2021.04.30

大型土木プロジェクトでの活躍が期待される「超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEM」開発秘話 地面を掘り進めれば、水が出る。土木の現場では、この湧き出た水の処理が必須だ。水中ポンプで汲み上げ、濁水(だくすい)処理装置を通してから、適切に排水しなければならない。特に大型土木プロジェクトでは大量の濁水処理を行う必要がある。そのためにアクティオが開発したのが、「超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEM(アクチシステム)」だ。

大型土木プロジェクトでの活躍が期待される「超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEM」開発秘話

濁水を清澄化する技術が「凝集沈殿」

土木工事のあらゆるシーンで、濁水処理が必要となる。例えば、トンネル工事濁水処理、ダムサイト濁水処理、造成工事などの雨水排水処理、浚渫(しゅんせつ)池余水排水処理、閉鎖性水域水の浄化処理などだ。


濁水の原因となるのが、水中に浮遊する粒径2mm以下の不溶解性物質「浮遊物質(Suspended Solids=SS)」。このSSを取り除けば、透明な水に生まれ変わる。


その処理方法はいくつかあるが、土木工事では「凝集沈殿(ぎょうしゅうちんでん)」という方式が用いられることが多い。処理対象となる原水に薬剤を投入しながら撹拌(かくはん)を行い、「凝結作用」「凝集作用」「沈殿作用」と大きく分けて3つの工程を経て水と粒子の分離を行うことで、できるだけ透明な処理水を作り出すわけだ。


「凝結作用」では無機凝集剤を使用する。よく使われるのはPAC(ポリ塩化アルミニウム)や硫酸バンドなどで、それらを投入し、粒子の小さな無数の集合体(フロック)を生成。この小さな集合体を成長、粗大化させるのが「凝集作用」で、使われる薬剤は高分子凝集剤。大きくなったフロックは沈降速度が速くなり、沈殿にかかる時間を短縮できるため、水と粒子の分離を効率的に行うことが可能である。




浄水場や工場排水の処理で実績のある技術「ACTIFLOR Process」

「凝集沈殿」で大量の濁水を処理する場合は、水面積を増やすか沈降速度を速めるしか方法がない。従来は水面積で対応していたが、必然的に敷地面積が広くなるため、用地確保の問題が生じてしまう。ダムサイトのような現場ならまだしも、大規模な山岳トンネルなどでは用地確保が難しい。ここに「超高速凝集沈殿装置」を開発した経緯が隠されている。


エンジニアリング事業部 技術部 高橋和夫専任部長エンジニアリング事業部 技術部 高橋和夫専任部長


「いまから6~7年前の話ですが、これから行われる大型土木プロジェクトで大量の水が出た場合、小さな装置で大量の濁水を処理できれば、アクティオのアドバンテージは高まる、そう考えました。論理は簡単。沈降速度を超高速化できれば、実現できます。何か良い方法はないものかと思案していたところ、環境展に参考になりそうな装置が出展されていたという情報を得ました。ACTIFLOR Process という技術を使った超高速凝集沈殿装置です」


そう話すのは、エンジニアリング事業部 技術部 高橋和夫専任部長だ。


ACTIFLOR Processは世界3大水ビジネス企業の1社である、ヴェオリア・グループの仏OTV社(Omnium de Traitement et de Valorisation)が開発し、ヴェオリア・ジェネッツ株式会社(ヴェオリア・ウォーター・ジャパンのグループ企業)がライセンス取得した技術。この技術を活用した超高速凝集沈殿装置は、浄水場や工場排水の処理では多数実績があるが、当時、建設工事の現場で通用するかどうかはまったくの未知数だった。


そもそも、ACTIFLOR Processとはどういう技術なのであろうか。エンジニアリング事業部 土木部 東盛之営業専任部長に解説してもらった。


ACTIFLOR Process


「ACTIFLOR Process技術の特色は、沈降促進剤を加えて、非常に緻密なフロックを生成できることにあります。この方法で生成する凝集体、いわゆるフロックの分離速度を、時間あたり60mから120mで設計できる高速凝集沈澱分離装置が開発されています。この結果、従来の凝集沈澱法で必要な敷地面積と比べて半分程度にすることが可能です」


具体的な装置構成では、ライン中で原水に無機凝集剤を添加し、凝集槽で急速攪拌を実施する。続いて熟成槽で沈降促進剤である100ミクロン~200ミクロン程度の硅砂/マイクロサンドと、高分子凝集剤を同時に添加して、強攪拌を行う。ここでマイクロサンドと懸濁物質*1が一緒に凝集した密度の高いフロックが生成する。この後、生成した高密度のフロックを沈殿槽で高速分離し、沈降したフロックはスラリー*2として回収する。


*1 懸濁物質:水中に浮遊し、水に溶けない固体粒子
*2 スラリー:沈降・分離されたフロック濃度の高い泥状物



「この回収スラリーの中にはマイクロサンドが含まれているので、沈降槽下部から引き抜いて、液体サイクロンを使って分離・回収して再利用します。サイクロンを通過したスラリーは廃棄スラリーとして脱水処理などを経て、最終的に処理されます」


エンジニアリング事業部 土木部 東盛之営業専任部長エンジニアリング事業部 土木部 東盛之営業専任部長




試作装置で実験を開始

他メーカーも高速凝集装置は開発しているが、凝集作用の工程において、高分子凝集剤を添加すると同時に沈降促進剤としてマイクロサンド、つまり細かい粒子の砂を添加しているのはACTIFLOR Process技術だけだ。この技術を建設分野でも活用して濁水処理を行えば、来るべき大型土木プロジェクトで役立つだろうとエンジニアリング事業部は目を付けた。


