2024.03.12

トンネル内の自動測量システムを独自開発。推進工事ICT「Pipe Shot」を商品展開 建設業のICTはトンネル工事においても進化している。アクティオが独自開発し市場展開している「Pipe Shot(パイプショット)」は、推進工法における測量で大幅な省力化・効率化を実現する、画期的な自動測量システムだ。

トンネル内の自動測量システムを独自開発。推進工事ICT「Pipe Shot」を商品展開

直径80cmの管の中を這い進む、トンネル工事の厳しい測量作業

トンネル工事にはさまざまな工法があり、道路や鉄道など大規模なトンネル工事では山岳トンネル工法やシールド工法などが用いられることが多い。一方、都市部における下水道の敷設など比較的小口径のトンネル工事でしばしば用いられる工法に、「推進工法」がある。


推進工法は日本では75年ほど前に初めて採用された技術。トンネル立坑の壁面に油圧ジャッキを設置し、掘進機(くっしんき)の背後に付けた推進管を推すことで掘り進む工法だ。一定距離を推したところでジャッキを縮め、推進管を接ぎ足し再びジャッキで推し進めることを繰り返し、次の立坑までの掘進を完了させる。最背後から長い管全体を推していくことになり、管はそのまま下水管などとして利用できる。


掘進完了後にコンクリートによる仕上げを必要とするシールド工法に比べコスト面で優れ、上下水道やインフラ管など、直径が十数cmから3m以下の小規模なトンネル工事ではスタンダードとなっている推進工法。掘進後に作業員が狭い推進管に入る必要があまり生じないことは、安全面・業務効率面においても大きなメリットである。

推進工法のイメージ推進工法のイメージ


ただし、推進管が設計通りに進んでいるかどうかを確認する「測量」は別だ。測量は、施工品質と定められた出来高を確保するための大切な工程であり、決して省略することはできない。


通信計測・測量機器の分野で豊富な経験を持つRS事業推進部 AP部 本間博専任課長は次のように話す。


本間「推進管の測量は通常、数人で管内に入って行います。測量する人は、狭いものでは80cmの口径の管の中を何十m、ときとして何百mも這い進んで測量していくわけです。立つことはおろか、座ることさえままならない狭い空間です。その管の中での長時間の測量は、土木業界にあって大きな困難を伴う『苦渋作業』の代表格に数えられてきました」


管内の「苦渋作業」は、若手の作業従事者が離脱していく要因となり、高齢化、人手不足、測量時間の増加、そして工期の遅れにつながるという、負のスパイラルが起きていた。


RS事業推進部 AP部 本間博専任課長RS事業推進部 AP部 本間博専任課長




推進工法のトンネルで自動測量。アクティオの独自開発「Pipe Shot」

アクティオが独自開発した自動測量システム「Pipe Shot」は、この推進管内部の苦渋作業から作業者を解放し、自動測量を可能にする画期的な商品だ。推進工法のICTとして、大きく注目されている。


Pipe Shotでは、トプコン社製の測量機「杭ナビ」をアクティオ独自にカスタマイズした測量マシンが核となる。杭ナビはその名の通り、本来は杭打ちや墨出しに特化した測量機だが、この杭ナビにプリズムを装着した独自開発のマシンを推進管内に複数台配置し、レーザー光をリレーするように測量するシステムが、Pipe Shotである。


推進管が接ぎ足されていく過程で、管内に一定の間隔を置いて測量マシンを次々と設置していく。設置した推進管自体が前進するので、人がトンネルの内部を這い進む必要がない。推進管がカーブする場合も、隣のマシンにレーザー光が届くよう、見通しが利くポジションにマシンを配置すれば対応できる。


Pipe Shotの概念図Pipe Shotの概念図


Pipe Shot導入のメリットについて、開発を担当した本間専任課長にさらに話を聞いた。


本間「人が管内部で行う測量は、管の長さにもよりますが、例えば4人がかりで数時間もかかったりします。私自身、推進管の中には数えきれないほど潜ってきました。この測量も、Pipe Shotなら1人から2人で、10~20分という短時間に終わらせることができます。測量作業中は掘進がストップしますから、Pipe Shotの導入で工期の大幅な短縮が実現するわけです。メリットは計り知れません」


