2019.04.09

i-Constructionが解る!【3】起工測量の革新 工事を始める前に現況を測量する起工測量。i-Constructionで、起工測量はどのように変わるのだろうか?本連載で幾度となく登場してきた「3次元データ」「3次元測量」がさっそくここでも活躍する。

i-Constructionが解る!【3】起工測量の革新

3次元の起工測量

工事を始める前に必ず行う起工測量。工事着手前の現場の形状を把握し、その後の施工計画の立案やコスト計算をするための重要な作業だ。i-Constructionの場合も同様で、プロセスのまず第一歩は起工測量ということになる。i-Constructionの起工測量では、3次元測量が行われる。起工測量で現況の3次元データを手に入れることで、後に3次元設計データと重ね合わせたり、比較したりするなど、作業の大幅な効率化が図れるのだ。測量方法としてはドローンを使った空中写真測量が一般的だ。



そもそもドローンとは?

測量用のドローン。カメラを搭載し、自動飛行が可能。

測量用のドローン。カメラを搭載し、自動飛行が可能。


ドローンは、小型の無人飛行体につけられた、いわば「愛称」のようなものだ。その由来は英語で蜂の羽音を「Drone」と呼ぶことから来ている。ドローンの正式な呼び方はいくつかあるが、日本語では「無人航空機」または英語「Unmanned aerial vehicle」の略である「UAV」という呼び名もよく使われる。小回りが利き、コントロールアプリを使うことで測位衛星(GNSS)を使った自動飛行や、特定の被写体を追跡して飛行するなどの多彩な機能を持ち、現在も進化し続けている。その性能が買われて、測量にも一般的に用いられるようになってきた。

かつては自由に飛ばせたドローンも、事故の多発などを受け、2015年から航空法の規制を受けることになった。人口密集地や空港の近くなど飛行禁止の空域が定められている。そのような空域を使って測量する場合には、国交省への飛行許認可届け出と、関係各所からの許可を受ける必要がある。



ドローンを使った3次元測量(空中写真測量)

ドローンを使った3次元測量では、測量作業自体を大幅に効率化できる。従来では1週間ほどかかっていた測量作業が、たったの1日で済んでしまうということもまれではない。上空から広い範囲を一度の飛行で測量できるからだ。ここでは、ドローンによる空中写真測量の手順を見ていこう。

1.踏査・選点

始めに、測量を行う土地の踏査を行う。測量対象物の確認と合わせて、障害物も調査する。空中写真測量では、そもそも地面が写真に写らないと測量できない。現地に藪や茂み、地面を覆い隠す構造物などがある場合は、撤去しておく必要がある。

同時に、「標定点」の位置を選定する。これを「選点」作業という。標定点は、3次元モデルを実際の座標(X,Y,Z)に合わせるための基準になるポイントだ。ドローンから撮影する写真に写るように、決められた間隔で複数設置する。設置した標定点は、3次元データの精度を高めるために重要な役割を果たす(詳しくは次項で説明)。

2.フライトプランの作成
地図を元にしてフライトプランの作成に入る。地形の上を、決められた高度と間隔で飛行し、写真同士が規定通りの重なりになるように計画する。

ドローンの自動飛行をプログラムするソフト。ここでプログラムしたルートを自動的に飛行するドローンの自動飛行をプログラムするソフト。ここでプログラムしたルートを自動的に飛行する


3.フライト

1.で選定した標定点に、目印となる「対空標識」を設置し、フライトプランに従って現地を自動飛行させる。そして、ドローンの飛行中に、機体に搭載したカメラを使って、地形の写真を撮影する。ドローンを移動させながら、適切な頻度でシャッターを切り、大量の連続写真を撮影する。

ドローンを飛ばし、空中から大量の連続写真を撮影するドローンを飛ばし、空中から大量の連続写真を撮影する


4.写真を元に3次元モデルを作成

ドローンで撮影した写真をコンピュータに取り込み、専用のソフトウェアで解析、合成して3次元モデルを作る。

ドローンで撮影した写真を、解析ソフトに読み込ませる。ドローンで撮影した写真を、解析ソフトに読み込ませる。


以上が、ドローンを使った空中写真測量のおおまかな手順だ。これによって従来の測量とは次元の違うスピードで測量ができ、高い精度でデータが得られる。




標定点と対空標識が精度のカギ

対空標識。標定点が中心に来るように、地面に設置する。
対空標識。標定点が中心に来るように、地面に設置する。


空中にドローンを飛ばして測量するだけでも、3次元の地形データは手に入る。しかしそれだけでは、地理的な正確性は期待できない。測位衛星(GNSS)の情報を元にするため、時には1m以上もの誤差が生じることになるのだ。これを補正するためには、厳密に3次元座標がわかっている「基準」が必要になる。それが、調査時の選点作業で決める「標定点」だ。標定点は、施工現場の中や外周を囲うように複数を設置する。設置したらその場所に杭を打ち、役所から指定された基準点や、国土地理院が公共的に設置している基準点を元に、その場所の正確な3次元座標を求めておく。


