オリジナル・共同開発商品
2022.02.08
3社の思いが詰まった建設現場用施行ロボット アクティオとJFEエンジニアリング、岡谷鋼機の3社は、プラント建設工事現場で活躍する施行ロボット3機種を共同で開発し、2021年11月に発表した。このニュースは大きな話題を呼んだが、改めて3機種の特徴、共同開発に至った経緯、さらに開発秘話などをお伝えしたい。
プラント工事の効率化、省力化に貢献
2021年11月18日、多くの報道関係者が見守る中、建設現場用施行ロボット3機種がお披露目された。会場にはアクティオの小沼直人代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)をはじめとして、JFEエンジニアリングの四方淳夫代表取締役副社長、岡谷鋼機の坂田光徳常務取締役も駆けつけ、3社の力の入れようをうかがい知ることができた。
清掃工場などのプラント建設現場では、狭小空間での配管、機器の据付工程が多数に上り、事前準備も含め作業に多大な時間と人員を要するのが現状だ。また、災害発生リスクの伴う危険な作業が多く、専門技術や熟練技術も必要になるため、作業員の確保も課題である。これらを解決するためにアクティオ、JFEエンジニアリング、岡谷鋼機の3社共同で開発されたのが、ECoCa(エコカ)、Carryf(キャリフ)、Dexhand(デクスハンド)である。
自由に移動、サイズも自動伸縮する搬送ロボット「ECoCa(エコカ)」
搬送ロボット「エコカ」は、いわば自由に移動できる橋形クレーン。運搬する機器のサイズや現場の通路状況に合わせて、XYZの3方向に伸縮する機能を持っている。X軸(横)は1.8~2.4mか1.4~1.8mを選択可能で、Y軸(奥行き)は3.0~3.7m、Z軸(高さ)は2.0~3.2mの範囲内となり、運搬可能重量は3tだ。走行モードは四輪操舵、横行、その場旋回の3種類となる。
段差を越えられる搬送ロボット「Carryf(キャリフ)」
「キャリフ」は、段差のある狭小空間で重量のある資機材を搬送可能なロボットである。最大で200mmの段差を乗り越えられ、運搬可能重量は5t、走行モードは四輪操舵、横行、その場旋回の3種類となる。その挙動は走っているというよりも、滑っている感じだ。この不思議な動きを作り出しているのがメカナムホイールである。車輪円周上に「バレル」が45度の角度で取り付けられており、各輪のモーターを制御することで前進・後進・右平行移動・左平行移動・右回転・左回転・右斜め前進・左斜め前進といったプロダンサー顔負けのすり足を可能にしているのだ。
狭小な場所での揚重作業が可能な「Dexhand(デクスハンド)」
「デクスハンド」は、起重機が入らない狭小な場所での揚重作業を可能とするロボットである。直径300~500mmの配管をつかむことが可能で、先端部は横が±35度、縦が上30度・下90度、回転は360度OKだ。パイプをつかむ「手」の部分に炭素強化プラスチックを採用して、大幅な軽量化に成功している。
3社のキーパーソンが語る開発秘話
アクティオ、JFEエンジニアリング、岡谷鋼機の3社は、何がきっかけでエコカ、キャリフ、デクスハンドの3機種を共同で開発することになったのか? その過程において、越えなければならない壁はあったのか? 3社のキーパーソンにお集まりいただき、お話をうかがった。
──まずは3社共同で建設現場用施工ロボットを開発するに至った経緯、また各社の役割分担を教えてください。
永美様(JFEエンジニアリング):2017年4月、弊社にプラント建設本部が発足しました。それまでは各部署が個々に施行していたのですが、プラント建設本部に一本化することにしたのです。そこで課題の洗い出しを行い、出てきたひとつが施行ロボットです。施行ロボットを開発するにあたり、まずは以前から取り引きのあった岡谷鋼機さんに相談しました。そこで紹介していただいたのがアクティオさんです。私は現場経験があるため、レンタル会社としてのアクティオは存じ上げていましたが、開発部門があることは知りませんでした。
──なるほど、それでアクティオが開発を担当することになったのですね。
細谷様(JFEエンジニアリング):弊社は「こんなことを実現したい」といったアイデアを出し、それをアクティオさんに具現化していただきました。
澤田様(岡谷鋼機):弊社は、施行ロボットの開発を素材面でサポートしました。軽量化という課題に対して、さまざまな面からアプローチしてクリアしていきました。
──皆さま、ありがとうございます。この3社での共同開発が初めてだったにもかかわらず、いきなり3機種を同時進行で......という判断を下した大きな要因は何だったのでしょうか?
永美様(JFEエンジニアリング):弊社としては新しい部署ができて、「新しいことにチャレンジしたい」という新しい本部長の意欲が旺盛だったことが一番ですね。プラント建設本部が発足する前、それぞれの部署で施工ロボットの開発を進めていましたが、頓挫していました。それが今回はだんだんとカタチが見えてきて、実行部隊としてもやる気が倍増したんですね。組織がひとつにまとまったことによって生まれた推進力、完成させなければならないという責任感が後押ししました。
──その後、プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか?
