2019.03.19

i-Constructionが解る!【1】土木の大進化時代 国交省が推進する「i-Construction」。ICTによる土木工事の変革だ。これまでアナログの代表と思われていた土木の現場が、先端テクノロジーの力で大進化を遂げようとしている。

i-Constructionが解る!【1】土木の大進化時代

I-Constructionとは何か?

i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、国土交通省がかかげる「生産性革命プロジェクト」のひとつで、土木分野の生産性を飛躍的に高めることを目的にしたものだ。2016年度から本格的に始動し、次の3本の柱がある。

1. 土木工事へのICT技術の全面的な活用
手作業が主だった土木の現場にICTを導入して飛躍的に生産性を高める

2. コンクリート工の規格の標準化
これまで標準化が遅れていたコンクリート工を規格化することで機械化や自動化を進めやすくする

3. 施工時期の平準化
偏りがちな公共工事の発注を平準化し、限られた労働力を無理なく活用できるようにする

この中で、1.にあげられている「土木工事へのICT技術の全面的な活用」が施策の中心だ。コンピュータ技術や通信技術を高度に取り入れた「ICT施工」を、土木工事のあらゆる局面で推進していく。そのことで、土木工事の生産性を飛躍的に高めることが狙いだ。本連載では、6回にわたってi-Constructionの考え方や、現場での作業がどう変わるのかをお伝えしていく予定だ。第1回目では、i-Constructionによって何か変わるのか、どんな世界を目指しているのかを見ていこう。

さっそく、アクティオでi-Constructionの推進を行っているICT施工推進課を訪ねた。

株式会社アクティオ 道路機械営業部 ICT施工推進課長 日南茂雄株式会社アクティオ 道路機械営業部 ICT施工推進課長 日南茂雄


Q:i-Constructionは、現状どんな工事で実施されているのでしょう?

日南(ひなみ):もともと、国土交通省が推進している施策なので、まずは、国が直轄する土木工事の一部がICT施工を前提に発注されはじめました。
I-Constructionの一環として、契約事項の中にICT施工が盛り込まれている工事です。そしてここに来て、国の工事から地方自治体の工事へと広がりを見せているというのが現状です。工種に関しても、道路土工、舗装工事、あるいは河川などでの浚渫(しゅんせつ)工事にICT施工が使われるケースが多いですね。今検討されているのは、橋梁や砂防ダム、建築基礎などです。今後i-Constructionが進んでいくにつれて、現場は大きく変わっていくと思います。私たちの顧客である施工会社さんや測量会社さんもICTの導入に向けては、積極的に取り組んでいこうと検討されてますね。特に作業手法がガラッと変わる中小の測量会社さんからの相談が目立つようになりました。ある種の危機感をもって対応していこうとのお考えのようです。いずれにしても少子高齢化で現場の人材不足が進んでいくなか、まったなしで取り組まざるを得ないものになっていますね。



i-Conが少子高齢化時代の現場を救う

i-Constructionの背景には、少子高齢化による深刻な人手不足がある。現在、土木の現場では作業者の高齢化がどんどん進み、新しい人もなかなか入ってこない。この慢性的な人材不足を解消するために、生産性を大幅に向上させ、より少ない人数で現在と同様の作業量、もしくはそれ以上をこなせるようにしよう、そして、労働者に優しい現場にしてより長く働いてもらおう、新しい人にどんどん入ってきてもらおう、というわけだ。

ある推計によれば、施工現場の高齢化がこのまま進んだ場合、10年後には110万人近い技能労働者が、加齢により現場を「卒業」してしまう可能性があるという。このままでは、ベテラン技能労働者の大量離職が起こり、大規模な人材不足が現実のものとなってしまう。一方で、都市開発やインフラ整備・補修、自然災害からの復旧など、土木工事のニーズは今後も減ることはなく、ゆるやかに拡大を続けるとみられている。早く手を打ち、持続可能性のある現場を構築しなおす必要があるのだ。そのためにi-Constructionが大きな力になる。

(一社)日本建設業連合会「再生と進化に向けて(H15)」のデータより編集部作成(一社)日本建設業連合会「再生と進化に向けて(H15)」のデータより編集部作成




i-Conで産業間の人材獲得競争の激化に備える

少子化は、働き手、すなわち生産年齢人口(15歳~65歳)の深刻な減少を招く。90年代に8,726万人でピークに達した日本の生産年齢人口は、2010年には8103万人へと減少。そしてこのまま行けば、2065年には4,530万人にまで減ってしまう可能性があるという。縮小が進む働き手のパイを巡って、産業間での人材獲得競争が激化するのは間違いない。そして、魅力のない産業は競争に敗れ、さらなる人材不足が進行してしまうのだ。

内閣府 「平成29年版高齢社会白書・高齢化の現状と将来像」の推計より編集部作成内閣府 「平成29年版高齢社会白書・高齢化の現状と将来像」の推計より編集部作成


残念ながら、土木の現場は労働時間、賃金、仕事環境、いずれの面でも魅力的とはいいがたい状態が慢性化している。「キツイ キケン キタナイ」という、いわゆる「3K」のイメージから脱していないのが現実だ。技能労働者の休日事情をデータで見てみると、週休2日で休めている割合は12%程度(-国交省-技術者・技能労働者の週休2日確保状況調査結果2016)に過ぎない。i-Constructionには、土木の現場からこのような3Kを駆逐する効果も期待されている。

i-Constructionによって現場に休日がもたらされるのだ。現場がより快適なものになっていけば、土木の仕事は、巨大構造物の建設や、人々の暮らしを守るインフラ整備、災害復興など、やりがいのある魅力的なものになりうるのではないだろうか。国土交通省は最近「休日・給料・希望」という「新しい土木の3K」を提唱しているが、i-Constructionはその実現のための手段としても期待されているのだ。