この標定点はドローンから撮影する写真に写し込む必要があるが、そのための目印が「対空標識」だ。対空標識は、中心が正確に標定点になるように地面に設置する。サイズも十分に大きく、写真にはっきり写っていなければならない。
フライトを終えて写真をコンピュータに取り込み、3次元モデルを作成する際に、写真上の対空標識にあらかじめ求めておいたそれぞれの3次元座標を埋め込む。するとデータ全体に補正がかけられ、3次元モデルがぴったり現実と同じ座標を持つようになるのだ。




写真撮影時のオーバーラップ/サイドラップ

ドローンの空中写真測量では、撮影した写真同士はある程度重なり合っていなければならない。I-Constructionの場合、ドローンの縦方向(進行方向)に隣り合った写真は80%以上重なっている必要がある(オーバーラップ率)。また、左右に隣り合った写真同士は60%以上重なるようにする(サイドラップ率)。このように十分な重なりを確保することで正確な3次元モデルの作成が可能になるのだ。




点の集まりで3次元形状を再現

ドローンで撮影した写真をコンピュータで処理して得られた3次元データは、点群データ(点群モデル)と呼ばれる。たくさんの点で構成された3次元データで、構成する点の一つ一つが正確な3次元座標を持っている。これはビューワーを使ってあらゆる方向から確認することができ、現状把握と施工計画の重要なデータになるのだ。

ドローンによる空中写真測量から作成した3次元データ=点群データ。画像を構成する点がすべて3次元座標を持っている
ドローンによる空中写真測量から作成した3次元データ=点群データ。画像を構成する点がすべて3次元座標を持っている
ドローン測量は従来の測量と比較して手間がかからないため、場合によっては、施工者が自分で測量することも可能になる。

日南茂雄(アクティオ ICT施工推進課):通常、起工測量は専門の測量会社様に外注する場合が多いと思うんですが、ドローン測量の場合は、施工会社様が直接ご自分で測量することも可能です。起工測量に求められる精度は±10cmとされていますが、この精度なら、機材がしっかりしていればだいたい、誰が測っても同じ結果が得られます。状況にもよりますが、施工会社様が直接ドローンで起工測量を行うことでコストダウンを計る、ということは十分考えられると思います。最近では、基準点を置かずに測量できるドローンも登場しています。私も試してみましたが起工測量の誤差の範囲内には収まっていましたので、これも使えると思います。ただ、現場の状況によってはドローンを飛ばして落としてしまった場合のリスクもあります。地上にいる人を怪我させてしまったとか。こういうリスクを考えるとドローンは飛ばしたくない、という考える施工会社様もおられますね。それと、工事完了後の出来形測量に関しては、高い精度と測量士の資格が必要になりますので、測量会社様の出番ということになります。



レーザースキャナ(LS)という選択肢

ドローンを使った空中写真測量の他に、レーザースキャナを使うという選択肢もある。レーザースキャナとは、レーザー光線を周囲に飛ばし、跳ね返ってくる時間差から地形などを測量する装置だ。現地に三脚に載せたレーザースキャナを設置して、周囲の地形を測量する。レーザースキャナは、「写らなければ測量できない」写真測量と違い、茂みや芝生があったとしても、レーザー光線が地面に到達する透き間があれば測量可能だ。1回の測量で100万から200万点を図れるため精度も高い。レーザースキャナをドローンに搭載して空中からレーザースキャナを使うシステムもある。ドローンとレーザースキャナと状況によって使いわけたり、併用したりすることでより精度の高い測量が可能になるのだ。

日南:ドローンによる空中写真測量の良いところは、一度に広範囲にデータが取れるというところです。広大な敷地をすばやく測量したい場合はドローンでやるべきだと思います。また、施工する場所が飛び飛びになっているような場合や、高低差が激しい場合はレーザースキャナのほうが良いと思います。例えば草地が広がっているような現場では、草を刈ったとしても、数センチは地面に残ってしまいますよね。これをドローンで測量した場合は、その残った下草分が誤差になって、盛り土量が変わってくるわけです。これが広範囲になれば、結構な割合でコストに跳ね返ってきます。そういう場合はレーザースキャナのほうが良いですね。




ドローンが支えるi-Construction

近年、急速に高性能化したドローン測量はi-Constructionに大きな貢献をしている。広大な場所を、1回のフライトで測量でき、ほぼオートマチックに3次元データを入手することができるのだ。ドローンによる3次元測量の効率化と精度の向上がi-Constructionの屋台骨を支えているといっても過言ではないだろう。

次回は、i-Constructionにおける3次元データのもう一つの要、設計データの3次元化の手順を見ていこう。


※記事の情報は2019年4月9日時点のものです。


i-Constructionが解る!【4】へ続く



〈ご参考までに...〉

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