2022.09.28

木材の流通をマーケットインの発想に変えること【建設業の未来インタビュー⑧ 後編/序章】 建築物の木造化・木質化が進み、木質バイオマスにも注目が集まる中、国産材をもっと有効利用できる環境整備が求められています。前編では国産材の供給者側と利用者側との間の木材ロスの問題などをうかがいました。後編ではサプライチェーン(供給網)のあり方や林業側に求められることなどをうかがいます。データ連携や林業機械のICT化が求められているようです。

ゲスト:塩地博文(ウッドステーション株式会社代表取締役会長)
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)

〈前編/序章〉はこちら

木材の流通をマーケットインの発想に変えること【建設業の未来インタビュー⑧ 後編/序章】

身近な山を倉庫として利用する「仮想木材構想」

――木材を利用する建築側が用意する部材データを塩地さんは「仮想木材」と呼び、「仮想木材構想」というサプライチェーン(供給網)のあり方を提唱しています。これはどのような構想なのですか。


塩地 一言で言えば、身近な地域の山を木材の倉庫として利用しよう、というものです。建築の場合、計画が固まってから現場で木材を必要とするまでには、およそ2カ月の余裕があります。建築確認を申請し、確認を受けてから基礎を打設したりするためです。


この間に、建築物で必要とする部材データを山側に届ければ、山側ではそのデータを基にムダを生じさせない伐採が行えます。製材やプレカット工場も、同様の対応が可能です。データ連携のない時代と違って、木材の流通をマーケットインの発想に変えるわけです。


塩地博文氏


日本の山は海外の山と違って、資源としての規模が小さい。その小さな規模の資源の状態を完全に捕捉し、建築側から求められているデータに対応する形で、伐採、乾燥、製材、プレカットし、ムダをなくしていくのです。この時、山そのものが倉庫になります。注文に応じて伐採しますから、在庫は要らなくなるのです。


これは山としても健全なあり方です。ぎりぎりの時期まで伐採されませんから、それまで二酸化炭素の固定や保水という機能を果たしてくれます。山を倉庫代わりにできるというのは、林業ならではのメリットです。倉庫に置いておくだけで成長してくれるわけですから、この構想はまさに理想的ではないか、と膝を打ちました。


これまでは、戸建て住宅で1万棟、10万棟という規模に対応した供給スキームを考えてきました。その結果、どうしてもプロダクトアウトの発想に立たざるを得なかった。しかし、その規模をもっと小さなものとして捉え直せば、供給スキームは全く違ったものになり得るということです。


塩地博文氏




消費地近くで生産できる「場所メリット」

――「仮想木材構想」での市場規模はおおむねどの程度を想定しているものですか。


塩地 一つの単位として半径50㎞圏を想定しています。戸建て住宅需要で言うと年間100~200戸の規模を、その地域の山からの資源で賄い、再造林を重ねていく、というイメージです。大型パネル工場は、その地域に一つ。全体で1,000工場ほどあれば、日本全国をカバーできるのではないか、とみています。


ポイントは、生産と消費の場所が近いことです。国産材の良さは、消費地近くで生産可能という点です。これを私は「場所メリット」と呼んでいます。国産材には確かに、輸入材に比べると強度や含水率に難があるかもしれません。しかし、それを上回るメリットがある。それが、山を倉庫代わりに利用できるという「場所メリット」です。


――塩地さんが理想と考えるその「仮想木材構想」を実現に移そうとするとき、課題はどこにありそうですか。


塩地 林業機械ですね。林業の現場も建設現場と同様、人手不足に見舞われています。それだけに林業機械が求められるわけですが、必要性は人手の代わりだけではありません。作業しながらデータを収集するという役割も求められます。建築側とのデータ連携を考えると、そうした林業機械のICT化は、ますます求められます。


塩地博文氏


例えば伐倒から集積まで一貫して行う「ハーベスタ」という林業機械があります。この機械で木材をつかんだ時に強度が分かれば、すぐに建築側からの部材データとマッチング可能です。どの部材として利用するのが最適か、判断できるわけです。欧州ではハーベスタのICT化が進んでいます。データ連携を含む活用がすでに始まっています。その機械は日本のメーカー製ですから、日本で導入することも決して難しくないはずです。



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※記事の情報は2022年9月28日時点のものです。

【PROFILE】
塩地博文(しおち・ひろふみ)
塩地博文(しおち・ひろふみ)
ウッドステーション株式会社 代表取締役会長
2018年4月、三菱商事建材 開発事業部長を経て、木造大型パネル事業を展開するウッドステーション株式会社を起業する。大型パネルの開発者。環境建築素材「MOISS(モイス)」や国産材サプライチェーンの開発も行う。2003年、グッドデザイン賞、2005年、日経BP技術賞建設部門賞を受賞。
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。「日経クロステック」、「日経コンストラクション」などを中心に、都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。



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