2022.05.26

要素技術にこそ日本の建設業の強み。もっとわくわくできる仕事にしよう【建設業の未来インタビュー⑥ 前編/序章】 世界の中で日本の地盤沈下が著しい。高度経済成長期を経て、1980年代にはベストセラーのビジネス書のタイトルにあるように「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで称えられたが、その後は世界の各分野での競争の中で取り残されている。そうした中、「日本の存在感への危機」「日本の技術やシステムの先進性への危機」「日本の勤労者のモチベーションの危機」という3つの危機を訴えるのが、土木学会の前会長で政策研究大学院大学(GRIPS)特別教授の家田仁氏。憂うべき現状にどう立ち向かい、ピンチをチャンスに変えていけばいいのか――。建設業の視点から将来への処方箋をうかがう。

ゲスト:家田 仁(政策研究大学院大学特別教授)
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)

要素技術にこそ日本の建設業の強み。もっとわくわくできる仕事にしよう【建設業の未来インタビュー⑥ 前編/序章】

建設業に未知の領域はもうないのか

――家田さんは土木学会の会長時代、学会誌で「日本インフラの『強み』と『オリジナリティ』はどこに?」という長期の連載企画をスタートさせました。その「強み」の象徴としてどのような要素技術やシステムを思い浮かべられますか。


家田 いの一番で取り上げたのは、新幹線です。建設技術だけでなく、車両・運行技術なども含め、総合的なシステムとして日本のセールスポイントのひとつであることは間違いない。ただ、候補として挙げたものを総じてみると、どちらかと言えば、システムよりも要素技術のほうに強みがありそうです。これらの中には、日本独自のコンセプトではないものの、要素技術として素晴らしいものに仕立て上げられたものもあります。

左:茂木俊輔さん(ジャーナリスト)、右:家田仁さん(政策研究大学院大学特別教授)


――そうした要素技術には例えば、どのようなものがありますか。


家田 典型例は、シールドトンネルです。オリジナルは、19世紀のロンドンでテムズ川の下を潜り抜けるトンネルとして、ブルネルという技師が発明したものです。日本はその技術を取り込み、トンネルをより安全に、より合理的に掘り進めることができるように、必要な改良をどんどん重ねてきました。決して完璧な技術ではなく、まだまだ改良を重ねることが求められますが、要素技術の強みの典型例と言えます。




短工期・低コストのプレッシャーが工夫につながった

――こうした要素技術の強みは、どのように形成されてきたのですか。


家田 日本古来の技を基にオリジナルの要素技術を生み出したり、海外から伝わった要素技術を独自の優れたものに発展させたりしてきたのは、やはり高度経済成長期ではないでしょうか。この時期は工事量が非常に多かった。


いっぽうで、日本はまだ豊かな国ではなかったため、工期やコストの制約が大きかった。短工期・低コストという大きなプレッシャーの中、技術に磨きを掛けざるを得なかったという側面があると思います。

家田仁さん(政策研究大学院大学特別教授)


ところが1980年代になると、国全体が豊かになっていきます。すると途端に、制約条件を乗り越えるための工夫力が落ちてくる。同時に、世界の中で日本の存在感が次第に薄れていきます。


1人当たりGDP(国内総生産)の国際比較では世界2位をピークに、2020年には同24位にまで落ち込み、海外の調査会社が実施した勤労者の「やる気」に関する国際比較では139カ国中132 位という結果でした。また新型コロナウイルス禍では、日本のデジタル化が世界の中で非常に遅れていることが浮き彫りになりました。


――家田さんの訴える「日本に内在する深刻な危機」ですね。


家田 そうです。日本はもはや世界の頂点に立っているわけではない。もっと頑張らないといけない。そういう意識を取り戻してほしいと思います。ただ、ピンチはチャンスです。人口は減るけれど、1人当たりGDPでトップ10に入るくらいの意気込みと工夫力に富んだ技術で生産性を高めていこうという機運が生まれることを期待しています。さまざまな分野で若い人の活躍を見ていると、そのクリエイティビティーの高さを建設業界にも取り込むべきだ、と強く思います。



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※記事の情報は2022年5月26日時点のものです。

【PROFILE】
家田 仁(いえだ・ひとし)
家田 仁(いえだ・ひとし)
社会基盤工学者、政策研究大学院大学特別教授。1955年東京生まれ。2020年度土木学会会長(第108代会長)を務める。研究分野は交通・都市・国土に関わる諸計画と諸政策。昨今は東アジア圏の経済発展と国際交通政策や鉄道駅を中心にした都市の拠点開発、実践型の高度道路交通システム戦略なども研究課題としている。所属学会は土木学会、日本都市計画学会、日本交通学会、世界交通学会、アジア交通学会。著書に「都市再生―交通学からの解答」(家田仁、岡並木、国際交通安全学会・都市と交通研究グループ著、学芸出版社、2002年)、「東京のインフラストラクチャ――巨大都市を支える」(中村英夫、家田仁編著、東京大学社会基盤学教室著、技報堂出版、2004年)など。
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。「日経クロステック」、「日経コンストラクション」などを中心に、都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。

〈後編/序章〉へ続く



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