複数台の測量マシンのほか、先頭の管にはマシンターゲットを、最後尾である立坑にはターゲットとトータルステーションを設置して、長いトンネルの全体を測量する。杭ナビはバッテリー駆動だが、Pipe Shotの測量マシンは推進工事中の長期間稼動を実現するため、有線でAC電源を供給する。


さらにマシンを駆動させ測量結果を通信するWi-Fi通信設備(IoT-BOX)、制御用ソフトウエア、これらがPipe Shotの主な構成要素一式だ。




納入現場で好評価、海外へも展開。さらなる発展を見据え進む開発

Pipe Shotは、どの程度の長さのトンネルの測量に対応できるのだろうか。


本間「マシンを連結する台数に制限は今のところ特にありません。ただ推進工事の立坑から立坑までの距離は限りがあり、大半は長い場合で500m程度です。そこに10~15台のマシンを連結して運用します」


狭い管の中を500m這い進む測量作業がなくなる画期的な商品。アクティオのAP部がPipe Shotの開発をスタートさせたのは2020年頃のことだ。RS事業推進部 AP部の茂木清顕部長は次のように話す。


茂木「この仕組みで推進管の無人測量ができるというアイデアは、ずっと以前から我々部内の全員が持っていました。それにマッチする機能や耐久性を備えた測量機が発売されたこと、お客様からの強い要望、上長より『やってみよう!』の後押し、そして、会社からの研究開発費の支援、これらが合わさって一気に開発が進み、2021年には現場での実験を経て商品化することができました。おかげさまでお客様にも高い評価をいただき、2023年12月時点では約60件の納入実績と4セットの販売実績(お客様にて、ものづくり補助金を活用)を残しています」


RS事業推進部 AP部 茂木清顕部長RS事業推進部 AP部 茂木清顕部長


現在AP部は、Pipe Shotの価値と使用方法を広く業界に浸透させることに注力している。


茂木「Pipe Shotの使用方法は実はシンプルなのです。今は私たちのスタッフが現場に出向いて初期設置のお手伝いをし、使い方も詳しくお伝えしますが、理想は、初めからお客様ご自身が設置して使えるよう標準化されることです。今、アクティオが事務局となって、推進工事関係の18社で構成するICT推進工法研究会という非営利団体を運営しています。その団体を通して、Pipe Shotの講習会や、新技術の検討会を実施するほか、Pipe Shotが推進工事の標準としてスペックインされるよう活動に取り組んでいます」


直近では次のような成果があったという。


茂木「現状では、2023年度版 推進工事用機械器具等損料参考資料への掲載までこぎつけました。また、2023年11月にはインドネシアのバンドン工科大学で行われた日本推進技術協会開催の推進技術セミナーにて、PipeShotの講演と意見の交換を行い、政府機関や学生の皆さんに、ご関心、ご好評を頂きました」


日本推進技術協会開催の推進技術セミナーにて講演日本推進技術協会開催の推進技術セミナーにて講演


都市では、工事のために渋滞する地上の交通を止めることは難しく、地面の下は地下街や鉄道、道路などが縦横無尽に通っている。そのため、上下水道やインフラ管を設置するための地上からの開削工事は年々困難になっている。推進工法の需要は高まり、Pipe Shotの出番もますます増えていくことが見込まれる。


この傾向は海外でも同様で、2023年には、経済成長が著しい東南アジア等において使用されるなど、Pipe Shotの活躍の場は世界に広がろうとしている。


アクティオのAP部では今、Pipe Shotをシールド工法にも適用させる取り組みが進められている。さらに、将来的に見据えているのは、クラウドサーバーを介した、遠隔地からの監視や遠隔操作の確立。都市の地下という人々の目には触れない場所で、ICTの進化の一翼を担い、アクティオの奮闘が続いている。


※記事の情報は2024年3月12日時点のものです。


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〈ご参考までに...〉

Pipe Shot(推進・シールド自動測量システム)(アクティオ公式サイト)

杭ナビ(アクティオ公式サイト)

事業分野紹介「i-Construction(ICT施工)」(アクティオ公式サイト)

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