2023.10.11

天気図で雨を予測する方法【建設現場で役立つ!天気の読み方⑥】 天気の変化をある程度予測できると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。本連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第6回は天気図で雨を予測する方法についてです。

文:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)

天気図で雨を予測する方法【建設現場で役立つ!天気の読み方⑥】

天気図が読めると雨の降り方も予測できる

第5回では天気図を見て風の向きや強さを予測する方法を紹介しましたが、天気図では雨の強さや降る範囲も予測することができます。そこで今回は、実際の天気図を使って雨の降り方を予測する方法をご紹介します。




雨の降り方を予測するのに必要な基礎知識

まず、天気図を使って雨を予測するためには、「前線」に関する基礎知識が必要です。前線とは、暖かい空気と冷たい空気がぶつかった時、その境界が地面と接するところを指します。暖かい空気と冷たい空気のぶつかり方によって4種類あり、それぞれ雨の降り方が異なります。


①温暖前線

暖かい空気の勢いが強く、冷たい空気に乗り上げ緩やかに押し進む前線を「温暖前線」と呼びます。温暖前線は冷たい空気の方へ動いていき、広い範囲で雲をつくったり、比較的弱い雨を降らせたりする特徴があります。

①温暖前線



②寒冷前線

冷たい空気の勢いが強く、暖かい空気の下へ潜り込みながら進む前線は「寒冷前線」と呼びます。前線付近の狭い範囲に雲をつくり、強風や強い雨を発生させることが特徴で、暖かい空気の方へ動いていきます。

②寒冷前線



③停滞前線

暖かい空気と冷たい空気の勢いが同じくらいの時に発生するのが「停滞前線」です。暖かい空気が冷たい空気に乗り上げる点は温暖前線と同じですが、あまり動かず長い間同じ場所にあるため、ぐずついた天気が続きます。具体的には、6~7月に見られる梅雨前線や9~10月に見られる秋雨前線があります。

③停滞前線



④閉塞前線

温暖前線の進行方向の後ろに寒冷前線がある場合は、寒冷前線の方が速く動くため、寒冷前線が温暖前線に追いつくことがあります。一体化した前線は「閉塞前線」になり、温暖前線と寒冷前線どちらか強い方の性質を受けて雨を降らせます。

④閉塞前線




実際の天気図を見て雨の様子を予測しよう

ここからは、実際の天気図を見ながら、雨の強さや降る範囲を予測してみましょう。


■前線を伴った低気圧が発生した場合

下の天気図では、九州地方に温暖前線と寒冷前線を伴う低気圧が見られます。このように前線を伴う低気圧を「温帯低気圧」と呼び、温帯低気圧の中心付近が通る地域は、雨の降る時間が長くなります。


赤で囲った温暖前線付近および北東側の広い範囲では比較的弱い雨が降りやすく、青で囲った低気圧の中心および寒冷前線の近くでは強い雨が降りやすくなります。低気圧が東へ移動する時は、通過前に中心の北東側の広い範囲で雨がしとしと長く降り続き、通過時は強い雨が比較的短い時間降る可能性が高いです。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和4年3月18日12時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和4年3月18日12時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)



■台風が接近してきた場合

下の天気図では、西日本を台風が通過している様子を表しています。低緯度地方の海上で暖かい空気だけで発生した低気圧のことを「熱帯低気圧」と呼び、なおかつ北西太平洋または南シナ海に存在し低気圧内の最大風速がおよそ17m/s(メートル毎秒)以上の熱帯低気圧のことを「台風」と呼びます。


台風の中心付近の等圧線の間隔が狭い部分では風が強く、台風がつくった積乱雲から強いにわか雨が降りやすくなります。そして、台風の動きとともに雨の範囲が移動し、場合によっては急に強い雨が降り始めるので注意が必要です。台風が移動する速度によって、雨が降る時間の長さも変わります。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和元年8月15日12時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和元年8月15日12時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)



■停滞前線が発生している場合

次の天気図は、日本列島の南に停滞前線が発生している様子を表しています。停滞前線付近とそのやや北側の、グレーで囲った地域で雨が降りやすく、強い雨が降ることもあります。


また、「〇」で囲った停滞前線が折れ曲がった部分では、特に強い雨が降る可能性があるので注意しましょう。加えて、台風が接近した時の停滞前線付近は、台風によって湿った空気が多く運ばれてくるため大雨になる可能性があります。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和3年7月1日9時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和3年7月1日9時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)



■寒冷低気圧が発生した場合

下の天気図を見ると、日本海に前線を伴わない低気圧が発生していることがわかります。上空に冷たい寒気を伴った、前線を伴わない低気圧を「寒冷低気圧」といい、動きが遅いのが特徴です。日本海上で見られることがあり、シベリア方面からの冷たい空気を運んでいる時は、その付近に積乱雲などをつくって、雷雨やにわか雪を引き起こす可能性があります。


この天気図では、日本海に寒冷低気圧が発生しており、東北から中国地方にかけての広い範囲で雷雨やにわか雪などに注意が必要です。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和2年2月10日3時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和2年2月10日3時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)



■海からの湿った風が日本列島に当たる場合

下の天気図は、7月の、夏の気圧配置を表しています。第5回でも紹介しましたが、日本列島がある北半球の場合、風は気圧が高いところから低いところを見て斜め右に向かって吹きます。この天気図の気圧配置の場合、太平洋にある高気圧から吹く湿った風が矢印のように吹くため、低気圧や前線が近くになくても、九州から近畿地方にかけての太平洋側の地域に雨が降る可能性があります。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和3年7月16日21時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和3年7月16日21時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)


対して下の天気図は、1月の、冬の気圧配置を表しています。この場合は、日本海側の地域に北西から吹く「季節風」がぶつかり、強い雨や雪を降らせることがあります。

国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和5年1月25日6時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)国立情報学研究所「100年天気図データベース 令和5年1月25日6時」を加工して作成(出典:気象庁、国立情報学研究所「デジタル台風」)




基礎知識を踏まえて、雨を予測してみよう

今回は、天気図から雨の強さや降る範囲を予測する方法をご紹介しました。気象庁のWebサイトなどでは予想天気図も発表されているので、明日や明後日の雨の様子を予測する際に活用できます。雨雲レーダーの画像を天気図に重ねて雨の強さを確認してみると、さらに詳しく傾向が分かってくるでしょう。


次回は、強い雨や風を引き起こす台風について、詳しく解説します。


※記事の情報は2023年10月11日時点のものです。

【PROFILE】
武田 康男(たけだ・やすお)
武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた? 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「天気も宇宙も!まるわかり空の図鑑」(エムディエヌコーポレーション)、「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。

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