高橋専任部長はヴェオリア・ジェネッツ株式会社と協議を重ね、まずは実験用の処理装置を調達。佐野テクノパーク統括工場に協力いただき、設置して実験を開始したのだ。その実験を担当したのが、エンジニアリング事業部 通信計測部 船橋晃祐専任課長(当時技術部)である。


「2015年に処理能力10㎥/hの装置で実験を開始しました。土木工事で出る濁水は、作業している時としていない時で濃度の変動が非常に大きく、一時的に高濃度になることがあります。また、排水量も一定ではないため、起動停止回数が多くなり、処理が不安定になる問題も起こり得ます。このあたりを解決する目途がついた段階で、実際のトンネル工事現場に小型の試作装置を設置。実証実験を開始しました」


その結果は、苦労の連続だったと船橋専任課長は振り返る。


「例えば、装置に入れたマイクロサンドは回収して再利用するのですが、配管や装置内で詰まってしまい、当初はうまくいかなかった。現場で改良に改良を重ね、ようやく建設工事現場で使えることが分かったのです」


エンジニアリング事業部 通信計測部 船橋晃祐専任課長エンジニアリング事業部 通信計測部 船橋晃祐専任課長




処理流量60㎥/hの超高速凝集沈殿装置を開発

こういった実験を経て、処理流量60㎥/hの超高速凝集沈殿装置を開発。そして2019年末、再度トンネル工事に投入された。しかし、またもいばらの道だった。当時を振り返り、エンジニアリング事業部 土木部 内ケ島琢磨副部長は次のように語った。


「私は出来上がった装置を渡されて某トンネル工事の現場に設置したのですが、入れた直後から適切に濁水処理ができなかった。最初はどこに問題があるのかすら分かりませんでした。いろいろと調べると、入れたはずのマイクロサンドがなくなっていました。本来はリサイクルされるはずなのにです」


マイクロサンドを入れた直後は当然、濁水処理が進行する。ところが一緒に排水されてしまうと処理不能に陥ってしまった。


「さらに調べてみると、マイクロサンドをリサイクルする液体サイクロンという、これまで見たことのない米国製のパーツが浮かび上がりました。このパーツが機能しないため本来の性能が出ていなかったのですね。そこでアクティオにある泥水処理プラントのサイクロンに付け替えて、対応することになった。結局、この工事現場には半年も駐在していました」


エンジニアリング事業部 土木部 内ケ島琢磨副部長エンジニアリング事業部 土木部 内ケ島琢磨副部長


その後、改めて研究開発申請を行い、約1カ月にわたって同現場で、実証実験を実施。濁水の濃度を変化させながら実験を繰り返し、ようやく超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEM(アクチシステム)が完成し、NETISにも登録された(登録番号No.KT-160149-A)。


繰り返しになるが、超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEM最大のメリットは、濁水を超高速で沈殿分離することができるため、装置の小型化が可能となることだ。よって処理設備装置に必要な敷地面積が、従来設備に比べて半分程度で済むという。


また、処理水の清澄性が高く、砂ろ過などの装置を設置しなくても、単独処理で水質の高品質化が図れるのもメリットだ。従来型では低濃度の濁水処理は不安定なことが多かったが、マイクロサンドの添加により適用濁質濃度範囲が広いため、安定した処理水質の確保につながった。この他、効果的な凝集処理が行えることでランニングコストの削減も図れた。




超高速凝集沈殿装置AKTi SYSTEMの優位性

超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEMは、IoT技術の活用による遠隔監視・管理も行える。濁水異常に加え、処理水pH異常が発生した時に警報メールを受け取ることにより、迅速に早期連絡や不具合対応が可能だ。また、この装置を導入した元請けは、発注者に対して公害防止の万全な対策をしていることをアピールすることで、より信頼も高まる。


装置の状態を見える化することは、アクティオとしてもメリットがある。故障トラブル発生時に現場とWebミーティングやメールで遠隔対応できれば、迅速な対応が行えるうえに出張コストの大幅削減が期待できる。また、常時監視の環境と蓄積したデータを分析することにより、メンテナンス時期や設備改善案を提案することも可能だ。


超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEMは、その優位性と技術情報をまとめた映像とパネルが、国土交通省 関東地方整備局 建設技術展示館(千葉県松戸市)に展示されている。そのあたりの経緯を、エンジニアリング事業部 技術部 計画課 秦紹大さんにお聞きした。


「国土交通省 関東地方整備局 建設技術展示館は、建設業界の最新技術を紹介する施設です。超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEMの優位性を広く知らしめるには絶好の場なので、資料づくりから始めて申請し、2018年5月から展示されるようになりました。展示期間は1期2年なのですが、先進性が認められて、今は2期目です。2022年11月30日まで展示される予定です」


エンジニアリング事業部 技術部 計画課 秦紹大さんエンジニアリング事業部 技術部 計画課 秦紹大さん




より大型のシステムを設計開発

現在、アクティオでは超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEMを2台(処理能力10㎥/hと60㎥/h)保有しており、それぞれトンネル工事の現場で稼働している。この開発はまだ終わってはいない。むしろ、これからが本番だと東専任部長は決意を新たにした。


「2016年に試験装置を製作してフィールドテストを実施してから、処理能力60㎥/hの装置の製作まで3年程度要しました。また、実施した研究開発の成果から得られた多くのノウハウや知見をもとにして、大水量処理が要求される土木の大型工事プロジェクトに適合できる、装置の大型化にも対応可能となりました。今後の予定としては、まずは処理能力300㎥/hの装置について、設計から製作まで10カ月程度で行えるようになることを検討しています。今後も他社技術との差異化を明確にして開発を継続していきます」


超高速凝集沈殿装置 AKTi SYSTEMが真価を発揮するのは、正にこれからなのだ。


※記事の情報は2021年4月30日時点のものです。

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