2023.06.23

世界の道をつくる、ワールド開発工業 アクティオのグループ企業には建設会社もある。道路工事を専門に手がけるワールド開発工業株式会社は、道路業界における高い知名度と国内外での豊富な実績を誇る建設会社だ。長野市の本社を訪ね、現地でその強みを掘り下げた。

世界の道をつくる、ワールド開発工業

道路工事に携わって半世紀

カラーテレビが普及し始めた1970年、地方都市の長野市で世界を見据えた会社が産声を上げた。その名もワールド開発工業株式会社。「ワールド」を冠する社名から、当時の並々ならぬ意気込みがうかがえる。


たった数名で地場の道路づくりからスタートしたワールド開発工業は、道路工事のプロフェッショナル集団として、ほどなく全国へと事業を拡大。社名に込めた志を実現する形で海外の道路づくりにも打って出る。半世紀という時を経て従業員数300名規模の企業に成長した。


縁あってアクティオグループとなった、ワールド開発工業株式会社の高野博勝代表取締役社長に、同社の強みなどを聞いた。


ワールド開発工業株式会社の高野博勝代表取締役社長ワールド開発工業株式会社の高野博勝代表取締役社長



そもそも、どのような経緯で設立された会社なのだろうか。


高野「先代の西澤彊(現取締役会長)は大学卒業後、紆余曲折を経て親戚の建設会社に就職したそうです。ところが、入社後1年も経たないうちに倒産してしまい、大学時代の友人を含む数名の仲間と1970年にこのワールド開発工業を起業しました。当初から道路工事がメインの会社でした」


「日本列島改造論」を掲げ第一次田中内閣が誕生したのが1972年7月。道路事業の全国的な拡大に先んじた先代社長は、なかなかの嗅覚の持ち主だ。


高野「そうですね。私がこの会社の代表取締役社長に就任した2021年9月には、しっかりとした地盤ができ上がっていました。国内の主要拠点は長野、名古屋、神奈川、群馬、仙台の5カ所で、長野には本社、機材部、技術部、本社営業部、長野営業所などがあります。国内での事業は、高速道路、国道・県道・市道の切削や舗装工事がメインです」


社名にも思いが込められている海外事業についても、積極的に進めてきた。


高野「現在、ベトナム、タイ、ミャンマー、スリランカに現地法人があります。道路工事の現場は現在、ソロモン諸島、ブルンジ、ガーナ、カンボジア、スリランカで施工中で、今後はアフリカ中心に決まっていく予定です」


こうした海外の案件は、どのようにして受注に至るのだろうか。


高野「ODA(政府開発援助)が中心ですね。弊社が元請けの場合もありますし、ゼネコンさんと弊社とのJV(ジョイント・ベンチャー=共同企業体)とか、ゼネコンさんの下請けになることもあります。基本的にはコンサルティング会社が間に入り、そこと協力しながら進めていくことが多いです」


海外の案件が決まった場合、スタッフや機械はどうするのだろうか。


高野「日本から現地に社員を3〜4名派遣します。それ以外のスタッフは、ベトナム人を起用することが多いですね。弊社はベトナムで長く事業をしていますので、現地にたくさんのオペレータや熟練工を抱えています。そうしたベテランのベトナム人を含めたスタッフを、第三国に派遣するわけです。機械も海外の複数の拠点に置いているので、基本的にはそれを使用しますが、必要に応じて日本で整備した機械を海上輸送したり、海外で購入したりすることもあります」


長野市にあるワールド開発工業の本社。近くには機材部や技術部、長野営業所などもある長野市にあるワールド開発工業の本社。近くには機材部や技術部、本社営業部、長野営業所などもある




海外事業、機械の自社保有、総合力が強み

アスファルト舗装は、下部から①路床 ②下層路盤 ③上層路盤 ④基層 ⑤表層でできている。この中で下層路盤より上部を舗装という。また路床は舗装の下約1mの部分、下層路盤・上層路盤は路床上に構築され、路面の交通荷重を十分に分散して路床に伝える役目がある。基層も交通荷重を均一に分散させ、表層の平坦性を向上させる役目があり、表層は最上部にあり直接交通荷重に接するため走行安全性や雨水の浸透を防ぐなど重要な役目を負っている。ワールド開発工業は、道路工事のどの部分を請け負うのだろうか。


高野「それはケースバイケースですね。新設工事なのか、維持・修繕工事なのか、国内なのか、海外なのかによっても異なります。もちろん、どの段階からの工事も対応可能です」


