2022.12.13

山岳トンネル工事の掘削作業を省力化し、安全性の向上にも貢献する「T-アタリパーフェクター」 山岳トンネルの断面積が、設計データを下回ることはあり得ない。必然的に大きめに掘削しがちだが、それでは施工時間や処理する残土の量、使用する資材が増えてしまう。こうした現場の課題の解消に、設計データにより近い掘削、さらに安全性にも配慮したシステムとして開発されたのが、「T-アタリパーフェクター」だ。

山岳トンネル工事の掘削作業を省力化し、安全性の向上にも貢献する「T-アタリパーフェクター」

トンネル大国、日本

山々が連なり、海沿いは入り組んだ地形が多い日本。そのため日本には数多くのトンネルが存在する。国土交通省がまとめた「道路統計年報2020」によると、日本では10,912本ものトンネル(道路用)が掘られているのだ。


これらのトンネルは、どうやってつくられているのか? 代表的な工法は、以下の4つだ。


①山岳工法
トンネルを横方向に掘りながら、鉄の枠や吹きつけコンクリートで地山を支え、最後にふつうのコンクリートでかためてトンネルをつくる方法。山の下をくぐるトンネルのほとんどが、この方法を使っている。


②シールド工法
鉄でつくったシールドと呼ばれる筒を横方向に置き、内側でトンネルを掘りながらそのあとにセグメントと呼ばれるパネルをはめこみ、トンネルをつくる方法。平地や水の底などのやわらかい地山を掘るときに使われる。


③開削(かいさく)工法
最初に地面を掘り返してからトンネルをつくり、もう一度土で埋めもどす方法。都会の地下街や、地下鉄をつくるときによく使われるが、もっと深い所を掘る場合にはシールド工法が使われる。


④沈埋(ちんまい)工法
最初に鉄やコンクリートでできたトンネルをつくって船で運び、海や川の底に沈めてつなぎ合わせながらトンネルをつくる方法。


※①~④:公益社団法人土木学会作成『「ものしり博士のドボク教室」トンネルのはなし』から一部抜粋・引用




現在は3本の山岳トンネル工事で稼働中

今回紹介する切羽アタリガイダンスシステム「T-アタリパーフェクター」は、山岳トンネル工事で威力を発揮するシステムだ。


山岳トンネル工事で硬い岩盤を掘り進める際は、爆薬を使用するのが一般的である。岩盤に機械で小さな穴をたくさん開け、爆薬を詰めて爆発させ、岩を粉々にするのだ。この発破作業後に重機で岩盤を掘削するのだが、トンネル設計断面に対して岩盤が出っ張る"アタリ"や、掘り過ぎによる"余掘り"といった凹凸がどうしても発生してしまう。


従来、アタリを除去する場合は、作業員が切羽近傍で目視により確認を行い、レーザーポインターで除去する箇所を重機のオペレーターに指示していたため、切羽崩落などが生じた場合に作業の安全性が損なわれる心配があった。また、アタリや余掘りの状況確認は作業員と重機オペレーターの経験や技量に頼るところが大きく、アタリの除去不足による追加作業や、過大な余掘りに伴うコンクリート吹付量増大によるコストの増加などが課題だったのである。


重機の先端に付けられた油圧ブレーカーでアタリの除去作業を行う重機の先端に付けられた油圧ブレーカーでアタリの除去作業を行う


(左)重機本体やアーム、油圧ブレーカーには傾斜計を装着。(右)重機に取り付けた2つのプリズムを、2台のトータルステーションで追尾測距することで精度を高めている(左)重機本体やアーム、油圧ブレーカーには傾斜計を装着。(右)重機に取り付けた2つのプリズムを、2台のトータルステーションで追尾測距することで精度を高めている


切羽近傍に立ち入らず、安全性と作業効率の向上を実現するために、アクティオと大成建設株式会社、株式会社演算工房の3社が共同で開発したのが、T-アタリパーフェクターだ。このシステムは、山岳トンネル工事の最先端箇所で行う切羽作業を、マシンガイダンス(MG)化したものである。詳しい仕組みを、アクティオ 技術部 技術推進課の菅原伸生主査に聞いた。


菅原「開発を始めたのは5~6年前になります。重機に取り付けたプリズムを、トータルステーション(TS)で追尾測距することで、機械の位置・方向をリアルタイムに把握。また重機本体、アーム部及びアタリを除去する油圧ブレーカーに取り付けている傾斜計情報と合わせることで、油圧ブレーカーのノミ先位置を正確に算出します。当初、TSは1台の使用でしたが、切羽精度を上げるため、3年ほど前に仕様変更を行って2台に増やしました。TSが1台だと、重機の傾きなどを計算しきれなかったんですね。TSが2台の現状の仕様では、ノミ先の誤差が±5cmになり、十分に許容できる範囲になりました」


T-アタリパーフェクターの開発を担当したアクティオ 技術部 技術推進課の菅原伸生主査T-アタリパーフェクターの開発を担当したアクティオ 技術部 技術推進課の菅原伸生主査


T-アタリパーフェクターは、例えるならカーナビのようなもの。現在地と目的地(設計データ)の距離をオペレーターに知らせるのが主な役目で、それを頼りにオペレーターが重機を操作するわけだ。

ガイダンスのイメージガイダンスのイメージ

「余掘り」「あたり」「進行不足」について 例えば
「余掘り12cm」「進行不足0cm」は余掘り継続
「余掘り0cm」「進行不足0cm」で掘削完了
「あたり8cm」は掘り過ぎのため注意


菅原「オペレーターは設計データとの差分をモニター画面で確認しながら、岩盤の出っ張り部分、つまりアタリを油圧ブレーカーで削っていきます。大成建設の担当者に話をうかがうと、T-アタリパーフェクター導入後は追加のアタリ除去作業が不要になり、削り過ぎとなる余掘りも約15%低減できたそうです」


T-アタリパーフェクターの開発は、ベースとなるMG技術があったため、すんなり進んだのだろうか?


菅原「トンネル工事現場では、掘削時に少量の岩盤がはがれ、建設機械上に落ちてくる場合があります。だから、ポールが折れたり、配線が切れたりします。作業を止めずに進めるためには、あらゆる部分の耐久性を上げておく必要があります。トンネルの先端にはセグメントや資材を運搬する台車が通るくらいのスペースしかないため、おいそれと機械の交換はできません。測位の精度だけではなく、機械そのものの耐久性をアップさせることも課題になりました」


T-アタリパーフェクターは昨年、正式発表され、現在は3本の山岳トンネル工事で使用されている。掘削作業の省力化と安全性向上が見込めるT-アタリパーフェクターのさらなる使用拡大を、大いに期待したい。


※記事の情報は2022年12月13日時点のものです。



〈ご参考までに...〉

トータルステーション(アクティオ公式サイト)

Pipe Shot(推進・シールド自動測量システム)(アクティオ公式サイト)

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