2022.03.11

SDGsはコミュニケーションツール。取り組みをストーリーとして伝えたい【建設業の未来インタビュー⑤ 後編/序章】 SDGs(持続可能な開発目標)の重要性が増しています。いまや企業経営に欠かせない視点とさえ言えます。ただ、建設会社として具体的にどう取り組めばいいか、捉えにくい面もあります。SDGsに関する研究に取り組む法政大学デザイン工学部建築学科の川久保俊(かわくぼ・しゅん)教授にSDGsへの第一歩をお聞きしました。後編(序章)では、SDGsへの取り組みをストーリーとして伝え、相手の共感を得た好事例などをご紹介します。

ゲスト:川久保 俊(法政大学デザイン工学部建築学科教授)
聞き手:茂木俊輔(ジャーナリスト)

〈前編/序章〉はこちら

SDGsはコミュニケーションツール。取り組みをストーリーとして伝えたい【建設業の未来インタビュー⑤ 後編/序章】

女性活躍推進をサービス提供に結び付け、収益向上を実現

――前編では、SDGsを自分ごととして捉え、その実現に向けた取り組みの第一歩を踏み出すにはどうすればいいか、お聞きしました。後編では、その次の段階としてどのようなことを心掛ければいいかをうかがいたいと思います。


川久保 次の段階にまで踏み出せれば、ビジネスチャンスが生まれます。経営者が自社の取り組みを自分の言葉でうまく語れるようになると、ほかの企業から取り組みへの共感を得られ、コラボレーションの誘いにつながることも考えられます。


問題は、その伝え方です。例えばSDGsのゴールごとに、1番についてはこういう取り組みを、2番についてはこういう取り組みを......と羅列しているだけでは、相手の共感を得られません。これではコラボレーションにはつながりません。言葉にはやはり、つながりが必要です。言わばストーリーです。相手の共感を得て手を組みたいと思わせるには、取り組みをストーリーとして伝えることが欠かせません。

川久保俊さん(法政大学デザイン工学部建築学科教授)


――SDGs実現に向けた取り組みをどう伝えていくかという視点でみたとき、団体でも企業でもいいのですが、川久保さんの目に留まるような好事例はありますか。


川久保 北海道の道北にあるSDGs未来都市の下川町が優れていると思います。SDGs実現に向けた取り組みをまちづくりのストーリーとしてうまく描いています。この町は森林に囲まれた人口約3,000人~4,000人規模の自治体です。豊かな森林に囲まれた町ということで、SDGsの17のゴールの中から、15番の「陸の豊かさも守ろう」という目標を取り組みの第一にすえました。森林を中心にすえる以上、適齢期の木を切り、そこに新しく木を植え、それを育てる、という循環が生まれます。それはつまり、ゴールの12番である「つくる責任、つかう責任」(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)で求めていることです。そこで町では、取り組みの中核にゴールの15番と12番を位置付けました。

川久保教授が中心となり開発した「Platform Clover(プラットフォーム・クローバー)」β版(https://platform-clover.net/)にも下川町のSDGsプロジェクトの事例が紹介されている川久保教授が中心となり開発した「Platform Clover(プラットフォーム・クローバー)」β版(https://platform-clover.net/)にも下川町のSDGsプロジェクトの事例が紹介されている


面白いのは、この2つのゴールに注力することが自ずとほかのゴールに向かうことにもつながるという点です。例えば豊かな森林を守れば、それは町民や観光客に森林セラピー効果によりゴールの3番である「すべての人に健康と福祉を」の実現にも貢献しますし、林地残材をバイオマス資源として利用することはゴールの7番である「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の実現に貢献できます。また木材利用による炭素の固定はゴールの13番である「気候変動に具体的な対策を」の実現に貢献できます。

下川版SDGs「2030年における下川町のありたい姿」の資料。「Platform Clover(プラットフォーム・クローバー)」β版(https://platform-clover.net/)から下川版SDGs「2030年における下川町のありたい姿」の資料。「Platform Clover(プラットフォーム・クローバー)」β版(https://platform-clover.net/)から


こうした波及効果にも目を向けていた町長の説明を聞き、ゴールの15番と12番を中核とする取り組みがまちづくりのストーリーの中に落とし込まれている、と気付かされました。人口規模の小さな町ですから取り組みは絞り込まざるを得ませんが、それでもストーリーとして広がりを持たせることができているのです。


――民間企業の中にも伝え方のうまさで際立っている例はみられますか。


川久保 岐阜市に本社を置く工務店の三承工業(岐阜市水主町、西岡徹人社長)を中心とするSUNSHOW GROUPの取り組みは面白いと思います。この企業グループではSDGsの本質を理解したうえで、その実現に向けた取り組みを経営戦略上の武器として活用しています。2018年12月には、団体・企業の優れた取り組みを国のSDGs推進本部として表彰する「ジャパンSDGsアワード 特別賞」を受賞しています。

SUNSHOW GROUPのホームページから(https://www.sunshow.jp/)SUNSHOW GROUPのホームページから(https://www.sunshow.jp/


このグループではもともと低価格で高品質な住宅を供給していました。低価格ですから、住宅ローンの負担を抑えられ、教育投資などに余裕を持てます。それによって貧困のスパイラルに陥るのを防ごうという意図です。SDGsとの関連ではゴールの1番である「貧困をなくそう」への取り組みと位置付けています。

SUNSHOW GROUPのホームページから(https://www.sunshow.jp/sdgs/)SUNSHOW GROUPのホームページから(https://www.sunshow.jp/sdgs/


ストーリーとして興味深いのは、ゴールの5番である「ジェンダー平等を実現しよう」への取り組みです。グループではもともと、出産・育児を理由とする離職を食い止めようと子連れ出勤の制度を創設するなど、女性活躍推進に取り組んでいました。その流れの中で女性社員を中心とするチームを新しく立ち上げ、女性目線の家づくりを打ち出します。女性社員が働きやすい環境を整え、その活躍を促す中で、女性目線という強みをサービス提供に結び付け、収益向上まで実現した例と言えます。



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※記事の情報は2022年3月11日時点のものです。

【PROFILE】
川久保 俊(かわくぼ・しゅん)
川久保 俊(かわくぼ・しゅん)
法政大学デザイン工学部建築学科教授。1985年生まれ。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業、慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修了。2013年に博士(工学)の学位を取得。その後、法政大学デザイン工学部助教、専任講師、准教授を経て、2021年より現職。専門は建築環境工学・都市環境工学。環境工学の視点から未来のあるべき建築・都市像を探求中。主な受賞歴:文部科学大臣表彰若手科学者賞、グリーン購入大賞・環境大臣賞等。近年はローカルSDGs推進による地域課題の解決に関する研究の推進のために全国を飛び回る日々を送っている。
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
茂木 俊輔(もてぎ・しゅんすけ)
ジャーナリスト。1961年生まれ。85年に日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。建築、不動産、住宅の専門雑誌の編集記者を経て、2003年からフリーランスで文筆業を開始。「日経クロステック」、「日経コンストラクション」などを中心に、都市・不動産・建設・住宅のほか、経済・経営やICT分野など、互いに関連するテーマを横断的に追いかけている。



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