場合、どのようなつなぎ方がいいのか、という点です。考えられるつなぎ方は、2つあります。1つは、各社で提供するサービス間を全て、網の目状につないでいくものです。もう1つは、建機レンタル会社で提供するハブを中心に置き、各社で提供するサービスはそのハブにつなぐというものです。
コスト、手間、運用を考えると、一長一短です。ただ、優秀なベンチャーがデジタル化の支援に乗り出し、新しいサービスを提供し始めた場合、それを連携関係の中に組み込むにはハブ型のほうが有利です。そのサービスをハブにつなぎさえすればいいからです。私自身は、コンソーシアムではハブ型を前提に検討を進めるのが得策とみています。
――民間事業者が競争関係を超えて協調領域を開拓していくことができるかという点が、コンソーシアムの立ち上げに向けた大きな課題と考えられます。そうした関係性を築ける可能性はどこにありそうですか。
濵田 国交省のような第三者の関与が欠かせません。競争関係にある同業者の集まりですから、特定の会社が主導権を握ると反発が生まれ、検討が進みません。また外から見たときには、独占禁止法上の問題が疑われる危険性もあります。こうした事態を防ぐためにもまず、公正中立の第三者の協力を得ながら、準備をさらに進めていく考えです。
後編では、コンソーシアムの立ち上げによって、ICT施工はどのように変わっていくのか、という点をお聞きしていきます。
※記事の情報は2021年7月21日時点のものです。
濵田 文子(はまだ・あやこ)
サイテックジャパン株式会社 取締役ゼネラルマネジャー。1962年生まれ。日本大学理工学部数学科を中退し、大塚商会にプログラマーとして入社。93年にトリンブルジャパン(現ニコン・トリンブル)に転職。2011年にiCT営業部を立ち上げ、シニアマネジャーとしてICT施工市場の拡大に奔走。17年9月にサイテックジャパンを分社設立。トリンブル社製ICT製品を通して、IT活用による土木建設業の成長を模索する。
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。
〈ご参考までに...〉
オリジナル動画「建設業の未来インタビュー【2】」前編をご視聴いただけます!