ICTがすべてを変える

i-Constructionでは、現場をどのようにして変革させるのだろうか?そのベースになる技術が「ICT施工」だ。そして、このカギを握っているのが「3次元データ」の存在だ。ICT施工は、3次元データを使ってコンピュータの中に施工現場を再現することから始まる。施工前の現場を測量して得た3次元の地形データと、3次元の設計データをコンピュータの中で比較したり、組み合わせたりすることで、施工計画や施工そのもの、そして施工後の各種確認などを自動化し、大幅に生産性を向上させるのだ。

3次元データの大きなメリットの一つが、工事の「見える化」だ。3次元データを使えば、従来2次元の設計図と測量図から読み取るしかなかった施工後の姿や、盛り土切り土の箇所なども、手に取るように「見える化」できる。関係者のイメージの共有が一目瞭然に行えるというわけだ。従来なら実際に施工してみなければ分からなかったような問題点も施工前に把握でき、事前に手を打つことができる。施工が始まってからの試行錯誤や手戻りから解放されるのだ。また、危険箇所もあらかじめ把握できるため、現場の安全も確保できる。

3次元の現況と設計データを重ね合わせたもの。下は断面図で現況と設計との差分を表示している3次元の現況と設計データを重ね合わせたもの。下は断面図で現況と設計との差分を表示している


さらに、3次元データがあれば、施工現場に「ICT建機」と呼ばれる、半自動で施工を行う機械の導入が可能になる。現場作業が大幅に楽になるのだ。

日南:i-Constructionにおいては、まず、3次元設計データを作るということが基本です。それがあれば、現場での丁張りが実質不要となります。そして施工も、確認も、まったく別次元の速さ、正確さが期待できます。例えば、曲面を施工しようとする場合、2次元の図面では面倒な計算や確認が必要なのですが、3次元データがあれば一発で施工できるわけです。丁張りがいらないだけでも大きな効率化ですし、施工時の補助員も必要なく、省人化もできます。また、ICT建機の「マシンコントロール」という技術を使えば、仕上げ作業などの難しいオペレーションが、初心者でも容易に出来るようになります。

3次元データを元に半自動で施工が行えるICT重機の運転席(バックホー)3次元データを元に半自動で施工が行えるICT重機の運転席(バックホー)




i-Conで公共工事入札が有利に

実は、i-Constructionに取り組む事で、営業面でも大きなメリットがある。公共工事でICT施工を実施した場合に、工事成績評点が加点される仕組みがあるのだ。下記の5つのプロセスを実施すれば、ICTを高度に活用した工事と見なされ、工事成績評点に加点される事になっている。

1. 3次元起工測量
ドローンなどを使った測量で、施工前の現場の3次元データを得る。

2. 3次元設計データ作成
2次元の図面で提供される設計データを元に、3次元設計データを作成。

3. ICT建機による施工
① ②で得られたデータを元に、ICT建機を使って現場を施工。

4. 3次元出来形管理などの施工管理
施工後、再びドローンなどを使った3次元測量を行い、出来形の3次元データを取得。設計通りに施工できているか等の確認を行う。

5. 3次元データの納品
発注元に各種データを定められたフォーマットで提出し、プロジェクト完了。

これらのプロセスを実施することで、次回からの入札が有利になるという仕組みだ。ライバルに先駆けて、i-Constructionのノウハウをいち早く手に入れる価値は十分にあるといえるだろう。

日南:i-Constructionの工事にはいくつかの種類があります。ひとつには、発注者指定型といって、最初からICT施工を前提として発注されるものがあります。もう一つは施工者希望型といって施工業者さんからの提案でICT施工を取り入れるケースがあります。これには二種類あって、入札時にICTの導入を決めて応札する場合と、落札後に発注者と話し合ってICTを導入するケースです。この場合前者は、入札時に加点されますし、後者は工事終了後に加点されます。ただ、現状では加点があるとはいえ、落札後にICTを導入する後者のケースは半分程度です。ここをいかに積極的な導入に振り向けていくかも、課題だと思います。



製造業に追いつけ

製造業に追いつけ
製造業が大きな進化を遂げたのは、3次元設計データを使って産業用ロボットをコントロールし、部品を加工する技術が進歩したからだ。人が行う作業はロボットにはできない複雑なものに限られ、工場の生産性は大きく向上した。治具工具を使ってすべてを手作りしていた製造業の現場が、ICTによって大きく進化したのだ。i-Constructionは、それと同じ次元の進化を土木業界にもたらすものだといえるだろう。土木の大進化時代が始まったのだ。

次回は、i-Constructionで使われる各種テクノロジーについて、もう少し詳しく見ていこう。


※記事の情報は2019年3月19日時点のものです。


i-Constructionが解る!【2】へ続く



〈ご参考までに...〉

i-Construction関連商品(アクティオ公式サイト)

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