守(アクティオ):まずは現場を視察させていただきました。当時、弊社の小林部長に相談したら、猛反対されましてね(笑)。
小林(アクティオ):大きなプロジェクトでしたので、信頼関係が構築されていないと難しいと思ったんですね。しかし、話し合いを進めていく中で、タッグを組んで同じ方向に進んでいけるパートナーだと確信したので、「是非やらせてください」と進めることになりました。
永美様(JFEエンジニアリング):2017年度に構想を練り、2018年度から本格的に始動しました。最初の約半年は契約に関して詰めていた感じです。
守(アクティオ):その頃、デクスハンドの基になる漫画のようなポンチ絵を見せていただきました。
小林(アクティオ):そのポンチ絵を見せていただいてから、ギアがシフトアップされた感じがしました。たくさんの現場を視察し、その中から生み出していこうという話をして。そこから創造して、お互いたくさんキャッチボールして進めていきました。当初はアクティオ側も、相当な枚数のポンチ絵を描きましたね。
細谷様(JFEエンジニアリング):課題をクリアするために、「これを作りましょう」という感じで話が進んでいきました。その中で、エコカとデクスハンドは最初から計画していました。
永美様(JFEエンジニアリング):キャリフは後からですね。メカナムホイールありきで、エコカから派生する感じで1年遅れで始まったので、2+1といった感じです。
澤田様(岡谷鋼機):今回の施工ロボットはさまざまな素材を使っているため、そこは岡谷鋼機の担当だよね、と。デクスハンドのアームを軽量化するために最適な素材を選定したり、エコカのバッテリーも弊社で探したりしました。
──今回のプロジェクトにアクティオとしては技術部とエンジニアリング事業部が関わっていますが、なにかすみ分けはあるのでしょうか?
猪俣(アクティオ):当初、エコカは技術部、デクスハンドはエンジニアリング事業部という分業を考えていたのですが、お互いにいいところを出し合い、助け合って進めていたら、ほとんど一緒に作り上げた感じになりましたね。
──3機種の開発を進めて行くなかで、越えなければならなかった壁はありますか?
永美様(JFEエンジニアリング):社内で「こんなことを実現したい」と伝えてから、予算をとることに苦心しました。進めて行くと「あれもやりたい」「こんなこともやってみたい」と欲が出てきて、そのたびに話を通すのが大変でしたね。当然、費用対効果の具体的数値を求められますので、そこも含めて理解を得るのが大変でした。
澤田様(岡谷鋼機):メーカーとしても初めて作る素材があったので、スムーズに進まないこともありました。試験に失敗したり......。そのたびに仕様を変更して、完成にこぎ着けた感じです。
橋本(アクティオ):特にエコカは協力会社とタッグを組む必要があったため、苦労しました。それぞれの分野の力を結集して乗り越えた感じですね。
與田(アクティオ):私には難しいことばかりで、いろんなことを理解するのが大変でした。フェーズによってさまざまなテーマが発生して、いろんな試験が必要になります。理論値では出てこないようなことを集中的に実験しました。どういった方法で実験するかを、その都度考える必要があったため、苦労しました。
──本格始動からプレス発表まで3年半かかっていますが、このスピード感に関してはどのようにお考えですか?
小林(アクティオ):JFEエンジニアリングさんは、よく耐え忍んでいただけたと思っています。当初2年といったものが3年半になったわけですから。
永美様(JFEエンジニアリング):1年ごとに目に見えて良くなるので、やり切れました。初期段階のモデルと比較すると、完成品は「ここまで美しくなるんだ」と感動するレベルですからね。
小林(アクティオ):エコカやデクスハンドは、3回モデルチェンジしましたからね。とにかく良いモノ、そしてカッコいいモノを作りたかった。機能美の追求ですね。
──昨年プレス発表されましたが、まだまだ変更を加える予定とうかがっております。そのあたりを詳しく教えてください。
永美様(JFEエンジニアリング):ベースとしてのスペックは固まってきたので、あとは足したり引いたり、部分部分で改良を重ねて2号機、3号機を作っていくことになると思います。
細谷様(JFEエンジニアリング):使用する現場、業種によって要望が異なるため、終わりはないと思っています。どんどんブラッシュアップしていくことになるでしょうね。
小林(アクティオ):世の流れから見ても、当面の最終目標は自動運転です。それを見据えて開発しており、かなりカタチになってきたと思います。
永美様(JFEエンジニアリング):弊社のプラントを100%自動化するのは難しいと考えています。しかし、工場内のAからB地点まで運搬するといった工程は完全に自動化できます。エコカやキャリフの動きを見て、「これ、あそこに使える」とひらめいた社員は多いですね。
──最後に、今後の展開についてお聞かせください。
永美様(JFEエンジニアリング):はっきりしたことは決まっていませんが、次の展開も大いにあり得ると思います。プロジェクト開始からメンバーが変わっていないため、すごくチームワークがいい。皆さん、積極的に動いてくださるし。これってすごく重要なことだと思っています。
──今後の展開も楽しみです。本日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございました。
※記事の情報は2022年2月8日時点のものです。
〈ご参考までに...〉
● 建設現場用施工ロボットを新開発(アクティオ公式サイト)