2023.11.08

台風の仕組みや進路の見方を知って防災につなげよう【建設現場で役立つ!天気の読み方⑦】 天気の変化をある程度予測できると、防災対策やスケジュール調整に役立ちます。本連載では「建設現場で役立つ!天気の読み方」と題して、"空の探検家"で気象予報士でもある武田康男(たけだ・やすお)さんに、天気を予測する方法を解説いただきます。第7回は台風の仕組みと進路予報、防災情報の見方についてです。

文:武田 康男(空の探検家、気象予報士、空の写真家)

台風の仕組みや進路の見方を知って防災につなげよう【建設現場で役立つ!天気の読み方⑦】

台風は一年中発生する可能性がある

日本列島の南の海上で発生した熱帯低気圧で、最大風速が17m/s(メートル毎秒)以上のものを「台風」と呼びます。台風は夏から秋にかけて日本列島に近づくことが多いですが、実は一年中発生する可能性があります。最近は海面水温が高くなった影響で、日本列島の近くで台風が発生したり、台風が大気中の水蒸気をたくさん含むことで、勢いを増して日本列島に近づいたりすることがあり、災害をもたらすこともあります。台風の仕組みと防災を知ることはいっそう大切です。


そこで今回は、台風の仕組みや進路の特徴、警報の区分についてご紹介します。台風が近づいたときの防災対策を考える際にぜひ参考にしてください。

月別の台風発生・接近・上陸数の平年値(2020 年までの 30 年平均)(出典:気象庁)月別の台風発生・接近・上陸数の平年値(2020 年までの 30 年平均)(出典:気象庁)



雲の渦と強い風で構成される台風

台風は、積乱雲などの雲がたくさん集まり、大きな渦をつくっています。台風の中心の目に近づくほど風が強くなり、目の中では風が弱くなります。また、積乱雲の集まりが通過するタイミングで雨が強くなります。地表付近で台風に吹き込んだ空気は、らせんを描いて目のまわりを上昇し、上空ですじ雲などを時計回りに吹き出します。台風が接近しているとき、台風から吹き出たすじ雲を真っ先に見ることがあります。

2019 年に発生した台風 19 号の気象衛星画像(出典:国立情報学研究所「デジタル台風」)2019年に発生した台風19号の気象衛星画像(出典:国立情報学研究所「デジタル台風」

台風の構造地表付近の風向きは自転が関係しているため、反時計回りに回転する風が吹く



台風は中心から30~100km程度のところでもっとも強い風が吹くことが多いです。中でも台風の進行方向右側は、台風自体の風と台風が動くときの風が合わさり、より風が強くなります。対して、進行方向左側は台風自体の風が台風が動くときの風で減少し、右側と比べて風が弱くなる傾向にあります。

台風が引き起こす風

台風のコースは月によって変わる

台風が日本列島に近づくコースは、月によって異なります。7月は太平洋高気圧が日本列島の南側に張り出しているため、台湾方面に向かうか、沖縄付近を北上することが多いです。8月には九州や四国に近づき、9月には本州に上陸する傾向があります。10月以降は、日本列島の上を西から東に向かって吹く偏西風の勢いが強くなり、日本列島に近づくことがだんだん少なくなっていきます。

台風のコースは月によって変わる




天気図で進路予報を確認しよう

もちろん、これらのコースは年によって違いがあり、台風が発生するたび、進路予報で確認する必要があります。台風が発生すると気象庁のWebサイトなどで発表される「進路予測情報」を反映した天気図を確認しましょう。


台風の進路予測情報は、主に次の5つの要素で構成されることが多いです。

■現在の中心位置

観測時刻での台風の中心位置です。


■予報円

一般的に台風の中心が70%の確率で入ると予想した範囲を示しています。台風の大きさを表しているものではありません。


強風域

観測時点で風速15m/s以上の風が吹いていると考えられる範囲を表しています。風速15m/sになると、風に向かって歩けなくなり、人が転倒する可能性があります。高所での作業は極めて危険です。