どの段階からも柔軟に対応できるとのことだが、道路工事におけるワールド開発工業の強みとは何だろうか。


高野「それは3つあります。ひとつは海外での受注実績ですね。アジア、アフリカを中心に、世界20カ国以上で施工実績があります。加えて海外案件を管理できるプロジェクトマネージャーや技術者も在籍しているため、今後もODAを中心に受注していきます。2つ目は保有する機材量です。道路工事に関する大型の建設機械を400台以上保有しているので、他社との差別化が図れています。コスト競争力にも優れ、臨機応変な対応が可能です。中でもドイツ・ヴィルトゲン社の大型道路機械に関しては、日本一の保有数を誇っています。3つ目は総合力。ICTを含む施工だけでなく、工事測量、配合設計、品質試験、道路機械整備、回送に至るまで、すべて自社で行うことができます」




機械運用を担当する機材部

ワールド開発工業で、機械の購入償却も含めた管理、整備といった機械運用を行っているのが、機材部の石澤睦維部長だ。機材部は、同社の強みを支える重要な役割を担っている。


ワールド開発工業株式会社 機材部の石澤睦維部長ワールド開発工業株式会社 機材部。左から中牧副工場長、石澤部長、山崎工場長



石澤「現在、弊社には大型の建設機械が400台以上、小型の機械まで含めると約2,000台あります。ざっくり言うと国内に600台、残りが海外ですね。代表的な機械を挙げると、傷んだアスファルトの表面を削り取る路面切削機、アスファルト混合物を敷くアスファルトフィニッシャ、それを締め固めるローラ、地盤改良を行うスタビライザ、コンクリートを敷くスリップフォームペーパ、現場で道路をリサクル・リビルドするフォームドリサイクラ、岩盤に溝を掘るトレンチャーなどがあります」


機材部のヤードに鎮座する機械たち。これでも保有している機械のごく一部だ機材部のヤードに鎮座する機械たち。これでも保有している機械のごく一部だ



種類豊富な機械の整備はどこで行っているのだろうか。


石澤「まず国内に関しては、日常的に使用する機械の点検は、機械を操作するオペレータが行います。点検・清掃・注油といった一般的な点検で、何か異常があれば整備士に報告する様になっています。こういった点検を日常的に行うことで、かなりのトラブルを未然に防げます」


機材部では、昨年からオペレータ教育に力を入れており、営業所を回って講習を行っているという。それでは、オペレータでは手に負えない整備や海外にある機械の整備はどうするのだろうか。


石澤「長野の機材部に回送して整備を行う場合もありますが、各営業所にも整備士がいてそちらで整備することが多いですね。しかし営業所の整備士は人数が限られており、現場対応や日常的な仕事で手一杯になりがちで、外注に出すことも多いです。そこで今年から機材部より整備士を各営業所に派遣し、内製化するように進めています。海外の機械の整備は基本的に現地で行いますが、場合によっては、日本の整備士が整備のために出張することもあります」


機材部のピットでは、主に重整備が行われている機材部のピットでは、主に重整備が行われている




アスファルト材料の研究開発などを行う技術部

アスファルト材料の研究開発は、ゼネコン等の大手企業が行うのは一般的だが、実際に道路工事を行う施工会社が、研究開発を自ら行うことは稀だ。ところが、ワールド開発工業には技術部があり、アスファルト材料の研究開発を行っている。技術部の藤永知弘部長に話を聞いた。


技術部の皆さん。中央が藤永知弘部長技術部の皆さん。中央が藤永知弘部長



藤永「技術部では舗装に関する配合試験、素材系の研究開発を行っています。我々が使う一般的なアスファルト混合物は、アスファルト、粗骨材、細骨材、石粉(フィラー)を混ぜ合わせたものです。アスファルト混合物には数タイプあり、通常はアスファルト・プラントから購入したアスファルト混合物を道路工事に使用します。アスファルト混合物には、ポリマーを配合したポリマー改質アスファルト混合物もあります。これは耐流動性、耐摩耗性、耐剥離性などを向上させる目的でつくられています」


一般的に、アスファルト混合物の寿命はどれくらいだろうか。


藤永「だいたい10年です。コンクリート舗装は20年持ちますが、養生に時間がかかるため、一般的な道路修繕工事には向きませんし、施工コストもアスファルト舗装よりも高くなります。道路業界で一番重要なテーマは国土強靭化、長寿命化、生産性向上です。その要求に応えられる超高品質アスファルトも存在しますが、かなり高額なので、そうそう使えません。ですから、耐久性とコストのバランスに優れたアスファルト混合物が求められています」


技術部では素材の研究、ポリマーを配合して轍掘れしにくくなるアスファルト混合物のシミュレーション、路盤再生路盤工法で使用する砕石の研究など、様々な研究開発を行っている技術部では素材の研究、ポリマーを配合して轍(わだち)掘れしにくくなるアスファルト混合物のシミュレーション、路上路盤再生工法で使用する材料など、さまざまな研究開発を行っている


