2022.06.01

海外各国の建設業界との比較で見えてきたこと【建設業の未来インタビュー⑥ 後編/序章】 今回ご登場いただいたのは土木学会前会長で政策研究大学院大学(GRIPS)の家田仁特別教授。前編では、要素技術の強さに磨きを掛けてきた歴史と2000年以降の地盤沈下から再興を果たす必要性など日本の建設業の本質を語っていただいた。後編では、そうした本質を見誤ることなく、業界はビジネスとしてどのような展開を図っていくことが求められるのか――。家田特別教授は海外企業との比較も踏まえながら、設計・施工という中核業務の前工程や後工程にまで乗り出していく必要性を説く。

ゲスト:家田 仁(政策研究大学院大学特別教授)
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)

〈前編/序章〉はこちら

海外各国の建設業界との比較で見えてきたこと【建設業の未来インタビュー⑥ 後編/序章】

PCaで生産性を上げる海外に学ぼう

――建設業の強さからお聞きした前編とは裏腹に、後編では建設業の課題からお聞きしていきたいと思います。ここで取り上げたいのは、海外展開です。家田さんは積極的に進めていくべきというお考えですが、いっぽうで、思うように進んでいないというご認識です。うまくいかないのはなぜなのか。課題をどのようにご覧になっていますか。


家田 このテーマは土木学会でも幾度となく取り上げ、どこに課題があるのか、探ってきたものです。そこで明らかになった課題は多々あります。
何よりまず、内向きという点です。海外で仕事にあたるときには、相手国の契約ルールや技術基準に従う必要があります。ところが、日本の建設会社は日本独自のルールや基準に従ってビジネスを展開しています。海外向けと国内向けを使い分けているのです。

家田仁さん(政策研究大学院大学特別教授)


それを今後、変えていく必要があると思います。日本の市場は相対的に小さくなっていくのですから、海外のルールや基準を基調にすべきです。海外の市場で海外のルールや基準に従うという意識に立つのではなく、国内のルールや基準を国際標準に見直していく必要があるということです。言葉を換えれば、「内なる国際化」です。




4カ国の建設現場を生産性、安全性の面から比較調査

――海外の建設会社との比較でみると、どのような課題がありますか。


家田 政策研究大学院大学に学びに来ていたスーパーゼネコンの社員が取り組んだ研究に、建設現場の生産性や安全性を海外との比較で調べたものがあります。研究に取り組む当初は、日本は安全性で優れているだろうから、独り勝ちではないか、と予想していましたが、調べていくうちに決してそうではないことが見えてきました。


文献調査の対象は、日本、米国、英国、シンガポールの4カ国です。これらの国々で約20年分のデータを調べていくと、日本と米国は安全性を高めてきたものの生産性はほとんど向上していないことが分かりました。これに対して英国とシンガポールは、安全性とともに生産性もしっかり高めてきていたのです。もう、はっきり違う。

左:茂木俊輔さん(ジャーナリスト)、右:家田仁さん(政策研究大学院大学特別教授)


何が違うのか――。その学生がシンガポールの建設会社が施工する建設現場を訪ね、実地で調べたところ、プレキャストコンクリート(PCa)*の使用割合が非常に高いことが分かりました。現場でコンクリートを打設することはほとんどないのです。PCaはもちろん日本の現場でも利用しますが、その程度が大きく異なります。


シンガポールで安全性も高いのは、安全管理を徹底しているからです。事故を起こさないようにするために作業員のトレーニングに力を入れ、万が一、問題が生じた場合には作業員に重いペナルティーを課す。そうした安全管理が効果を上げているようです。さらにもう1つ、韓国のサムスン物産との比較でも課題が見えてきました。* プレキャストコンクリート(PCa):現場で組み立て・設置を行うために、工場などであらかじめ製造されたコンクリート製品のこと。あるいは、それを用いた工法を指す。


――建設部門と商社部門を持つサムスングループの会社ですね。


家田 そうです。2000年代半ばにドバイに出張する機会があり、当時建設中だった超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」の現場を案内してもらったことがあります。サムスン物産は、その建設工事に共同企業体の一員として参加していました。地上163階建てのビルを建設する能力があることに、まず驚きました。そこで興味を持って調べていくと、商社部門も抱えていると。建設部門と商社部門の組み合わせは、参考になります。

家田仁さん(政策研究大学院大学特別教授)


というのも、日本の建設会社は請負業から脱却し、商社のようにビジネスを仕掛けることにも挑戦すべきではないか、と考えているからです。そこに課題がある。シンクタンク的な発想でまちの将来に夢を描くような、クリエイティブな仕事に取り組むべきです。


これを設計・施工の前工程、川上側の仕事とすれば、もう一方の後工程、川下側の仕事も重要です。つまり、構造物の管理・運営を担うメンテナンスやマネジメントの仕事ですね。この領域にももっと展開していっていい。



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※記事の情報は2022年6月1日時点のものです。

【PROFILE】
家田 仁(いえだ・ひとし)
家田 仁(いえだ・ひとし)
社会基盤工学者、政策研究大学院大学特別教授。1955年東京生まれ。2020年度土木学会会長(第108代会長)を務める。研究分野は交通・都市・国土に関わる諸計画と諸政策。昨今は東アジア圏の経済発展と国際交通政策や鉄道駅を中心にした都市の拠点開発、実践型の高度道路交通システム戦略なども研究課題としている。所属学会は土木学会、日本都市計画学会、日本交通学会、世界交通学会、アジア交通学会。著書に「都市再生―交通学からの解答」(家田仁、岡並木、国際交通安全学会・都市と交通研究グループ著、学芸出版社、2002年)、「東京のインフラストラクチャ――巨大都市を支える」(中村英夫、家田仁編著、東京大学社会基盤学教室著、技報堂出版、2004年)など。
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。「日経クロステック」、「日経コンストラクション」などを中心に、都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。



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