■暴風域

観測時点で風速25m/s以上の風が吹いていると考えられる範囲を表しています。暴風域の中は、何かにつかまっていないと立っていられないくらいの強い風が吹きます。


■暴風警戒域

台風の中心が予報円の中を進んだとき、暴風域に入る可能性がある範囲です。

天気図で進路予報を確認しよう




台風の大きさと強さ

台風は、中心気圧が低いほど風雨が強くなりますが、天気予報では中心気圧以外に、台風の大きさと強さも伝えます。


台風の大きさは、強風域の半径によって表現を分類しており、大きな台風ほど早くから長い時間影響があります。強風域の半径が800km以上の「超大型(非常に大きい)」の台風は、本州がすっぽり入る大きさです。


台風の強さは、最大風速を基準にして、「非常に強い」「猛烈な」などと表現を分類しており、風による影響が異なります。最大瞬間風速は、最大風速よりももっと大きいです。


例えば強風域の半径が600kmで、最大風速が40m/sの台風の情報を天気予報などで伝える際は、「大型で強い台風」のように大きさと強さを組み合わせて呼びます。

台風の大きさと強さ




台風が来るときは気象庁の防災気象情報を確認しよう

台風は大雨や暴風、高波をもたらします。そして、川の氾濫、高潮による洪水、土石流、がけ崩れ、地滑りなどの災害が発生しやすくなります。こうした災害の恐れがある状況下で、住民が自らの判断で避難する行動をとれるよう、気象庁では警報や注意報などの防災気象情報を発表し、段階的に注意や警戒を呼び掛けています。


また、気象庁が発表した情報をもとに、自治体が警戒レベルを発令することがあります。警戒レベルは1~5に分かれており、警戒レベル4が発令されたら必ず避難しましょう。建設現場においては、作業員の安全を確保するために、台風が接近している際は、気象庁がどんな防災気象情報を発表し、自治体がどの警戒レベルを発令しているのかをチェックして、工事のスケジュールを検討することが重要です。


気象庁「大雨や台風に備えて P2~P3」を加工して作成(出典:気象庁)気象庁「大雨や台風に備えて」 P2~P3を加工して作成(出典:気象庁)




台風が来る前に情報収集を

台風は大きな災害を起こすことがあります。しかし、地震や火山噴火ほど予測が難しいものではありません。天気図上に現れた台風が日本列島にやってくるには、多くの場合、数日かかります。台風の予報精度は良くなっていますから、進路予想図や気象庁が発表する防災気象情報などを把握し、適切な行動をとることで、台風が起こす災害から身を守りましょう。


次回は、天気予報を見る際の注意点について解説します。


※記事の情報は2023年11月8日時点のものです。

【PROFILE】
武田 康男(たけだ・やすお)
武田 康男(たけだ・やすお)
空の探検家、気象予報士、空の写真家
1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科/地学)に。2008~10年、第50次南極地域観測越冬隊員を経て、高校教諭を辞し、2011年に独立。"空の探検家"として活動。現在は大学の客員教授や非常勤講師として地学を教えながら、小中高校や市民講座などで写真や映像を用いた講演活動を行う。空の魅力を伝えるために、さまざまな大気の現象を写真や映像に記録して書籍やテレビなどに提供。2021年に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも空の映像を提供している。
テレビ出演:「気象予報士も驚いた? 摩訶ふしぎ空の大図鑑」(BS-TBS)、「富士山 The Great SKY」(BSフジ)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「教科書にのせたい!」(TBS系)、「体感!グレートネイチャー」(NHK)など。
著書:「天気も宇宙も!まるわかり空の図鑑」(エムディエヌコーポレーション)、「ふしぎで美しい水の図鑑: 水のさまざまな表情をたのしむ」「富士山の観察図鑑 - 空、自然、文化 -」「楽しい雪の結晶観察図鑑」「虹の図鑑」「今の空から天気を予想できる本」(緑書房)、「一生に一度は見てみたい 空の見つけかた事典」(山と渓谷社)、「雲の名前 空のふしぎ」「不思議で美しい『空の色彩』図鑑」(PHP研究所)、「武田康男の空の撮り方: その感動を美しく残す撮影のコツ、教えます」(誠文堂新光社)、「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(草思社)、「空の探検記」(岩崎書店)ほか多数。

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