道路工事の施工会社であるワールド開発工業が、なぜそのような研究開発まで行っているのだろうか。


藤永「道路工事の専門業者として、特殊工法の技術サポートが必要です。また海外工事においては砕石からアスファルト混合物の製造まで自社で一貫して行います。現地任せにはせず品質の良い材料を製造することを大切にしています。これらの技術力やノウハウを有する技術部の役割が重要になります。常に新しい技術の獲得と、課題解決のために研究開発を行っています」


藤永部長をはじめ技術部のスタッフは、材料研究だけではなく、ICT施工技術の研究開発等も行っているのだ。


藤永部長は、大学の先輩から「ワールドに技術部を作るからぜひ来てほしい」と誘われて入社したとのこと。現在、博士号を取得するため日夜研究中藤永部長は、大学の先輩から「ワールドに技術部をつくるからぜひ来てほしい」と誘われて入社したとのこと。現在、海外工事で得た知見を国内にもフィードバックした研究を行っている




若手社員も大いに活躍

国土交通省の資料によると、令和3年度の建設業就業者は55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と高齢化が進行している。ちなみに、全産業ではそれぞれ31.2%、16.6%となる。ワールド開発工業でも50代の社員がもっとも多く、次いで40代、60代と続く。


そんな中、貴重な若手社員として経験を積んでいるのが、本社営業部工事課の坂口七味さんだ。信州大学人文学部を卒業した坂口さんは、なぜ建設業のワールド開発工業を就職先に選んだのだろうか。


本社営業部工事課の坂口七味さん本社営業部工事課の坂口七味さん



坂口「地元で働きたいという思いもあり、最初は地方公務員とか金融関係を考えていたのですが、実は幼い頃から重機が好きでした。大学3年生の時に大型特殊免許も取得したので、地域のインフラを支える道路関係にも少し視野を広げてみたんです。道路は毎日使うもの、必ず補修が必要なものです。この安定した業界で、手に職をつけて技術者として仕事したい! という思いが強くなりました。就職説明会に参加して、ドイツ製の大きな重機を見たとき"これだ!"と直感しました」


そうは言っても、人文学部出身の坂口さんが、いきなり技術者になるのは難しかったのではないだろうか。


坂口「いきなり技術職では採用してもらえないと思ったので、まずは営業志望で潜り込みました(笑)。営業の仕事をしながら、上司に現場の仕事に興味があると伝えつつ、2級土木施工管理技士の資格も取得しました」

その甲斐あって、坂口さんは入社2年目に工事課へと異動。現在の仕事内容について聞いた。


坂口「一般的なイメージですと現場監督、正式には施工管理ですね。工事の原価・工程・品質・安全・出来形を管理するのが仕事です。工事では発注者が提示している管理の基準が厳格に決まっています。例えば道路を切削する際、マイナス何ミリ以上はダメとかいう具合です。工事中、必要に応じて測量や計測を行い、きちんと基準値内に収まっているか確認します」


施工管理担当の坂口さんは、工事の品質・出来高・安全を管理するのが仕事だ施工管理担当の坂口さんは、工事の原価・工程・品質・安全・出来形を管理するのが仕事だ



道路工事は夜間に行われることも多いので、体力的につらい面もあるのではないだろうか。


坂口「きちんとシフトを組んでもらえるので、そんなことはありません。むしろ日焼けを気にしないで済むので、夜間工事の方が好きかもしれません(笑)」


最後に、仕事を進める上での難しさややり甲斐について聞くと、こんな答えが返ってきた。


坂口「まだまだ難しいことばかりですが、先輩に相談しつつ自分でも考えながら、一歩一歩進めています。特に図面と現場に差異が生じた場合、臨機応変に対応しなければならないのですが、その力が私にはまだ育っていないので、日々勉強です。工事が完了して、その道路が使われているのを見た時は、自分の仕事が世の中のためになっている! とジーンときます」


取材にうかがった現場は、切削から舗装までを即日仕上げる切削オーバーレイ工法で工事が行われていた取材にうかがった現場は、切削から舗装までを即日仕上げる切削オーバーレイ工法で工事が行われていた



日本のみならず世界の道をつくり、道路インフラを支える企業として成長を遂げているワールド開発工業。海外での受注実績、保有建設機械の充実、総合力を武器に、今後ますますの発展を期待したい。


▼ワールド開発工業株式会社
https://www.wkk.co.jp/


※記事の情報は2023年6月23日時点のものです。

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