グループシナジー
2023.11.17
地盤改良の最先端企業、三信建設工業の次世代を見据えた技術開発 地盤改良の専門会社として高い品質、確かな技術を誇る三信建設工業株式会社。前回はトップインタビューを軸に同社の取り組みを紹介したが、今回は茨城県にある常総機材センターを訪ね、同社の品質と安全管理、技術開発を中心にレポートする。
施工に関する統括部署「施工本部」
1956年に創業した三信建設工業は、2018年にアクティオグループの一員となり新たな一歩を踏み出している。前回の取材では山﨑淳一代表取締役社長に同社の概要や強み、村井健一上席執行役員営業本部長に営業全般についてうかがった。今回は城戸博行常務執行役員施工本部長と関昌則常務執行役員技術本部長に、同社の常総機材センター(茨城県)で話を聞いた。
三信建設工業には営業本部、施工本部、管理本部、技術本部といったセクションがある。城戸常務執行役員が担当されている施工本部とは、どのような役割を担っているのだろうか?
城戸「施工本部は当社の施工に関する統括部署です。国内には北から仙台、東京、名古屋、関西、広島、九州、海外には台北、香港の各支店があり、それぞれが責任を持って施工を行っています。各支店の数字的な管理、施工に関する助言、現場における安全・品質、事故防止策の提案などまとめています」
各種地盤改良に加え、アンカー、補強土・のり面保護、構造物補修・補強など、さまざまな事業を展開している三信建設工業だが、なかでも同社の強みはコンパクショングラウチング(CPG:静的圧入締固め)工法による地盤改良で、空港での液状化対策のCPG工事が代表例である。
城戸「液状化対策の工法はいくつかあるのですが、当社がいち早く取り組んだCPG工法は、既存構造物を機能させながら耐震補強が行えることが特長です。その中でも空港の工事は、毎晩のように約100台の作業車が隊列を組んで現場に入り、安全第一で作業を遂行しています。日々滑走路の機能を止めないで施工するため、施工は22~23時にスタートし、翌朝5時には完全撤収します。実際に作業できる時間は4時間程度しかありません。この作業時間は一般的な現場の約2分の1です」
短い作業時間、しかも真夜中......。労働災害のリスクを抑えるために、どのような対策がとられているのだろうか?
城戸「絶対に事故は起こさない。これが基本です。もしも作業が遅れた場合、それを取り返そうとすると事故が発生するリスクが高まります。現場は出来高を優先しがちですが、安全最優先の視点に立てば、たとえ出来高が半分になったとしても致し方ないと思っています。もちろん、作業を途中で中断して翌日に持ち越す場合は、最低限、その状態でも安全が確保できる状態にしておく必要はあります」
安全管理については、施工本部の中にある品質管理部が担っているという。
城戸「毎日のように担当者が現場に赴いて、安全パトロールを行っています。私も担当の東京支店のほか、年に1~2回は地方支店に安全パトロールに行きます。現場を管理している社員と安全意識や手順の確認を行うわけです。やはりリスクを軽減する対策が重要です。その第一歩は『現場の整理整頓』だと思います」
厚生労働省が発表した「令和4年の労働災害発生状況」によると、事故の型別発生状況で最も多いのは転倒(3万5,295人)だ。城戸常務執行役員も語っていたが、通路に物を置かないといった対策はおろそかになりがちなので、そのあたりは事あるごとに指摘する必要がある。安全は全てに勝ることを、決して忘れてはならない。
主に東京支店の機材を維持管理する「常総機材センター」
各種工事で使用する機械を維持管理しているのが常総機材センターだ。
城戸「常総機材センターでは、主に東京支店が使用する機材を維持管理しています。もともと機材センターは千葉県の長浦にあったのですが、海抜の低い場所だったため、災害リスクなども勘案し、2021年9月にここ茨城県常総市に移転しました」
技術開発関連を一挙に担う「技術本部」
常総機材センターの一角に、常総試験室という施設がある。地盤改良に関する各種研究開発を行う場で、ここは技術本部の管轄だ。関昌則常務執行役員技術本部長に話をうかがった。
関「技術本部は当社の技術開発全般、特許などの知的財産の管理、契約書の作成・保存を行うほか、公益社団法人地盤工学会、公益社団法人土木学会、公益社団法人日本材料学会などで研究成果を発表するのも仕事です。私は普段、東京の本社にいますが、今年になってから新たな取り組みを始めたので、常総機材センターに来る機会が増えました」
具体的には、どのような研究を行っているのだろうか?
関「一例を挙げると、グラウト材(無収縮モルタル)の改良があります。簡単に言うと我々の仕事は、穴を掘る、物を入れる、固めるです。そこで一番重要になるのが、物を入れる工程で使用するグラウト材の品質なんです。その品質が測れるような圧縮試験、薬液注入で使用する薬剤の品質試験などを行っています。脱炭素が世の趨勢なので、今はセメントをできるだけ減らしたグラウト材の技術開発に取り組んでいます」
脱炭素化に貢献するグラウト材の技術開発とは、どのようなものなのだろうか?
関「使用するセメントを減らすために、高炉スラグ、つまりセメントに刺激剤を入れて強度が上がるようにしています。メインの刺激剤は廃ガラスですね。空き瓶などを微粉末にして入れるのですが、今はニーズが高くて手に入りにくくなっているので、廃ガラスに代わる素材も研究しています」
室内だけでなく、屋外で行う研究もあるのだろうか?
関「地盤改良のフィールドテストは、飽和土で行います。飽和土とは隙間が完全に水で満たされている状態で、地下水位よりも下の地盤や海底の地盤などです。その飽和土を人為的に作り出すのは難しいため、去年、今年と海沿いの別の場所で行いました」
新しい工法の開発にも目を向けながら既存の工法を進化させる。技術本部が担う責務は大きい。
関「当社だけではなく、どこも新しい工法の開発に情熱を注いでいますが、新しい工法を作ることができても、それが商品として評価されるかは別問題です。企業人である我々にとって、売れる工法、つまり売れる商品を作らなくては意味がありません。まるっきりゼロから新工法を作り出すのはハードルが高いですが、既存工法のブラッシュアップは常に行っています」
薬剤改良のほか、機械の自動化も大きなテーマだという。
関「建設業界の担い手不足を解消しつつ生産性を向上させるためには、ICTやAIといった技術が必須です。そのあたりは外部とも連携しながら進めています。作業員の介在を減らせればヒューマンエラーを減らせますので、作業の効率化だけではなく、安全性の向上も図れるため大きなメリットが得られます」
高い品質と安全性を確保した施工、次世代の工法を生み出すための技術開発。次世代を見据えた三信建設工業の取り組みが垣間見えた取材であった。
▼三信建設工業株式会社
https://www.sanshin-corp.co.jp/
※記事の情報は2023年11月17日時点のものです。