2023.08.23

「ラクして、いい仕事をする」――建設DXに必要なスキルと考え方【建設業の未来インタビュー⑫ 前編/序章】 あらゆるビジネスと同様に、建設業界でも最優先課題のひとつとなっているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。AIやロボット、ドローンなどのデジタル技術を導入して、生産性向上や新しいビジネスの構築を目指す「建設DX」。さまざまな新しい技術の実用化が進められていますが、それらを現場で効果的に活用するためには、どのようなスキルや考え方が必要なのでしょうか。建設DX研究の第一人者であり、国土交通省 i-Construction推進コンソーシアム企画委員会委員、同ICT導入協議会委員長などを務める立命館大学の建山和由(たてやま・かずよし)教授に、お話をうかがいました。

ゲスト:建山和由(立命館大学 総合科学技術研究機構 教授)
聞き手:家入龍太(建設ITジャーナリスト)

「ラクして、いい仕事をする」――建設DXに必要なスキルと考え方【建設業の未来インタビュー⑫ 前編/序章】

建設DX推進は「ラクする」が前提

──建設業界ではこれまでにもIT化が進められてきましたが、DXを推進することで業界はさらに大きくパワーアップすると考えてよいのでしょうか。


建山 何十年か後に今の時代をふり返ったとき、「建設技術が飛躍的に伸びた時代」と認識されるだろうと思います。建設業界で生産性が画期的に上がったきっかけと言えば、最初は建設機械の導入でした。その後も油圧やメカトロニクスなど、その時代の新しい技術を取り入れながら徐々に進化してきましたが、ここに来て、ICTやAIといった他分野の最新技術によって建設技術が飛躍的に伸びています。


──その背景にあるものは何だと思いますか。


建山 ひとことで言えば、人手が足りないということでしょう。日本の人口は2007〜2008年をピークに減少に転じ、15~64歳の生産年齢人口もどんどん減少しています。建設業界はほかの産業以上にこの生産年齢人口の減少率が大きくて、私の試算では、30年後には今の半分の人手で建設現場を担っていくことになりそうです。


建山 和由 (たてやま・かずよし)さん



──現在でも人手が足りないといわれているのに深刻ですね。どのように対処していくことが必要なのでしょうか。


建山 ひとつは、今までより生産性を上げることですね。現在の半分の人手で、今までよりも質の高い、あるいは、たくさんの仕事ができる仕組みをつくる必要があります。しかし、それだけでは足りません。もうひとつ、「この業界で働きたい」という人が増えるよう、建設業を魅力ある産業に変えていくことも必要だと思います。


──その両者において、建設DXが大きな役割を果たすということですね。


建山 そうですね。私はよく企業のみなさんに「ラクして、もうけましょう」と言っているんです。仕事で「ラクをする」と言うと、社会通念上、良くないことのように思われるかもしれません。ですが、建設業に関していえば、いわゆる3Kを解消するために、今よりももう少しラクに仕事ができて、かつ、しっかり利益も上げられる産業になるよう変わっていくことが、この業界で働きたいという人を増やすために必要なことのひとつだと思っています。


──なるほど、DXというとデジタル化に目がいきがちですが、「ラクして、いい仕事をする」ことを主眼に意識改革し、この業界で働いてくれる人のための環境と条件を改善するということですね。


建山 はい。特に、地方公共団体は近年、どんどん人を減らしていく傾向にあります。そんな中、道路や上下水道など高度成長期に建設された多くのインフラが劣化しており、少ない人材でメンテナンス事業にあたることが求められています。非常に難しい時代であり、地方公共団体の皆様も危機感をもって、今まで以上に効率化・省人化に取り組んでいく必要があると思っています。


調査や工事の生産性がケタ違いに上がるケースも

──実際に生産性を上げた事例としてはどのようなものがありますか。


建山 滋賀県長浜市に、法面(のりめん)工事を得意とする建設会社があります。法面工事では斜面が滑らないように吹き付けをしたり、型枠を打ったりするのですが、出来形管理の時、従来は担当者が急斜面をよじ登って、メジャーで計測していたんです。さらにそのデータを整理して報告書を作成する時間までを合計すると、ある法面工事では、従来の方法で作業完了までにかかるのは88時間と見積もられていたそうです。

しかし、計測手段をメジャーからドローンに変更すると、一連の作業が8時間で済むようになったというんです。作業時間を11分の1にまで短縮できた上に、急な斜面を登るという危険な業務をなくすこともできました。


家入 龍太(いえいり・りょうた)さん


──危ない作業をしなくても、効率的にデータが取れてしまうドローンは、建設業との相性がいいですね。


建山 滋賀県では、土木に関わる若い職員の多くがドローンを飛ばせるようになっているそうです。遠隔臨場にドローンを取り入れることで移動時間を削減し、効率化を図ることができます。万一の災害やトラブルが起きても、ドローンを使えば現地に行かずに迅速かつ的確に現状を把握し、復旧計画を立てていくこともできるでしょう。



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※記事の情報は2023年8月23日時点のものです。

【PROFILE】
建山 和由 (たてやま・かずよし)
建山 和由 (たてやま・かずよし)
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授。1980年に京都大学工学部土木工学科卒業後、同大学で博士号(工学)を取得。1985年から京都大学工学部助手。講師、助教授を経て、2004年4月から立命館大学理工学部教授。建設施工にICTを活用して生産性の向上や安全性の改善を目指す研究に取り組み、それを社会的な取り組みに広げる活動を行っている。国土交通省 i-Construction推進コンソーシアム企画委員会委員、同ICT導入協議会委員長などを歴任。
家入 龍太(いえいり・りょうた)
家入 龍太(いえいり・りょうた)

建設ITジャーナリスト。1959年生まれ。京都大学大学院(土木工学専攻)を修了し、日本鋼管(現・JFE)に入社。1989年に日経BPに転職。「日経コンストラクション」副編集長、「ケンプラッツ」初代編集長を歴任し、2010年に独立。2020年に株式会社建設ITワールドを設立し、IT活用による建設業の成長戦略を追求する。

〈後編/序章〉へ続く



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